25
準備を整えたサイトたちは早速出発した。
3日も取り残されていては……
そう思い一刻も早く救助をというわけだ。
今はじまりの街の裏通りを足早に歩いている。
裏通りのためかプレイヤーはおろかNPCもほとんど見かけない。
ちなみに子供たちもいっしょにいる。
どうしてもついて行くと言われ、眩しい眼差しで見つめられてはダメだとは言えなかった。
レイはサイトに、ユイはキリトにだっこされながらユリエールのあとをついて行っている。
サイトは予感していた。
ここに子供たちをつれていけばどうなるかを……
「あ、そう言えば肝心なことを聞いてなかったな。」
キリトが、前を歩くユリエールに声を掛けた。
「問題のダンジョンってのは何層にあるんだ?」
「ここです。」
予想外の返答にサイトを除く三人は驚く。
「ここ……って?」
「この、はじまりの街の……中心部の地下に、大きなダンジョンがあるんです。
シンカーは……多分、その1番奥に……」
「マジかよ……」
キリトが呟く。
『βテストの時にはなかったな。』
「ああ。不覚だ。」
「そのダンジョンの入口は、黒鉄宮ーーーつまり、軍の本拠地の地下にあるんです。
恐らく、上層攻略の進み具合によって開放されるタイプのダンジョンなんでしょう。
発見されたのはキバオウが実権を握ってからのことで、彼はそこを自分の派閥で独占しようと計画していました。
長い間シンカーにも、もちろん私にも秘密にして……」
「なるほど。未踏破のダンジョンには一度しかポップしないレアアイテムも多いからな。」
『さぞかし儲かっただろうな。』
「それが、そうでもなかったんです。」
ユリエールの口調が、僅かに痛快といった色合いを帯びる。
「基部フロアにあるにしては、そのダンジョンの難易度は恐ろしく高くて……。
基本配置のモンスターだけでも、60層相当くらいのレベルがありました。
キバオウ自身が率いた先遣隊は、散々追い回されて、命からがら転移脱出する羽目になったそうです。
使いまくったクリスタルのせいで大赤字だったとか。」
「「ははは、なるほどな」」
キリトとサイトの笑い声に、笑顔で応じたユリエールだったが、すぐに表情を曇らせた。
「でも、今は、そのことがシンカーの救出を難しくしています。
キバオウが使った回廊結晶は、モンスターから逃げ回りながら相当奥まで入り込んだ所でマークしたものらしくて……。
シンカーがいるのはそのマーク地点の先なのです。
レベル的には、1対1なら私でもどうにか倒せなくもないモンスターなんですが、連戦はとても無理です。
ーーー失礼ですが、皆さんは……」
「ああ、まあ、60層くらいなら……」
「余裕だな。」
サイトたちの言葉にさすが最強ギルドのなかでもトップ争う人たちだと感心したユリエールだった。
60層のダンジョンを、マージンを充分とって攻略するには大体、70レベルあれば問題ない。
ちなみに現在のサイトたちのレベルは
サイトが102
キリトが98
アスナが92
アスハは92
という度合いだ。
サイトだけすこし高いのは、昔1人で隠しダンジョンに潜ってレベル上げをしたからだ。
まあ、これならば子供たちを守りながらダンジョンを突破できるだろう。
……だが……胸騒ぎがする。
安心できない。
すると、ユリエールが気がかりそうな表情をし、言葉を続けた。
「……それと、もう1つだけ気がかりなことがあるんです。
先遣隊に参加していたプレイヤーから聞き出したんですが、ダンジョンの奥で……巨大なモンスター、ボス級の奴を見たと……」
「ボス、ですか?」
アスハが顔色をかえた。
「そ、それってアストラル系のモンスターですか?」
「そ、そこまでは……」
「ははは、アスハはお化けとが大っ嫌いだからな。」
そういってサイトがアスハの頬に軽くキスをする。
レイは眠ってしまっていたので良かったが、キリトがユイの目をとっさに隠し、残る女性2人も顔を紅らめていた。
「ば、バカ……///」
アスハは恥ずかしさで顔を真っ赤にしながらボソッとつぶやいた。
場が一瞬、サイトとアスハによって桃色になってしまったがアスナがうまく切り替えしてくれた。
「まあ、でも、なんとかなるでしょう。」
ユリエールにアスナが、もう一度頷き掛ける。
「そうですか、良かった!」
ようやく口許を緩めたユリエールは、何か眩しい物でも見るかのように目を細め、言葉を紡いだ。
「そうかぁ……。
皆さんは、ずっとボス戦を経験してらしてるんですね……。
すみません
貴重な時間を割いていただいて……」
「いえ、今は休暇中ですから」
アスナが慌てて手を振っている。
そんな話しをしている内に、サイトたちは前方の街並みの向こうに、黒光りする巨大な建築物を見つけた。
ついにシンカーが身動きを取れずにいるというダンジョンの入り口にやってきた。