小説『ソードアートオンライン~1人の転生者』
作者:saito()

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だめだ!

そのまま進むなーー!

虚しくもサイトの声はユリエールには届かなかった……

その時だった。

直角に交わっている道の右側死角部に、不意に黄色いカーソルがひとつだけ出現した。


表示名は(The DEATH-scythe)


死の鎌と言うその名には定冠詞がある。


ボスモンスターの、証だ。


「だめーーーっ!!

ユリエールさん、戻って!!」

アスナの絶叫が通路に響く。

黄色いカーソルは、すうっと左に動き、十字の交差点へと近づいていた。


このままじゃ、あと数秒でユリエールと衝突するっ!


『っ……!』

サイトは走ろうと足で地面を蹴ろうとするより早くキリトが動いた。

否、消えたというほうが正しいだろう。

瞬間移動のような勢いで数mの距離を移動したキリトは、背後から右手でユリエールの体を抱きかかえると、左手の剣を床石に思いっきり突き刺した。

凄まじい金属音と共に、大量の火花が散る。

空気が焦げるほどの急制動をかけ、十字路ギリギリで2人が停止した。


その直前の空間を、ごおおおおっと地響きと共に、巨大な黒い影が横切る。


姿の見えないモンスターは、左の通路に飛び込むと、10m程移動してからゆっくりと向きを変え、そして再び突進してくる気配を醸し出していた。


キリトはユリエールの体を離すと、床に突き刺さった剣を抜き、左の通路に飛び込んでいく。


サイトたちも慌ててその後を追った。


呆然と倒れるユリエールを兄が抱え起こし、交差点の向こうへと押しやるとアスハとアスナは子供たちを彼女に預ける。


「子供たちと一緒に安全地帯に退避してください!」


『子供たちを頼む、ユリエール!!』


サイトたちの言葉に、ユリエールは蒼白な顔で頷き、2人を抱き上げて部屋に向かった。

それを確認して、サイトたちはそれぞれのエモノを抜きながら左へと向き直る。


二刀を構えて立ち止まったキリトの姿が目に入った。


その奥にいるのはーーー


身長2m半くらいの、ボロボロのローブを纏った人型のシルエット。((イメージとしてはガンダムデスサイズヘルです))

フードの奥と袖口から覗く腕には、密度のある深い闇がまとわりつき、蠢いていた。

暗く沈む顔の奥には、生々しい血管の浮き出た眼球がはまり、ギョロリとサイトたちを捉えている。

右手には長大な黒い鎌が握られており、その湾曲した刃からはポタリポタリと赤い雫が血のような粘着質をもって垂れ落ちていた。


全体的に見れば、死神に近いその姿はアスハとアスナの心に暗雲を立ち込めた。

サイトは心構えがあっただけまだましだった。

しかし、このあとの展開を知っているサイトは全員に言った。

「みんな、今すぐクリスタルで脱出しろ!俺が時間を稼ぐ!」

突然のサイトの言葉に呆然とする3人。

しかし、いち早く言葉を飲み込めたアスハがいった。

「どういう、こと…?」

その声には力がこもっていない…

「いいか、こいつの強さはおそらく90層後半レベルだ。現段階で勝てる相手ではない。」

「だったら、サイト君だって。」

必死に言い返そうとするアスハだが虚しくもサイトによって打ち砕かれる。

「俺1人ならなんとか、時間を稼ぐことができる、だがみんなを守りながらだと、無理だ。」

冷たく言い放たれた言葉に三人は動揺を隠せないようだ。

無理もない、今まで長いこと一緒だったのに、初めて足手まといだと言われたのだから……

「頼む。脱出してくれ。君たちを死なせたくない。」

サイトは必死にだが力なく訴えた。

サイトは振りかぶられた、鎌を鉄砕牙で払いのけ戦っている。

結局三人はサイトの指示に従わずに戦いに参加している。

だが、直撃は避けているとはいえもともと軽装であるアスハとアスナはあっと言う間にイエローまでゲージを削られている。

キリトもうまく攻撃をかわせているいるとはいえ、すでに4割を削られている。

まずい……、サイトは思った。

サイトは奥義、風の傷を放った。

しかし、目の前にいたはずの死神は突然姿を消し、剣を振り下ろしたサイトの横に出現した。

鎌が振り下ろされた。

サイトは硬直で動けずにまともに一撃をくらった。

一気にHPバーが危険域であるレッドゾーンまで減る。


もう一度、鎌が振り下ろされようとした瞬間


とことこと、歩いてくる音が聞こえた。

はっとして視線をそちらに向けると、危険に気づかない子猫のようなあどけない歩みが、眼に飛び込んできた。


細い手足に、白い短髪と黒い長髪。


ーー何で、ここにっ……


安全地帯においてきた、子供たちだった。

恐れなど微塵もない視線で、真っ直ぐに巨大な死神を見据えている。


「ばかっ!!はやく、逃げろ!!」


「2人とも、早くそこから離れるんだっ!!」

しかし、それにより死神の注意はサイトたちから子どもたちに逸れる。


必死に上体を起こそうとしている、サイトとキリトが叫んだ。


死神は再び重々しいモーションで鎌を振りかぶりつつある。

やめ、ろ……


サイトの声にならない叫びが……しかし無情にも鎌は振り下ろされた。

しかし、次の瞬間。

「「だいじょうぶだよ、パパ、ママ。」」

その言葉と同時に、子供たちの体がふわりと宙に浮いた。


ジャンプしたわけでも、攻撃を受けたわけでもない。

見えない翼があるように、ふわりと移動し、2mほどの高さでぴたりと静止したのだ。

あまりにも小さな右手と左手を2人は片方ずつ上げて、宙に掲げる。

『やめっ……!逃げてユイちゃんっ!!』

「お願いだから、逃げてレイ!!」

一瞬の静寂の中にアスハとアスナ2人の母親の叫びが響き渡る。

しかし、2人の必死の叫び嘲笑うかのように鎌はレイとユイを直撃する軌道を描きながら振り下ろされる。

その直前、鮮やかな紫色の障壁に阻まれ、大音響と共に大鎌が弾かれた。


2人の掌の前にはシステムタグが浮かんでおり、アスナたちは愕然とそれを凝視している。


【Immortal Object】と表示されたタグには不死存在と書かれていた。


それは絶対にプレイヤーが持つはずのない属性。


ごうっ!!

という響きと共に、ユイの手からは漆黒の炎が、レイの手からは白銀の炎が巻き起こった。

炎が辺りに拡散したあと2人の手にはそれぞれ一本ずつの剣が、
ユイの手には、キリトのエリュシデータを模した剣
レイの手にはサイトの鉄砕牙を模した剣が

子供たちは自分の身長をはるかに超える剣をぶんと一振りした。

死神は鎌の刃でなんとか受け止めよう防御の姿勢をとる。

しかし、2人の同時に振り下ろされた剣には耐えることができなかったようだ。

鎌ごとモンスターを真っ二つにした。

ボスは爆発するように消滅した。

サイトとキリトは自分の妻を守るように覆った。

衝撃派すぎ目をあけると


通路のそこかしこに小さな残り火が揺らめき、パチパチと音を立てている。


その真っ只中に、互いに手を繋ぎながら子供たちだけが俯いて、立ち尽くしていた。


床に突き立った2つの剣が、出現した時と同じように炎を発しながら溶け崩れ、消滅したのだった。

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