小説『魔界の少女【完結】』
作者:YossiDragon()

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「え〜と、クラスは…零、お前一人だけ中等部だが、大丈夫か?」

「……ご心配なく…こう見えても自己紹介のセリフもきちんと決めていますので…」

「へぇ〜、何て言うんだ?」

俺は少し彼女が自分の自己紹介についてどんな風に話すのかが気になり質問した。

すると零は左の人差し指を立て、口元に当てると

「内緒です…」

とウィンクしながら言った。何ともこの仕草がたまらない…。

―いやいやいや、そんなことよりも、こいつらをさっさと教室に案内しないと…もうそろそろ、

一時間目が始まるぞ?


俺はそう自分に言い聞かせ、中等部の場所へと向かった。霊は十五歳…ということで、

中学三年生なので五階にまで上がる。何せ、中等部は全部で中三まであるのだが、

クラスが一学年ごとに六クラスもあるからだ。



そして、五階までやってきた俺達は零の新たなクラスとなる、三年一組の教室の扉の目の前で立ち止まった。

「ここだ…」

俺は自分がこのクラスになるわけではないのに、少しドキドキした。コンコンと、ノックをし、

相手の返答を待つ。

「は〜い…」

女の先生の声が聞こえてきた。扉が開き中から現れたのは少し若そうな女性教師だった。

「すみません…転校生を連れてきたんですけど…」

「あっ、はい…校長先生から話は聞いていますよ?」

そう言って、先生は零を見ると、笑顔で言った。

「あなたが、水蓮寺 零さんね?」

「はい…」

零は少しいつもよりも声が小さかった。

―本当に大丈夫だろうか…。


だが、心配しているのは俺だけではないらしく、姉の霄も心配そうな顔をしていた。

「じゃあ、後は私に任せてください…」

「あっ、分かりました…」

ガラガラ…ピシャッ!

と閉まる教室の扉…。俺達は方向転換し元来た道を戻っていった。

「なぁ、響史…零大丈夫だろうか?」

「えっ?大丈夫なんじゃないか?本人も、心配ないって言ってたし…」

「なら、いいのだが…」

いつもなら

「そうだな…」

的な言葉を言っていそうな霄が、珍しく心配そうな表情をしていたため、俺も少し心配になってきた。

しかし、次の瞬間その必要はないことが分かった。さっきの教室から急に笑い声が聞こえてきたのである。

俺は思わずビックリして肩を震わせてしまった。

「どうやら、余計な心配だったみたいだな…」

「そうだな…」

俺達はそのまま、階段を降りていき、高等部へと向かった。高等部は中等部とは別の棟に位置していて、

近くには昔使われていた旧校舎がある。

「よし、着いたぞ!ここが、これから俺達が毎日来る場所になる一年二組だ!」

「私達は、全員同じクラスなのか?」

「ああ…校長の計らいでな…」

―俺にとっては、すんごく迷惑なんだが、仕方ないか…。はぁ、いつもなら普通に入れる教室に、

こんなにも入りにくいと思う時がやってくるとはな…。


俺は少し尻込みしながら、一旦深呼吸しノックをした。

「はーい…」

気の抜けるような返事だな…と思いながら俺は扉を開けた。扉を開けた瞬間目の前に現れたのは、

俺のクラスの担任『下倉 達郎』先生だった。丸いメガネをかけ、少し目じりにしわのある先生で、

部活の顧問をしている。何部の顧問かは忘れてしまった。

「遅れてすみません…転校生の件で…」

「えっ、そんな話は聞いていませんが…?」

「えっ!?」

―何であんたの所にだけ連絡きてないんだよ!!よくある、友達との連絡網で、

一人だけ仲間はずれにされるパターンと同じだろうが!!!


「あっ、校長先生に聞けば分かると思います…」

「そうですか…分かりました。後で聞いておきましょう…ということは、あなたの後ろにいる女子生徒が、

転校生ですね?」

「あっ、まぁはい…」

「分かりました…とりあえず、中に入ってください」

俺はひとまず、一足先に教室に入り、自分の席にそそくさと座った。

「ふぅ〜…」

俺が自分の席でひといきついていると、急に亮太郎が話しかけてきた。

「おい、神童!何かしたのか?随分と遅かったな!?」

少し怪しいものを見るような目で俺を見る亮太郎…。

「いや、ちょっとな…―」

「皆さんに突然ですが、お知らせです…。このクラスに、新しいお友達が増えることになりました!」

―お友達って、小学校かって!!


「はい!はい!!先生、転校生は女子ですか?男子ですか!?」

亮太郎が興奮して席を立ち上がり、声を荒げて言った。

「え〜と……女子です…」

―何で、そんなに時間がかかるんだよ!?一目瞭然だろうが!!


「では…入ってきてください…」

ガラガラ!

教室の扉が開き、転校生というか…ルリ達が入ってきた。

「では、自己紹介お願いします…」

下倉先生の言葉と同時に、いきなり明るい声で自己紹介を始めたのはルリだった。

「は〜い、皆さんおはようございま〜す!新しく、この光影学園に転校してくることになりました!

『神童 瑠璃』で〜す!!これから一年間、よろしくお願いしま〜す!!」

その神童 瑠璃という言葉に皆だけではなく俺も驚いた。何せ、いきなり何の断りもなく、

ルリが勝手に俺の妹という設定にしていたからだ。

「「「な〜に〜!!!?」」」

亮太郎を含めた一年二組の男子生徒全員が、俺を睨み付ける。女子からも何人からか、

軽蔑的な眼差しでみられている。

―あ〜、視線が痛い…。


俺はいつしか、背中や額から、大量の冷や汗が溢れ出てきているのを感じていた。

いつ以来だろうか、こんなにも冷や汗をかいたのは…。

「いや〜、俺も何が何だかさっぱり…」

「誤魔化すな!確実に今の言葉しかとこの耳に届いたぞ?間違いなく、神童だってな!」

亮太郎の言葉に俺は思わず目をそらす。すると、シラを切る俺に苛立ちを隠せなかった亮太郎が、

俺の両頬を両手で押し付け、強制的に亮太郎と眼を合わした。

「こっちを向け神童!…どういうことなのか詳しい話を聞こうか?」

「いや…だから、俺の妹だって話だろ?全く無理矢理にも程があるよな〜?」

「無理矢理だと〜!?むしろ、心の中では嬉しいんだろうが!!しかも、妹ということはあんなに可愛い子と、

一つ屋根の下ということ…。それは、もう俺だったら天に召されてもいいぐらいの嬉しさだぞ?」

―相変わらずの変態の考えそうな言葉…。


「はぁ〜、分かった分かった…」

「ごほん!」

俺達の言い争いを止めるかのように下倉先生が咳払いをした。

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