小説『ソードアートオンライン~1人の転生者』
作者:saito()

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対峙


不意に下層側の入り口からガチャガチャと日本の鎧が擦れるような音がして、それが徐々にこちらに近づいてきているのがわかった。


それも1人、2人ではない。
複数だ。

俺たちは顔を見合わせ、入り口を注視した。


しばらく経つと、プレイヤーの一団が入ってきた。


現れた6人ほどのプレイヤーの中に久し振りに見た顔を見つけた。

こちらが声をかける前に向こうのバンダナをつけた野武士ツラの男が声をかけてきた。

「おう!キリトにサイトじゃないか?」

「久しぶりだなクライン。」

「なんだ、まだ生きてたのか?」

「相変わらず愛想のねえ野郎だな。」

愛想がないのは当然キリトのこどだが……

などと他愛の話をしていると……

先程、クラインたちが入ってきた入り口から新たな一団の訪れを告げる足音と、金属鎧の擦れる音が響いてきたのだ。


この規則正しい足音は…


アスナが緊張した面持ちで囁いた。

「みんな、気つけて!軍よ。」

アスナが軍の人間に聞こえないように注意を促した。



例のごとく、二列縦隊で部屋に入ってきた集団は、とても疲れきっていた。


安全エリアの私たちとは反対側の端に、彼らは停止した。

先頭にいた男が「休め」と言うと、残りのメンバーは盛大な音と共に倒れるように座り込んだ。

指示を出した男は、仲間に目もくれずにこちらに近づいてきた。

きっと彼がこのパーティーのリーダーだろう。
他のものと装備が微妙に違う。

金属鎧も高級なものだし、胸のあたりに他のものにはないアインクラッド全景を意匠化した紋章が描かれている。

彼はおれたちの前で止まると、ヘルメットを外した。

ふむ。身長は高めだが、30代前半くらいか?

ごく短い髪型に、角張った顔立ち、太い眉の下には小さく鋭い眼が光っている。

口元は固く結ばれており、こちらをジロリと睥睨すると、男は先頭に立っていたキリトに向かって口を開いた。

「私はアインクラッド解放軍所属、コーバッツ中佐だ。」

あれ?軍って比喩じゃなかったっけ?

などと俺は呑気なこと考えながら聞いていた。


「君らはもうこの先も攻略しているのか?」

「……あぁ。ボス部屋の手前まではマッピングしてある。」

「うむ。ではそのマップデータを提供して貰いたい。」

その男の口調は当然だと言わんばかりの物言いだった。

まあおれはどっちでもいいや〜、どうせこいつらじゃ倒せないし〜と内心思いながらやりとり見守っていた。


すると、後ろにいたクラインが、

「な……て……提供しろだと!?

手前ェ、マッピングする苦労が解ってて言ってんのか!?」


クラインの声を聞いたコーバッツが、眉をぴくりと動かすと、

「我々は君ら一般プレイヤーの解放の為に戦っている!
諸君が協力するのは当然の義務である!」

と声を張り上げて告げた。


ここ1年、軍が積極的に攻略に乗り出したことはないだろうが。


と呆れて彼を見ているとクラインとアスナが意義を唱えようとした。

「ちょっと、あなたねぇ……」
「て、てめぇらなぁ……」

それをキリトが手を上げ制すと、

「どうせ街に戻ったら公開しようと思っていたデータだ、構わないさ。」

「おいおい、そりゃあ人が良すぎるぜキリト。」

「マップデータで商売する気はないよ。」

そういってキリトはマッピングデーターをトレードした。

「ボスにちょっかい出すつもりならやめておいたほうがいいぜ。生半可な人数でどうこうなる相手じゃないぜ。」

キリトは一応忠告したが、

しかし……

「それは私が判断することだ。」



「だが見たところあんたの部下はみんな限界そうだぜ?」


俺もこの先の展開を知っている者として、人が無駄死にするのは見過ごせない…

俺の言葉に引っかかったのか、コーバッツが声を荒げて言った。


「私の部下に軟弱者はいない!おい!貴様らいつまで休んでやがる、さっさと立たんか!」

「だから言ってるだろ!お前たちじゃせいぜいHPを三割削れるかどうかが関の山だ!」


「な、なんだと?!貴様、軍の私を愚弄するか、」

ついにコーバッツが声が怒った。


「はっきり言ってやろう!お前たちのような雑魚じゃ何人束になっても勝ち目はない!」

「き、貴様、もう一度言ってみろ!軍に逆らうだけでらなく、愚弄するとは、」


コーバッツの怒りはもはや頂点だった。


他のメンバーも普段は冷静で物静かなサイトの口調に完全に呆気をとられていた……


「何度でもいってやる、そんな人数と消耗したプレイヤーじゃ犬死だ!お前が死ぬは勝ってだがそいつらが巻き込まれるのは見過ごせない。それだけだ。」

サイトは言いたいことを言い終えたのかいつもの冷静さを取り戻していた。

「どうしても行くというのなら、俺もついて行く。認めなければ安全地帯から出た瞬間お前を殺す!」


サイトの冷静だが、強い言葉にコーバッツもたじろいだが、その意思が固いことを理解したためか同行認めた。


「悪い、俺もっかいあそこ行ってくるわ。みんなはここで待っててくれ。」



「「「(俺)((私))(俺たち)も行く。」」」


「大丈夫だって、もし30分たっても帰ってこなかったら来てくれ。」

「「「分かった(わ)」」」

〜10分後〜


「やっぱし、心配だわ。」


アスハが堪えきれずに言った、周りもそれに頷いた。

やはりみんな心配なようだ。

結局そのままボス部屋にむかって出発してしまった。

途中リザードマンに引っかかってしまい10分ほどロスしたが、それでもサイトが出発してから20分後だ、

中程まで進んだ時、不安を的中させる音が回路内を反響しながらキリトたちの耳に届いた。

咄嗟に立ち止まり、耳を済ませる。

「あぁぁぁぁぁ…………」

と微かに聞こえたそれは、間違いなく悲鳴だった。

モンスターのものではない、“人間”の。

キリトたちは顔を見合わせると、一斉に駆け出した。

敏捷パラメータが上位のキリトとアスナ、アスハがクラインたちの前を行く形になったが、この際構っていられない。



やがて、彼方にあの大扉が現れた。

扉は左右に開き、内部の闇で燃え盛る青い炎の揺らめきが見て取れる。

そしてその奥で蠢く巨大な影と、それと闘う小さな黒い影がひとつ。

断続的に響く金属音と、悲鳴に

「バカッ……!」

とアスナが悲痛な叫びを上げた。

キリトたちは更にスピードを上げ、ほとんど地に足を付けず飛ぶように走る。

扉の手前でキリトたちが急激な減速をかけ、ブーツの鋲から火花を散らすと、入口ギリギリで停止した。

「サイト!大丈夫か!」

「キ、キリトか?俺は大丈夫だそれより軍の連中をたのむ!」

中は、地獄絵図だった。

床一面を、格子状に青白い炎が吹き出し、その中央でキリトたちに背を向けて屹立する、青い巨体の悪魔ザ・グリームアイズ。


悪魔を見ると、HPは約半分ちょっと減っており、それを全てサイトが減らしたのだと瞬時に理解した。

「やはり、結晶無効化エリアか。」

とキリトが眉間に皺を寄せる。

「そうだ。」

短く答えた。


その時、漸くクラインたちが追い付き、2人を見る。

「おい、どうなってるんだ!!」

キリトは手早く事態を伝えると、クラインの顔が歪む。

「アイツ…大丈夫なのかよ……」

今の状況では迂闊に手が出せない。

どう改心させたのか、コーバッツが部下を守る為にサイトと共に戦っていた。

しかし、悪魔は仁王立ちになると、地響きを伴う雄叫びと共に、口から眩い噴気を撒き散らした。


サイトのおかげか軍の人間は誰も欠けていなかった。

だが、全員がすでに限界でコーバッツとサイトが残りを守りながら戦っていた。

「くっ、守りながらだと……コーバッツ!お前らは下がれ!」


「私に撤退はない!」


「足手まといなんだよ!いいから下がれ!部下を守るんだ!」


その言葉にサイトなりの気遣いがあることを悟ったのかコーバッツは部下に撤退するようにいった。

「………すまない。」


「礼はいいから早くしろ!誰も死なせるなよ!」


キリトたちは中で残った者たちを1人で守るサイトを見た。

「だめ……だめよ……サイト君………」



入口の傍で、アスハが一筋涙を流すと、


「だめーーーーッ!!」


アスハの絶叫と共に3人は突風の如く駆け出した。

空中で抜いた各々の獲物と共にグリームアイズに突っ込んで行く。

「どうとでもなりやがれ!!」

とクラインたちが声を上げつつ追随してきた。

アスハたちの一撃は、不意を突く形で悪魔の背に命中した。

だが、HPはろくに減っていないようで、グリームアイズは怒りの叫びと共にアスハたちの方に向き直る。そして、猛烈なスピードでアスハに目掛けて斬馬刀を振り下ろした。

が、アスハは咄嗟にステップで避けるも、完全には避けきれず余波を受けて地面に倒れこんだ。


「アスハーーーー&amp;#8252;」


今度はサイトの絶叫が響き渡る。


『っ……馬鹿か!考えなしに突っ込むやつがあるか!!

下がれ!!』

叫ぶと、我に返ったアスハたちが後ろに下がった。

俺は奴の追撃に備え、刀を構える。

普通のプレイヤーなら一撃で死ぬであろう圧倒的な剣の威力を刀でいなしながら、的確に攻撃を与えていく。

視界の端で、クラインの仲間たちが軍の生き残ったメンバーを部屋の外へ出そうとしているのを確認し、グリームアイズがそちらに行かないように、攻撃して注意を引いた。

キリトたちも奴に攻撃を加えている。

が、

「ぐっ!!」

とうとう奴の一撃がキリトの体を捉えた。

彼のHPバーがグイッと減少する。

元々、キリトの装備とスキル構成はタンク(壁仕様)ではないのだ。

このままではとても支えきれないだろう。

最早、残された選択筋はひとつだけ。


もうこうなったら………


キリトはとっくに二刀流で戦っている。

やはり俺というイレギュラーな存在のせいで歴史が微妙ズレているんだ。そのことを痛感した瞬間だった。






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