小説『ソードアートオンライン~1人の転生者』
作者:saito()

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22

俺たちがサーシャさんと会話していると、子どもたちが慌てた様子で入ってきて口早にいった。

「こら、お客様に失礼じゃないの!」

「それどころじゃないよ!!」

先程の赤毛の少年が、目に涙を浮かべながら叫ぶ。

「ギン兄ィたちが、軍のやつらに捕まっちゃったよ!!」

「ーー場所は!?」

まるで別人のように毅然とした態度で立ち上がったサーシャが、少年に訪ねた。

「東5区の道具屋裏の空き地。

軍が10人くらいで通路をブロックしてる。コッタだけが逃げられたんだ。」

「解った、すぐ行くわ。

ーーーすみませんが……」

サーシャはサイトたちのほうに向き直ると、軽く頭を下げた。

「私は子供たちを助けに行かなければなりません。

お話はまた後ほど……」

「俺たちも行くよ、先生!!」

赤毛の少年が叫ぶと、次々とその後ろに居る子供たちが同意の声を上げる。


しかし、


「いけません!」

サーシャの叱責が飛ぶ。


「あなたたちはここで待ってなさい!」


立ち入ったことかもしれないが、サイトも口を挟んだ。

「ここで、君たちが出て行ってもどうすることもできない。
だからおとなしくまっているんだ。
俺たちが君たちの代わりにサーシャさんといっしょに行く。」


「そうだなサイトの言うとおりだな。サーシャさん同行しても?」

キリトとサイトの言葉にサーシャは
「ありがとうございます」
といった。

教会から飛び出したサーシャは、腰の短剣を揺らして一直線に走り出した。

キリトとサイト、ユイとレイを抱いたアスナとアスハもその後を追う。


木立の間を縫って東6区の市街地に入り、裏通りを走り抜けていった。

最短距離をショートカットで行っているらしく、NPCショップの店や民家の庭などを突っ切って進んでいる。

そのうちに、前方の細い路地を塞ぐ一団が目に入った。


情報通り、10人強の灰緑と黒鉄色で統一された装備は、間違いなく()の連中だ。


躊躇せずに路地に駆け込んだサーシャが足を止めると、それに気付いた軍のプレイヤーたちが振り向き、にやりと笑みを浮かべた。

「おっ、保母さんの登場だぜ。」

「……子供たちを返してください。」

硬い声でサーシャが言う。

「人聞きの悪いこと言うなって。

すぐに返してやるよ、ちょっと社会常識ってもんを教えてやったらな。」

「そうそう。市民には納税の義務があるからな。」

男たちが甲高い耳障りな笑い声を上げた。

固く握られたサーシャの拳がぶるぶると震えている。

「ギン!ケイン!ミナ!!そこにいるの!?」

サーシャが男たちの向こうに呼びかけると、すぐに怯えきった少女の声で応えが上がった。


「先生!先生……助けて!」


「お金なんていいから、全部渡してしまいなさい!」

「先生……だめなんだ……!」

今度は絞り出すような少年の声。

「くひひっ」

道を塞ぐ男の1人が、ひきつるような笑いを吐き出した。

「あんたら、ずいぶん税金を滞納してるからなぁ……。

金だけじゃ足りないよなぁ。」


「そうそう、装備も置いてってもらわないとなァー。

防具も全部……何から何までな。」

大方、奴らは少女を含む子供たちに、着衣を全て解除しろと要求しているのだろう。

サーシャたちも同じ推測に至ったらしく、殴りかからんばかりの勢いで男たちに詰め寄った。

「そこを……そこをどきなさい!

さもないと……」

「さもないと何だい、保母先生?

あんたが代わりに税金を払うかい?」


「キリト、とりあえず子どもたちだけでも助けよう。」

サイトが小声でキリトに耳打ちをした。

キリトは返事をしずに頷いた。

そして、俺とキリトは鍛えあげたステータスにものを言わせ呆然とした表情で見上げるサーシャと軍の連中の頭上を軽々と飛び越え、四方を壁に囲まれた空き地へと降り立った。

「うわっ!?」

その場にいた数人の男たちが驚愕の表情で飛びず去る。

空き地の片隅には、10代前半くらいの2人の少年と1人の少女が、身を寄せ合って固まっていた。


防具はすでに徐装され、簡素なインナーだけの姿だ。

その子たちを抱えて再び高く飛びもとの場所に飛んだ。

子どもたちをおろした俺とキリトは防具や武器をつけるように子供たちにうながした。

そして、俺は鋭い眼差しで軍の連中を睨みつける

「おい……オイオイオイ!!」

その時、ようやく我に返った軍のプレイヤーの1人が喚き声を上げた。

「なんだお前らは!!

()の任務を妨害すんのか!!」


「なに?これが任務だと?子どもたちを辱め徴税紛いなことをする。どこが任務だ!ただのチンピラじゃないか?」

サイトはいつになく強い口調で軍の連中にせまる。

「まあ、待て。」

先程喚いたプレイヤーを押しとどめ、一際重武装の男が進み出てきた。

どうやらこいつがリーダー格らしい。

「あんたら見ない顔だけど、解放軍に楯突く意味が解ってんだろうな?

何なら本部でじっくり話し聞いてもいいんだぜ。」

リーダーの細い眼が凶暴な光を帯びた。

腰から大振りのブロードソードを引き抜くと、わざとらしくぺたぺたと刀身を手の平に打ち付けながら歩み寄る。

剣の表面が低い西日を反射してギラギラと光った。

それは、一度の損傷も修理も経験していない武器特有の薄い輝き。

「それとも(圏外)行くか、圏外?おぉ!?」

ふっとサイトがリーダー格の男を見た途端に笑った。

「てめぇ!なにがおかしい?」

「いや、見たところあんたはそいつらの中じゃ最も腕が高そうだが」

「当たり前だ!俺がこのグループのリーダーだからな!」

「だが、そんな腕では俺たちの相手にはならないな。」

「な、んだと!貴様軍をバカにする気か?!だったら斬られても文句はないんだな!」

「ふぅ…わからない人だな。だったらデュエルで決めるか?」

「望むところだ!軍に逆らったことを後悔させてやる。」


「んで、ルールは?初撃?それとも……【後者だ!】」

サイトが言い終わるまえにリーダー格の男が言い放った。


「いいだろう。」

サイトはストレージから一振りの刀を取り出し腰に構えた。

相手からデュエルが申し込まれサイトはOKのボタンを押しカウントダウンが始まった。

3、2、1、0

デュエルスタートの合図と共にサイトは一気に刀を抜き男を切り裂いた。

男のHPはレッドゾーン1ドットのところで止まった。

もちろんサイトがそうなるように手加減をしたのだが。

男は突然の痛みにうずくまり自分のHPバーを確認する。

どうやらそれを見て青ざめたらしい。

「な、バ、バカな。一撃で……」

「言っておくがこれでも手加減したんだぜ。やろうと思えば一撃で仕留めることもできた。」

男は武器を手から滑り落とし膝をガクンとついてうなだれた。

「や、やめてくれ。い、いのちだけは、たすけてくれ!」

サイトは刀振りかざしながらゆっくりと男に近づいていった。

「ひぃぃーーーー」

男は悲鳴をあげて走り去ろうとするがサイトは鍛え上げたステータスにより男の進行方向にジャンプした。

「助かりたいか?」

サイトは重く冷たい声で言い放った。

「は、はい。なんでもしますから……」

「それなら、二度と軍に徴税だのなんだのといった行動させるな!ただ慈善事業でできないならやるなと軍に伝えろ!」

「は、はいぃーー。」

男は、降参のボタンを押して走り去って行ってしまった。

「あ、あの〜サイトさん?」

「あ、ああ。申し訳ない変なところをお見せしまして……」

「い、いえ、それより本当にありがとうございました。」

「気にしなくていい。俺はあんな連中が大っ嫌いでね。」

「それにしても、サイト君って本当に軍が嫌いよね〜。」

「す、すげぇ〜!」

「兄ちゃんかっけえぇー!」

と言ってあっという間に子どもたちに囲まれてしまった。


しかし、その時ユイとレイが宙に視線を向け、右手と左手をそれぞれ伸ばしていた。


アスハとアスナは慌ててその方角を見やるが、そこには何もない。

「みんなの……」

「こころ……が……」

「ユイ!どうしたんだ、ユイ!!」

「レイ!しっかりしろ!レイ!!」

キリトたちの呼びかけに2人は2、3度瞬きをして、きょとんとした表情を浮かべた。

俺も慌てて走りより、子供たちの手を握る。

『ユイ……何か、思い出しのか?』

「そうなの……レイ!?」

「…あたし……あたし……」

「レイたち…は……」


2人は眉を寄せ、俯く。

「あたし、たち……ここには……いなかった……」

「ずっと、ふたりで、くらいとこにいた……」

何かを思い出そうとするかのように顔をしかめ、唇を噛む。

と、突然ーーー

「「あ……うあ……ああああ!!」」


2人の顔が仰け反り、細い喉から高い悲鳴が迸った。


「「「『……!?』」」」


ザ、ザッという、SAO内では初めて聞くノイズ音に私は眉を寄せる。

直後、ユイたちの硬直した体のあちこちが崩壊するように激しく振動した。


「ユイちゃーーん……ッ!」


「レイーーーっ!」


アスハとアスナも悲鳴を上げ、その体を両手で必死に包み込む。

「ママ……こわい……ママ……!!」

「……ママ……ママぁ……こわい……こわいよお……!!」


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