小説『ソードアートオンライン~1人の転生者』
作者:saito()

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リーファが足早にチューブから風の塔の最上部にあるデッキに飛び出すのに続いて、俺たちもエレベーターを降りる。

そこから4方に広がる大パノラマは眺めが良く、アルヴヘイムの南西に位置するこのシルフ領から西側は、しばらく草原が続いたあと直ぐに海岸となっており、その向こうは無限の大海原が青く輝いている。

東には深い森がどこまでも連なり、その奥には高い山脈が薄紫色に連なっていた。

その稜線の更なる彼方には、ほとんど空と同化した色で、一際高く聳える影が見える。

それがーーー“世界樹”


アスナが囚われている場所。


「うお……凄い眺めだな……」

降りてきたキリトが、眼を細めてぐるりと周囲を見回した。

「空が近いな……。手が届きそうだ……」


「でしょ。この空を見てると、ちっちゃく思えるよね、いろんなことが。」

「ふっ………たしかにな。」

「あっ!そういえばさっきのこと説明してもらおうかしら?!

どうして、サイト君が他種族の領地でプレイヤーをキルできるかね!」

リーファは先ほどのことを思い出したようで、ずんずんと顔をサイトに近づけてきた。

「ちょ……近いって&#8252;……」

「誤魔化さないで、ちゃんとした説明をいただこうかしら!」

俺は横目でキリトに助け舟を求めてみたが、キリトもリーファ剣幕に押され、すまないと手を合わせてきた

俺も諦めて説明することにした。

「……わかりました。説明します。

俺は暗殺スキルを極めているから他種族の領地でも戦闘行為ができるんだよ。

この暗殺スキルはホームを持たない極少数のダークエルフにのみ与えられたスキルだ。
なので、他のプレイヤーが知らないのも無理はない。」

実際ダークエルフはALO全体でもわずかに10人とその存在は最早希少動物のようだ。

そのため、アイテムのドロップ率が良いので、いろいろな狩場に連れて行ってもらえる反面狙われやすいのだ。

「ふぅーん。とりあえず、納得するわ。」

俺も一安心だ。

また、リーファが唐突につぶやいた。

「……いいきっかけだったよ。

いつかはここを出ていこうと思ってたの。

でも一人じゃ怖くて、なかなか決心がつかなかったんだけど……」


「そうか。……でも、なんだか、喧嘩別れみたいな形にさせちゃって……」

『私なんか、よけい火に油を注いじゃったしな……』

「あの様子じゃ、どっちにしろ穏便には抜けられなかったよ。


ーーーでも……なんで……」


リーファはぽつりと独り言のように呟いた。


「なんで、ああやって、縛ったり縛られたりしたがるのかな……。

せっかく、翅があるのにね……」


それに答えたのは俺でもキリトでもなく、俺の肩に座っていたレイだった。


「フクザツですね、人間は。」


しゃらんと音を立てて飛び立つと、俺の反対側の肩に着地し、小さな腕を組んで首を傾げる。

そして、今度はユイが。

「ヒトを求める心を、あんなふうにややこしく表現する心理は理解できません。」


リーファはきょとんとし、ユイの顔を覗き込んだ。


「求める……?」

「他者の心を求める衝動が人間の基本的な行動心理だとわたしたちは理解しています。

ゆえにそれはわたしのベースメントでもあるのですが、わたしなら……」

ユイはそっとキリトの頬に手を添えると、屈み込んで音高くキスをした。


「こうします。とてもシンプルで明確です。」


呆気に取られて目を丸くするリーファに、俺とキリトは苦笑する。

キリトはそのまま指先でユイの頭をつついた。

『なあ、ユイ。人間界はな、もう少しややこしい所なんだ。』

「そうだぞ、ユイ。気安くそんな真似したらハラスメントでバンされちゃうよ。」


「手順と様式ってやつですね。」


『……頼むから妙なことは覚えないでくれ、ユイ。』

キリトが苦笑いしている。

レイはユイと同じAIでもまた少し違うようだ。

普通の感情を理解することはできるが、人間の恋愛というものにはイマイチ的がずれているようだ。


やり取りを呆然と眺めていたリーファが口を開いた。

「す、すごいAIね。プライベートピクシーってみんなそうなの?」

「こいつは特にヘンなんだよ。」


言いながらキリトは自分の肩にいるユイの襟首を摘み上げると、ひょいっと胸ポケットに放り込む。

「そ、そうなんだ。

……………人を求める心、かぁ……」

リーファはユイの言葉を繰り返しながら、かがめていた腰を伸ばした。

夜明けの光を受けて金色に輝いていた雲もすっきり消え去り、深い青がどこまでも広がっている。


今日は良い天気になりそうだな。

展望台の中央に設置されたロケーターストーンという石碑を使って、俺はキリトに戻り位置のセーブをさせると、リーファが4枚の翅を広げて軽く震わせた。

「2人とも、準備はいい?」

「もちろん!」

「ああ。」


ユイとレイもおおー!と同調し、いざ離陸しようとした瞬間。

「リーファちゃん!」

エレベーターから転がるように飛び出してきた人物に呼び止められ、リーファは僅かに浮いた足を再び着地させた。

「あ……レコン。」

「ひ、ひどいよ、一言声かけてから出発してもいいじゃない。」

「ごめーん、忘れてた。」

がくりとコントのように肩を落としたレコンは、気を取り直したように顔を上げると、真剣な顔で口を開く。


「リーファちゃん、パーティー抜けたんだって?」

「ん……。その場の勢い半分だけどね。

あんたは、どうするの?」

「決まってるじゃない、この剣はリーファちゃんだけに捧げてるんだから……」

「えー、別にいらない。」


リーファの言葉に再びレコンはよろけたが、この程度で彼はメゲなかった。


「ま、まあそういうわけだから当然僕もついていくよ……と言いたいとこだけど、ちょっと気になることがあるんだよね……」

「……なに?」

「まだ確証はないんだけど……少し調べたいから、僕はもうしばらくシグルドのパーティーに残るよ。

ーーサイトさん、キリトさん。」


レコンが真面目な顔で此方に向き直る。


「彼女、トラブルに飛び込んでくクセがあるんで、気をつけてくださいね。」

「あ、ああ。」

『大丈夫だ。重々承知してる。』


俺たちが面白がって頷くと、レコンは再度口を開いた。


「ーーそれから、行っておきますけど彼女は僕の……ンギャッ!」


今のレコンの悲鳴は、リーファがレコンの足を踏みつけたことによるものだ。

「余計なこと言わなくていいのよ!しばらく中立域にいると思うから、何かあったらメールでね!」


リーファが早口でまくし立てる。

彼女は翅を広げてふわりと浮き上がった。

俺も背中の漆黒の翼をバサッと広げた。

名残惜しそうな顔をするレコンに向かって、リーファは大きく右手を振った。


「……あたしがいなくても、ちゃんと随意飛行の練習すんのよ。

あと、あんまサラマンダー領に近づいたらだめだよ!

じゃね!」

「り……リーファちゃんも元気でね!すぐ追いかけるからねー!」


と飛び立ったリーファに涙を浮かべて叫ぶレコン。

俺は彼にふわりと近づいた。


『ーーしっかりと用心しろよ。

いいな、レコン。……気をつけて。』


俺がそう言うと、レコンはしっかりと頷く。

俺はそれを確認し、キリトの元へと戻った。


リーファの後を追い、北東に方角を定めて翅を広角に固定して滑空を始める。


「さっき、あいつに何て言ってたんだ?」

『ちょっとした警告だ。気をつけるように、って』

さらにキリトが口を開く。

「彼、リアルでも友達なんだって?」

「……まあ、一応。」

『ふうん……そうか。』

俺はニヤリと笑みを浮かべてつぶやいた。

「サイト君?!違うからね?!変な誤解しないでよ?!」

リーファは顔を真っ赤にしながら慌てふためいている。

「いや、そういうの羨ましいなと思ってな。」

サイトに続けて、キリトの胸ポケットからユイが口を開いた。


「あの人の感情は理解できます。

好きなんですね、リーファさんのこと。

リーファさんはどうなんですか?」

「し、知らないわよ!!」

リーファが大声で叫ぶと、きっと照れているのだろう彼女は、それを隠すようにスピードを上げる。


先を行くリーファが、森の縁に差し掛かったところで、体を反転させた。


恐らく、スイルベーンに別れを告げているのだろう。

そして追いついた俺たちに、彼女は再び向き直る。


「ーーさ、急ごう!1回の飛行であの湖まで行くよ!」


遥か彼方にきらきらと輝く湖面を指差し、リーファが思いっきり翅を鳴らしたのだった。

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