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そこに立っていたのは長身の女性プレイヤーだった。
銀色の長い髪を高い位置で一括りにし、怜悧な顔立ちの中で空色の瞳が印象的な光を放っている。
この世界では顔は変えられないが、髪型・髪色・瞳の色は自由に変えられる。
サイトは一目見ただけでその女性のことを思い出した。
軍の人間だ。
確か昨日の一件についてと、軍に関する相談を持ってくるんだっけ?
などとサイトが一人思考をしていると、キリトが中に戻るぞと声をかけてきて、我に帰った。
みんながいる食堂に彼女を案内して、サイトたちの向かいに座ってもらった。
子供たちは、皆一様に警戒の色を浮かべている。
だが、サーシャは子供たちに向かって笑いかけると、安心させるように言葉を紡いだ。
「みんな、この方は大丈夫よ。
食事を続けなさい。」
一見頼りなさそうに見えるかもしれないが、彼女は子供たちから全幅の信頼を置かれている。
その彼女の言葉に、皆一様にほっとしたようで、すぐさま食堂に喧騒が戻った。
「どうも。私はユリエールです。」
「ああ。俺はサイト、こっちはアスハ、そしてこの子がレイだ。」
「アスハです。」
サイトの紹介にアスハは若干の警戒の色を見せながらも挨拶を交わした。
キリトたちも同様にだ。
「ところでサイトさんってあの妖刀使いの?」
「ああ。そうだ。そして俺たちはギルド血盟騎士団だ。」
それを聞くとユリエールは顔色を変えてサイトたちを見た。
「なるほど、どうりでうちの連中が軽くあしらわれるわけだ。敵うはずがない……」
「それと昨日の一件で文句を言いにきたならお門ちがいだぜ。」
「とんでもないです。むしろ感謝しています。」
それを聞いた途端サイトは不思議に思った。
「恨みこそされ、感謝される覚えはないが?」
「いえ、私も以前からああいった行動を遺憾に思っており、今回の一件で考え方が変わるきっかけをいただき感謝しにきた次第です。」
「そうか、やはり軍内部でも派閥に考え方の違いや行動があったようだな。」
「ええ…そのことで実はお願いが……」
サイトが一人外交的な話し合いをしており、ほかのメンツは黙ってみているしかなかったようだ。
まあ、サイトの弁舌のおかけでこれまで幾度となく交渉はうまくいっているからいいのだが……
3人相変わらずだ、思って見守っている。
「んで、相談というのは?」
サイトは飲み物の入ったコップを口にあてながら尋ねた。
「はい。
最初から、説明します。
軍というのは、昔からそんな名前だったわけではありません……。
軍ことALFが今の名前になったのは、かつてのサブリーダーで現在の実質的支配者、キバオウという男が実権を握ってからのことです。」
なるほどな、サイトは自分の原作知識と照らし合わせた。
キバオウたしか、βテスター達を憎み自分達が強くなれないのがβテスター達が独占しているからとか言って人のせいにばかりしているやつだ。
「わかった。で本題はなんだ?」
「はい。3日前、追い詰められたキバオウは、シンカーを罠に掛けるという強攻策に出ました。
出口をダンジョンの奥深くに設定してある回廊結晶を使って、逆にシンカーを放逐してしまったのです。
その時シンカーは、キバオウの『丸腰で話し合おう』という言葉を信じたせいで非武装で、とても1人でダンジョン最深部のモンスター群を突破して戻るのは不可能な状態でした。
転移結晶も持ってなかったようで……」
アスナが思わず訪ねる。
「み、3日も前に……!?
それで、シンカーさんは……?」
ユリエールは小さく頷いた。
「の彼の名前はまだ無事なので、どうやら安全地帯までは辿り着けたようです。
ただ、場所がかなりハイレベルなダンジョンの奥なので身動きが取れないようで……ご存知のとおりダンジョンにはメッセージを送れませんし、中からはギルドストレージ(ギルド倉庫)にアクセスできませんから、転移結晶を届けることもできないのです。」
キバオウが、回廊結晶の出口を死地の真ん中に設定したやり方はと呼ばれるメジャーな手法だ。
当然シンカーも知っていたはずなんだが、恐らく反目していたとは言え、同じギルドのサブリーダーがそこまでするとは思わなかったのだろう。
あるいは、思いたくなかったのか……。
「いい人過ぎたんです。
……ギルドのリーダーの証であるを操作できるのはシンカーとキバオウだけ。
このままシンカーが戻らなければ、ギルドの人事や会計まで全てキバオウにいいようにされてしまいます。
シンカーが罠に落ちるのを防げなかったのは彼の副官である私の責任。
私は彼を救出に行かなければなりません。
でも、彼が幽閉されたダンジョンはとても私のレベルでは突破できませんし、のプレイヤーの助力はあてにできません。」
「それで、俺たちに協力してもらおうと来たわけか……?」
「無茶なお願いなのは重々承知の上です。どうかあなた方のお力を貸してはいただけませんか?……」
サイトはすこし戸惑った。
「助けてやりたいのは山々だが、この話が本当だと言う確証が得られないと俺1人の判断でアスハたちを危険には合わせられない。」
今まで話を聞いていたアスハが口をひらいた。
「サイト君信じてあげようよ。ユリエールさんいい人そうだし。ね?お姉ちゃんもそう思うでしょ?」
「そうだね。キリト君もいい?」
「だな。サイト、疑うくらいなら信じてやろうぜ?」
「みんな……。わかった、行こう。」
「あ、ありがとうございます!」
ユリエールの顔がぱあと明るくなり、深々と頭を下げた。
子どもたちにもこの人がいい人だから助けてあげてとお願いされ気合の入ったサイトだった。