「はぁはぁ…藍川 亮太郎…ただいま、戻りました!」
「丁度良かったですね…次は藍川君の自己紹介です…」
「え〜っ、俺の名前は『藍川 亮太郎』と申します!好きなものは…友達と遊ぶこと(女子限定)。
趣味は…読書(マンガ!)得意なものはスポーツ(テレビゲーム)です!!よろしくお願いしま〜す!!」
―殆ど遊びじゃねぇか!!!
クラスが一気に静まり返る……。
「え〜、では次の人お願いします…」
―次は学級委員長雛下だ…。こうなったらお前が頼みだ!雛下…頼むぞ?
すると、偶然彼女と目線があった。
―よし、こうなったらジェスチャーだ!!(頼む!何とかして自己紹介の時間を稼いでくれ!!)
よし!これで、ちゃんと伝わったはずだ!!
すると、彼女はOKサインをして俺にウィンクをした。
「私の名前は雛下 琴音です!好きなものは……その、お菓子作りです!」
―…え?終わり?ひょっとして、あんだけ?…ぉ、うおおぉおおいいい!!!どういうことだ?
さっき、ちゃんとジェスチャー伝わったんじゃないの?
俺はさっそく彼女にジェスチャーで言った。
(ちょっとちょっと、時間稼いでって言ったじゃん!!)
(え?私は、秘密にしていること一つバラせって、言ったんじゃなかったんですか?)
―何ぃいいいい!!?ちゃんと、ジェスチャー伝わってないし…。しかも、お菓子作りが秘密にしたいことって、
どういうこと?まぁ、いいや…。くそ、次は霰の番か…こいつには何を言っても無理そうだな…。
俺は溜息をつきながら頬杖をつき、とりあえず霰の自己紹介を聞くことにした。
「え…えっと、私の名前は…さっきも言いましたが『水蓮寺 霰』です…好きなものは…小動物です…。
特に猫です!」
―……うん、お前にしてはやった方だよ…っつうか、案外お前シャイなのか?まぁいいや。
次はルリの番か…。ていうか、こいつ『ルリ』って名前漢字で『瑠璃』って書くんだ…。んなことより、
こいつ何を話すんだろ…。
俺は少し興味を抱きながら、彼女の自己紹介に耳を傾けた。
「神童 瑠璃で〜す♪好きな事は皆で楽しく遊ぶことです!苦手な事は人間…じゃなくて、
人に触られることです…最近のお気に入りはこのハリセンです!!よろしく、お願いします!」
―……えっ?ハリセン?どっから出した今…。ていうか、人間に触れられるって俺人間じゃ…ないってこと?
まぁ、そのことについては、後でじっくり聞くとして…。次は霊か…。こいつ、一体何を話すんだ?
「ごほん…」
―咳払いなんかして…。
「私は『水蓮寺 霊』です。好きなものは魚!趣味はボール遊び!最近のお気に入りはコタツ!よろしく♪」
―…完全に猫の好きなものしか言ってねぇじゃねぇか〜!!!えっと、次は霄か…。何か嫌な予感しか、
しないんだけど…。
「『水蓮寺 霄』だ!好きなものは…おにぎり…好きな事は料理…―」
―絶対違う!!!これだけは間違いない!!この間の一件から俺は確信している。
「―これから一年間よろしく頼む…」
―相変わらず短いな…ってあれ?俺飛ばされてる?やった!このまま、終わってくれれば…―
「あっ、一つだけ言い忘れていました…。神童君は最後に自己紹介してくださいね?」
―何でだ〜!!!何でよりにもよって最後……いや、待て…。これはいいんじゃないのか?
だって、もう時間も無いし、次の時間は現国で下倉じゃねぇし!よし…このまま、終わってくれ!
そして…終了間際…。
「では、最後に神童君!お願いします…」
―くっ!結局、終わらなかったか…後二、三分なのに…なんてこった!何とかして時間を稼げないだろうか?
ダメだ…ここまで来たらもう遅い…。仕方がない…か。俺の頑張りもここまでだ…。
俺が覚悟を決めてその場に立ち上がろうとすると、
ピ〜ンポ〜ンパ〜ンポ〜ン♪
というチャイムの音!!やった〜!
パンパカパ〜ン!
まさに俺にとっては、今パラダイスが開かれている真っ最中なのだ!
だが、そこで俺にとっては不幸…クラスの奴には嬉しい知らせが来た…。
「えっ?本当ですか…はい、分かりました…ガチャ!」
受話器の置かれる音…。一体何があったのだろうか?少し心配になる…。いろんな意味で…。
「え〜っ、現国の教師である国保先生が急に熱で倒れられたので、
二時間目は私が担当の数学となりました…ですので、このまま自己紹介を続けましょう!」
―ぃいやだぁああぁああああああああああああああ!!!!!!こんな…こんな事が本当にありうるのか?
だが、実際に今起きている。くっ、馬鹿な…こんなにタイミング悪く教師が熱になんかかかってんじゃねぇ!
例え、はいつくばってでも、ここに来いよ〜!!!
普段の俺ならば、こんなこと言いはしないだろう。
だが、今は違う…。あの国保が来ないせいで、俺は今からつらいつらい、
嫌な苦しみとなる地獄の様な自己紹介をしなければならないのだ。何も自己紹介自体が嫌なわけではない…。
クラスの、このじ〜っと…何かを期待するかのような、軽蔑するかのようなこの目線が嫌なのだ。
―全く…どうして、俺ばっかりこんなことに巻き込まれなければならないのだ…。
絶対に何者かの陰謀に違いない…。もしも、実際にいるのだとしたら、俺はそいつを道連れにして、
地獄行きにしてやりたい!
「え〜っ、では…ひとまず、五分間休憩ですので…終わりましょう」
―どうせなら、このまま、自己紹介も終わりましょうって言ってくれればいいのによ!
そして、俺の地獄の五分前…。
「響史…いよいよ、だね?」
「何が?」
「何って、自己紹介だよ自己紹介!本番楽しみにしてるからね?」
―本番五分前に言う、マネージャーのセリフみたいになってんだけど…?
「そうだ…響史…」
「ん、何だ?」
「頑張れよ?グッ!」
―だから、その親指何?さっきからず〜〜〜〜っと気になってたけどさ、
今まで何気ない顔でシカトしてきたけど、何なの?
まずい…こいつらの相手してたら、自己紹介に何を言えばいいのか分からなくなる…。くそ、どうすれば…。
「は〜い、では席についてください!」
「チィッ!下倉め…戻ってきたか」
「じゃあ、挨拶お願いします…」
「起立…礼…お願いします!」
雛下の合図で、俺の二度目の地獄が始まった。これから俺は、息のつまるような思いで、
自己紹介をしなければならないのか…。
―くそ〜、このクラスの奴らの視線…。
「え〜俺の名前は…」
「ちょっと、神童君?声が小さいですよ?あっ、せっかくですから前で自己紹介してもらいましょうか!」
―しまった〜!!!今のは完全に俺の失敗だった。くっそ〜、下倉め!なかなか手ごわいな…まさか、
この俺をハメてくるとは…!
「…わ、分かりました」
―ここは、一旦前に出て何か作戦を…。
俺はゆっくり、前に歩いていき、教卓の後ろ側に立った。
「では…どうぞ」
「え〜、俺の名前は『神童 響史』です…よろしくお願いします」
―ふん…他の奴らもこれくらいしか言ってないんだ、こんなもんでいいだろ?
「え〜?神童君…もう終わりですか?もっと、何か言ってくださいよ!」
―何で俺の時だけ、そんなに追及してくるわけ?他の奴らにもそうしろよ!!!くそ…。仕方ねぇ…。
「えっと、好きなことは平和に暮らすこと…苦手なことは人と話すこと」
「嘘つけ!」
「なっ!?」
「お前、さっきも、あんなに可愛い子達としゃべってただろうが!!」
「そ、それは…!」
「そうだそうだ、嘘じゃなくて本当のこと言えよな!」
―くっ、てめぇら…後で覚えてろ!
俺は握りこぶしを作りながら、イラ立ちを押さえ、続きを話した。