「金って、あんたまさか、何かヤバいことに首突っ込んでるんじゃないでしょうね?」
〈っていうか、何で燈が喋ってるんだよ!!〉
「仕方ないでしょ?今、爺ちゃん姉ちゃんと一緒にゲームしてんだから!!」
〈おいおい、勘弁してくれよ!大事な用があるのに…〉
俺は少し焦ってきた。
「そんなに、大事な用なら私が聞くけど?」
〈…まぁ、燈でいいか〉
「なっ、どういう意味よ!?失礼ね、今すぐにでもこの電話を壊してもいいのよ!?」
「いや、壊されるのは困るんじゃが…」
「いいから、爺ちゃんはさっさとそのゲーム終わらせて!!」
「ガ〜ン!!うわぁぁ〜ん、茜〜!燈がわしを苛める〜…!」
「もうっ、燈ちゃんお爺ちゃん苛めたらダメでしょ?」
「…ご、ごめんなさい…」
〈ヘヘッ、怒られてんの!!〉
「あんた、今すぐこっちに来なさい!あの世送りにしてあげるから!!」
〈冗談だよ、冗談…じゃあ、用件言うから…〉
俺はこれ以上、冗談を言っていると本当に燈にあの世送りにされそうで、さっさと用件を話した。
「……うん、…分かった」
ピッ!
「きょ〜ちゃん何て?」
「よく分かんないけど、お金がいるんだって…二百万程…」
「二百万じゃと!?………何じゃそんなもんか。…それぐらいなら、すぐに用意できるぞ?
ちょっと、タイムじゃ!!」
そう言って、爺ちゃんはゲームのスタートボタンを押し、ゲームを一時停止した。
そして、爺ちゃんは自分の肖像画が描かれた額縁を取り外し、側に置くと、執事を呼んだ。
「はっ、何か御用でしょうか?」
「うむ、すまんが肩車してくれんか?」
「は、はぁ…かしこまりました」
そう言って、執事は爺ちゃんを肩車した。すると、爺ちゃんはそのまま、奥の壁をタッチした。
それと同時に、今度は壁が少しずつ縦横にスライドし、少しばかり大きな金庫が姿を現した。
その金庫の鍵を一つ一つ丁寧に外していく爺ちゃんと、それをじ〜っと、眺める従姉妹達…。
すると、イタズラ好きな茜姉ちゃんが、爺ちゃんが一時停止していたゲームを、こっそり触り、
一時停止を解除した。
「あっ、茜お姉ちゃん。それ、じいちゃんが一時停止してたから触っちゃ…ムグッ!」
「し〜っ…!」
―まったく、あなた達は何やってるんですか?
茜姉ちゃんと奈緒の、少し遠慮がちに小突きあっている姿を見て、馬鹿馬鹿しいと言った表情で見つめる、
姫歌姉ちゃん…。そんなことをしている間に、爺ちゃんはさっさと金庫を開け終わり、
目的の二百万を取り出し、もう金庫に鍵をかけている状態だった。
「もう、終わったの?」
奈緒が少し驚いた様な口調で聞いた。
「ああ…もう終わったとも…後は、この金を響史に届けるだけなんじゃが、誰に行かせようか…」
「はいはい、奈緒行く奈緒行く!! 」
「う〜ん、奈緒に任せたいのは山々なんじゃが、何しろここ最近は物騒じゃからな…」
「だったら、私が行くわ!」
そう言って、前に進み出たのは、強気な性格が印象的な、おでこに鉢巻をしている燈だった。
「お〜行ってくれるか!すまんの〜ほれ、お駄賃を上げよう!」
爺ちゃんはポケットから軽くクシャクシャと、しわが出来ている千円札を取り出し、彼女の手に握らせた。
「いけませんわ、お爺様!燈をこんなに甘やかしては…」
「し、しかし…せっかく行ってくれると言うとるから…」
「そうよ、姫歌?ここは、私に任せてあんたは爺ちゃんの相手でもしてなさい!」
燈が軽く上目線で偉そうに言った。
「なっ、あなたちゃんとお姉様と言いなさい!言っておきますけど、私の方が年上なんですよ?」
「ふんっ、年上って言っても、たったの一歳年が離れてるだけじゃない!そんなの、別にどうでもいいし…」
燈はそう言って、姫歌姉ちゃんを軽くあしらい、さっさと扉を開けて出て行ってしまった。
「き〜っ、燈…帰ってきたら覚えてなさい〜!!」
「全く…どうでもいいでしょ、そんなこと…それよりも、まさか響史にこの二百万を届けるだけで、
お駄賃がもらえるなんて今日の私ついてるかも!しかも、本当の目的はそれだけじゃなくて、
あの響史(バカ)にこの拳を、一発くらわせるためなんだもんね〜!!…ふふふっ、
覚悟しておきなさい響史…私を怒らせるとどうなるか、その身に味あわせてあげるわ〜!!」
不気味な笑みを浮かべ、拳をゴキゴキ鳴らしながら、アタッシュケースを片手に、
俺のいつも学園に通う通学路に向かう燈…。果たして俺の運命は……。