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シルフ領の北東に広がるの上空。
後少しで森を抜けて高原地帯に差し掛かる辺り。
最早スイルベーンは遥か後方に遠ざかり、その影すらももう見ることはできなかった。
俺たちはもう既に、中立域の奥深くに分け入っている為、出現するモンスターの強さもかなり上がっているはずなのだが。
キリトが今相手にしている3匹の、羽が生えた単眼の大トカゲは大体で言うと、初級ダンジョンのボス級の戦闘力を持っている。
此奴の厄介なところはその一ツ眼から放たれる。
カース系の魔法攻撃で食らうと一時的だが、大幅なステータスダウンを強いられる。
基本戦術で言えば、距離を取って1人が援護に、もう1人が攻撃を行い、残る1人はその両方を状況に応じて臨機応変にやるのが常なのだが……正直、その必要は皆無に近いだろうな。
かつての愛刀、エリュシデータを手にしたキリトは防御や回避など俺の辞書にはない、と言わんばかりのバーサークっぷりを見せつけ、次々とトカゲを叩き落としていった。
尾を使って遠距離攻撃をするトカゲなど、意に介す風もなく、エリュシデータを振り回しながら突進しては時に数匹を一度に暴風に巻き込み、切り刻んでいく。
キリトの恐ろしく強力な一撃で、当初は5匹いたトカゲはあっという間に消滅し、その数を減らした。
今は、最後の一匹を相手にしており、その一匹もHPが残り二割ほどに減らされたところだったのだが、情けない悲鳴を上げて、そのトカゲは逃走に走ってしまった。
しかし、俺も闘鬼神を水平になぎ払いそれによって発生したかまいたちでトカゲを真っ二つにした。
よし、全滅だ。
「2人ともお疲れ様!」
リーファが笑顔で近づいてきた。
「それにしても、キリト君の戦い方って何ていうか、強いんだけど、ムチャクチャな戦い方って言うのかな?」
「そ、そうか……?」
『普通なら、もっと回避を意識してヒットアンドアウェイを繰り返すものなんだ。」
「そうだよ。なのに君のはヒットアンドヒットだもん」
キリトはあははとリーファに笑われてバツの悪そうな顔をした。
「けと、その分早く片付いていいじゃないか。」
『今みたいな一種構成のモンスターならな。
近接型と遠距離型の混成だったり、プレイヤーのパーティーと戦闘になった場合は、魔法で狙い撃ちされるから、気をつけないと駄目だ。』
「魔法ってのは回避できないのか?」
「遠距離攻撃魔法には何種類かあって、威力重視で直線起動の奴は、方向さえ読めれば避けらるよ。」
『だが、ホーミング性能がついた魔法や、範囲攻撃は無理だな。』
「うん。それ系の魔法を使うメイジがいる場合は常に高速移動しながら交錯タイミングをはかる必要があるのよ。」
「ふむう……。
今までいたゲームには魔法ってなかったからなあ……。覚えることが沢山ありそうだ。」
キリトは難解な問題集を与えられた子供のような顔をして頭を掻いている。
「まあ、そのうちつかめるさ。」
「そうだよ。君、眼はすごくいいみたいだしね」
「んじゃま、先を急ぐとしますか、」
3人は翅を鳴らして移動を再開した。
傾き始めた太陽に照らされて、金緑色に輝く草原が、森の彼方に姿を見せつつあった。
その後はモンスターに出会うこともなく、俺たちはついに古森を脱して山岳地帯へと入った。
ちょうど飛翔力が限界に達し、山の裾野を形成する草原を見つけ、その端に降下する。
靴底を草に滑らせながら着地したリーファに続いて、俺はふわりと彼女のそばに着地した。
長時間の飛行はやはり疲れるな……
俺は翼を仕舞うと、隣のリーファに倣って少し伸びをする。
数秒遅れて着地したキリトも同じように腰に手を当てて背筋を伸ばしていた。
『疲れたか?』
「いや、まだまだ!」
「お、頑張るわね。……と言いたいとこだけど。」
『空の旅はしばらくお預けだな。』
「ありゃ、何で?」
「見えるでしょう、あの山。」
リーファが草原の先に聳え立つ真っ白に冠雪した山脈を指差す。
「あれが飛行限界高度よりも高いせいで、山越えには洞窟を抜けなきゃいけないの。」
『シルフ領からアルンへ向かう一番の難所だ。』
「あたしもここからは初めてよ。」
「なるほどね……。洞窟か、長いの?」
俺は頷いた。
『かなりな。
途中、鉱山都市がある。そこで休めるが……リーファは時間大丈夫か?』
リーファは左手を振ってウインドウを出すと時間を確認し、頷いた。
「リアルだと夜7時だけど、あたしはまだ平気だよ。キリト君は?」
「俺も当分平気。」
『そうか。じゃあ、もう少し頑張ろう。』
「じゃあ、ここで一回ローテアウトしよっか。」
「ろ、ろーて?」
『ああ、ローテアウトっていうのは、交代でログアウト休憩することだ。
中立地帯だからな……即落ちすることができないんだ。』
「だからかわりばんこに落ちて、残った人が空っぽのアバターを守るのよ。」
「なるほど、了解。」
『じゃあ、リーファから先に行っておいで。俺たちは後でいいから。』
「じゃあ、お言葉に甘えて。20分ほどよろしく!」
そう言ってリーファはウインドウを出し、ログアウトボタンを押した。
リーファの体だけがその場に残り、俺たちは周囲を警戒しながら腰をおろした。
その間に俺はキリトに今後の大まかな道順や知っておくといいことなどを伝えた、
「お待たせ〜モンスターでなかった??」
待機姿勢から立ち上がったリーファにそう声をかけられた。
俺たちはいきなり声をかけられてびっくりして飛び上がってしまった…
「お、おかえり。」
いち早く冷静さを取り戻したサイトはリーファに挨拶を交わした。
「今度は君たちの番だよ。2人いっしょにどうぞ。」
「いいのか?」
「1人で大丈夫か?」
リーファは任せなさい!と胸をドンと叩いた。
せっかくなので俺たちはその行為に甘えて2人で落ちることにした。
左手を振ってログアウトボタンを押しログアウトした。