小説『魔界の少女【完結】』
作者:YossiDragon()

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「う、ウソだろ…?あれ、でも霊テスト受けてないじゃん?」

「ああ…霊はダメだ…」

「え?」

俺は一瞬何がダメなのかと思った。

「ていうか、霊も護衛役だから偏差値80以上…なんだよな?」

「ううん、私は偏差値59だよ?」

「ご…59!?でも、護衛役になるには、単位を取って偏差値80以上なんじゃ…?」

「ああ…。こいつはな、普段は偏差値59なんだが、ある条件によってはその隠された力を発揮して、

偏差値80以上になるんだよ…」

俺は何が何なのか分からずとりあえず話を聞くことにした。

「そう、アレは凄く寒くて日本で言うコタツが凄く恋しかった冬の時期…、二学期も終わりだってことで、

終業式前のテストをやることになったんだよ…。その時事件は起こった!!



(くぅお〜ら、水蓮寺!お前はまたしてもこんなヘンテコな落書きばっかりして、

ちゃんとマジメにテストをせんか!!
)

(だって、全然面白くないし分かんないんだも〜ん!!)

(渇〜!!この世の中な、解けない問題なんて存在しないんだよ〜!!!)

(だって〜…)

(はぁ〜。お前はそれでも、あの最強いや最凶といわれてきた水蓮寺一族の娘なのか?)

(そんなの、私には関係ないも〜ん!!)

(先生に対して何という口の聞き方だ!!まぁ仕方がない…水蓮寺これを見ろ!!! )



その時私は見てしまった!そう、伝説の“アレ”を!!」

「伝説の“アレ”??」

俺はそのアレというのが凄く気になってしょうがなかった。



(このツナ缶が眼に入らぬか〜!!)

(あ〜それは、超限定の『プレミア極上ツナ缶』!!欲しい〜〜!!うわっ!!)

ドサッ!

(ダメ〜!!タダでは上げられません〜!!)

(ふんっ!…ケチ!)

(なっ、ケチとは何だケチとは〜!!仕方がない、もしもこのテストでお前が満点を取れれば、

このツナ缶をくれてやる!
)

(ホント〜?)

(…ああ…)

(やった〜!!)

そう言って、私は先生と約束をし、テストに取り組んだ。

結果……。

(終わったよ〜!)

(本当だろうな?ムムッ…一応やってはいるようだな…どれどれ、ムムッ…○、○、○…―)

そう、全て正解だったの!!しかも、クラスであのテスト満点だったの私だけ!奇跡に近くない?ね、ね?」

「ああ、そうだな…」

俺は何とも現金な奴だな〜と思いながら話の続きを聞く事にした。

(じゃ、約束通り、このツナ缶はもらうね〜)

(く〜っ、約束は約束だからな…持ってけドロボ〜!!)

…こうして、私は当日も同じ様にしてテストでいい結果を取り、無事に魔界学園を卒業できたのでした〜。

終わり♪」

何とも、非現実的な話だなと思った。その話を最後まで聞き終えた俺の反応を見た霄は、

俺の肩を叩いて言った。

「要するにだ、明日あのオカマ校長に提出するテストで五百点以上取るためには…、さっき霊が言っていた、

先生の方法に似たやり方を使えばいいんだよ」

「くっ、それって軽く餌で釣るのと同じことだよな?」

「まぁ、そうだな…」

―仕方がない、他に方法もないし…。


そう頭の中で考えた俺は思い切って霊に言った。

「霊…。もしも、明日提出するこの十教科のテストで五百点以上取れたらご褒美として、

特別に大量の魚料理を振舞ってやるぞ?」

「えっ、本当?」

よほど俺が作る大量の魚料理が食べたいのか、彼女は眼を輝かせて言った。

「分かった…。絶対だからね?」

「ああ…」

俺は彼女に約束すると言った。すると、それと同時にいきなり霊は服の袖を捲くり、おでこに鉢巻をすると、

眉毛をキリッと吊り上げて、真剣な眼差しで教科書を開くと、俺の手からシャーペンを抜き取り、

別の白紙だらけのノートに、さらさらと問題を解き始めた。俺はさっきまでの明るいムードメーカーの様な、

立ち位置の霊が、急に真面目ムードに変わったため、少し驚いたが、彼女もマジメにやれば、

ここまで変わるのだという事に改めて気付いた。俺は時間を確認し、

そろそろ夕食の時間だということを思い出し、急いで支度をした。俺が料理をせっせと作っている間でも、

彼女達は一言も言葉を話さず、黙々と勉強をしていた。俺はその姿を見て、何故か少しホッとして、

そのまま料理を作り続けた。俺が料理を完成させ、それぞれの分量に合わせて、ご飯を注ぎ分けると、

丁度ルリ達も勉強を終えている頃だった。

「おっ、丁度終わったみたいだな…。とりあえずご飯食べようぜ?」

「うん…!」

ルリは俺から食器を受け取ると、それぞれの目の前のテーブルの位置に置いた。

「頂きま〜す!!」

俺の掛け声を合図に全員が手を合わせる。今日の晩御飯のメニューは、

いつもとあまり変わらぬ和食の定番メニュー白ご飯と、煮魚と、カボチャの味噌汁。

そして極めつけはテスト以外の入試などでもよく使う、とんかつ…。

まぁ、かつっていう意味があるみたいだが…、それが確かなのかどうかは定かではない。

俺はテレビを付け、いろんな番組を見ながらご飯を食べた。今日もまた彼女達の会話は無し…。

まぁいいかこいつらもテスト勉強で、少し疲れてるだろうからな…。

「言っておくが、別にテスト勉強で疲れているからお前の話相手をしない訳ではないぞ?」

―!?だから、何で人の心を読んでんだ!!?まあ、今はそれはおいておくか…。

何だか俺も最近ツッコんでばっかりで疲れたからな…。たまには俺にも休養は必要だ…。


そう思い、俺はそれ以上の言葉を止めた。すると、

「ところで、響史…実は、お前に言っておきたいことがあるんだ」

「言っておきたいこと?」

「ああ…明日のことなんだが、学園に入るのは別に構わないんだが、

零の事をちゃんと考えてくれているのか?」

「あっ!?」

俺は彼女に言われ改めてその事について考えさせられた。そう、俺やルリ、また護衛役の霄達は、

光影学園の高等部で何の問題もないのだが、零は一人中等部だ。俺は、

まさにそのことを計算の中に入れるのをすっかり忘れていた。

「そっか〜どうしよう零、お前は一人で大丈夫か?」

「別に一人でも何の心配もないのはないのですが、少し問題が…」

「何だ、言ってみてくれ…」

「私ちゃんと、他の人間と馴染めるでしょうか?」

俺は彼女の質問がもっと深い意味を持つものなのかと少しドキドキしてしまったが、

どうやらその心配はないようだ。俺は少し安心したせいか、

「ふっ」

と苦笑し、少し顔を俯かせている零に言った。

「…大丈夫だ、安心しろ零…すぐに馴染めるさ」

「…そ、そうですね」

彼女も少し気が楽になったのか、少し頬を緩ませた。だんだん空気も和んできたところで、

俺はそろそろ寝ようかと思った。と、その時いきなり俺の服の裾を、毎度の様にルリが、

くいくいっと引っ張った。

「ん、どうした?」

「その、大丈夫かな?」

「大丈夫さ、自分に自信を持てって!」

「そ、そうだよね…」

彼女は、少し胸を撫で下ろしながら、床にペタンと座った。俺は改めて時間を確認し、

明日は早く起きようと思い、早めに寝ようと思い、皆に言った。

「なぁ、俺そろそろ寝るけど、お前ら寝ないのか?」

「ん〜、確かに、そろそろ寝た方がいいかもね〜」

霊が少し眠たそうに眼をトロンとさせながら、言った。

「お姉ちゃんが寝るなら私も寝る!!」

相変わらず霊が大好きな霰…。全く…世話の焼ける奴だ。霊も俺と同じで、苦労人なんだな…。

「じゃあ、テレビ消してくれ!」

「うん!」

テレビに一番近い場所にいた霰が膝を突いて、四つんばいの状態で歩き、テレビの電源を消すと、

ゆっくり立ち上がった。

「じゃ、先に上がってるからパジャマに着替えて後でこいよ?」

「分かった…」

俺は四人の護衛役と一人の悪魔のお姫様をリビングに残して先に洗面所に行き、パジャマを手に取ると、

二階の階段を一段一段確かめるように踏みしめて、ゆっくり上がっていった。



―時刻は九時…良い子はもう寝る時間帯だ…。だが、今日の俺達もまた早めに寝る…。

別に俺がテストを受けたわけでもないのに、何故か胸が張り裂けそうなくらい緊張して、

胸がドキドキしている。心臓の鼓動が早くなるのが聞こえる。そのせいもあるのか、

はたまた五人の悪魔の美少女に囲まれているせいなのか、凄く体が熱い…。

すると、俺の体に密着していたルリが少しクスクス笑いながら俺に言った。

「響史…凄くドクドク聞こえるよ?緊張…してるの?」

「…まぁな、おかしいよな。別に自分がどうなるって訳でもないのに…」

「ううん、そんなことないよ、皆の事が心配なんだよね?優しいね響史は…」

俺は彼女の言葉に少し照れくさそうに鼻を指で触った。



次の日の朝…早めに寝たおかげか今日はいつもよりも寝覚めがいい…。

腕を上に上げ、ピンと伸ばす…両側にはいつものようにルリ達悪魔が寝ている。周りからすれば、

ただの女の子が寝ているだけのように見えるがこいつらは一応悪魔だ…。

全く、いつもの俺ならばこの大きな枕もこのふかふかのベッドも、贅沢に独り占めできるのに、

今では俺と五人合計で、六人がこの一人用のベッドで一緒に寝ているもんだからたまらない…。

全く、どうしたもんか。こいつらにはよく弟や姉ちゃんのベッドで寝るように言っているのだが、

どうしても言うことを聞いてくれない。

―そんなにも俺のベッドがいいのか…。


よく夜に動く生き物は日差しをあまり好まないというが、こいつらは日差しに当たっても、

いたって平気でいる。

―天使と悪魔の子供だからか?まぁ、そんなことはどうでもいい。


時刻は七時…いつもなら七時半に起きてルリ達をたたき起こすか、自分が起こされるかしてリビングに行き、

食パンを口にくわえ、行儀が悪い事は承知の上で、カバンを肩に背負って走って学校に登校するのだが、

今日はそんな慌しい行動は取らなくても平気だ。よく話しに聞く、早起きは三文の徳とはこのことだ。

だが、今の俺にはまだ一つしかいいことがない。

―これから残り二つが来るのだろうか?


気付くと、時刻は七時十分…。

―少し考え事が長すぎたか?そろそろ、ルリ達を起こし始めないと、また間に合わなくなる…。


俺は取り合えず、一番起こすのに手間のかからなそうなルリから起こすことにし、

彼女の肩を優しく揺さぶった。

「んんっ…」

少し眉毛を動かし、不機嫌そうな声を上げる。しかし、そんなことを言われたって、

急がないと行けないのは変わらない。俺は強行手段に移った。さっきよりも少し強く揺さぶる。

すると、顔に似合わずのバカ力を利用し、俺を突き飛ばした。

「うわぁ〜!!」

ドンっ!!

「イテテテ…」

俺は腰の辺りを擦りながら手をつき、体を支える。

「…たく、何すんだよ!」

すると、その音に目が覚めたのかようやく皆が目覚めた。まったく、苦労人も大変だ。

「さぁ、お前ら早く起きろよ?急がないとまた昨日みたいにギリギリになるぞ?」

「うん…」

まだ、眠そうに目を擦る皆…。下に降りてリビングに行くと、俺は朝一番の牛乳を飲もうと、

冷蔵庫の置いてある台所に向かった。しかし、その途中で俺は嫌な物を見てしまった。

食器を洗ったりするシンクの洗い場が、大量の汚れた皿の山で溢れ返っていたのだ。

「こいつは…ここ最近忙しくて皿洗いを後回しにしてたからな…仕方がない、

今度の休みに全部まとめて洗うか…」

―ったく、どうせならこいつらも手伝ってくれたらいいのに…。


そんなことを思いながら、俺はまだ眠たそうに眼を瞑ったまま椅子に座って、

テーブルの上に置いた皿の上にある、おいしそうなパンを食べているルリ達を見た。

俺は、牛乳を透明のコップに注ぐと、それを片手に空いている席の椅子に座り、牛乳をゴクゴク飲んだ。

おいしそうに、喉が鳴る。

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