小説『ソードアートオンライン~1人の転生者』
作者:saito()

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63

買い物終え帰宅した俺たちはそれぞれの部屋に戻った。

時間はちょうど3時過ぎだ。

メンテナンスも終わり、和人も帰宅していたので俺たちは再び明日奈を助けるべくダイブしようとしていた。

直葉も自分の部屋に戻っているようだ。


「リンクスタート」



行き交う混成パーティの間を縫うように数分進むと、前方に大きな石段と、その上に口を開けるゲートが見えてきた。


あれを潜れば、いよいよこの世界の中心、アルンの中央市街だ。


空を仰ぐと、屹立する世界樹はすでに巨大な壁にしか見えなくなっていた。


荘重な空気の中、階段を登り切り、門を潜ろうとした。


先ほど、秘匿回線で明日奈に連絡をとったのだがIDカードらしきものは手に入れることができなかったようだ。

そこも、やはり原作どうりにはいかないか………


そのためにも偽造のカードを作っておいたのは正解だった。

俺はこれをキリトに渡しそのデータをユイに使わせるように指示をしておいた。



そして目の前に見える大きな階段目指して歩き始める。


幅の広い石畳を上り詰めると、そこはもうアルン市街地の最上部だった。

巨大な円錐形を成すアルンの表面を這い回る世界樹の根が、私たちの眼前で寄り集まって1本の幹になっている。と言ってもあまりにも直径が太すぎるから、ここからでは単なる湾曲した壁にしか見えないけど。

その壁の一部に、俺たちの10倍はあろうかという身の丈の、妖精の騎士を象った彫刻が2体並んでいる場所がある。

像の間には、華麗な装飾を施した石造りの扉が聳えていた。


グランド・クエストの開始点にしては、他のプレイヤーの姿は一切なく、閑散としている。


まぁ、(突破不可能)と話が共通認識になっているから、そうやすやすとは来れないのが現実なのだろうな。

しかし、どうしてもあの扉を抜けてゲートに辿り着く必要がある。

たが、俺たちがどれだけ強くても、この人数では勝てない。

だから、今回は下見に行くだけだ。

俺はそのこともキリトに伝えた。


正直言って、この人数では絶対に無理だ。

万に一つの可能性があったとしても辿りつけるのは1人が限界だ。

俺はその役目をキリトに託したのだ。

自分の手で彼女を、明日奈を助けて欲しいのだ。


更に数十メートル歩き、大扉の前に立つ。

その途端、右側の石像が低音を轟かせながら身動きを始めた。

キリトが少々意表を衝かれて振り仰ぐのを横目に見ながら、俺も石像を見上げる。

石像は仰々しい兜の奥の両眼に青白い光を灯しながらこちらを見下ろし、口を開いた。

大岩を転がすような重々しい声が響き渡る。


【未だ天の高みを知らぬ者たちよ、王の城へ到らんと欲するか。】


同時に目の前に、最終クエストへの挑戦意思を質す為のYes、Noボタンが表示された。

迷うことなくYesのボタンに手を触れる。

すると、今度は左側の石像が大音響を発した。


【さればそなたらが背の双翼の、天翔に足ることを示すがよい。】


遠雷のような残響音が消えない内に、大扉の中央がぴしりと割れた。

地響きを上げ、ゆっくり左右に開いていく。

その轟音は、否応く俺たちにアインクラッドのフロアボス攻略を思い起こさせた。

当時の、呼吸も忘れるほどの緊張感が蘇り、ぞくぞくとしたものが背中を掛けていく。


懐かしいな、この感覚。

俺は腰の二本の愛刀を撫でた。


「いいかレイ

危ないから絶対に出てきちゃダメだぞ?」

「ユイもポケットの中に隠れているんだぞ?」

俺たちはそれぞれ自分の子どもに注意を促し開いた大扉の中に足を踏み入れた。


内部は完全な暗闇。
一歩足を踏み入れてから、キリトが暗視スペルを使うより先に、眩い光が頭上から降り注いだ。

キリトたちが思わず両眼を細め、内部を注意深く見回す。

そこは、とてつもなく広い円形のドーム状空間だった。

ヒースクリフと戦った、アインクラッド第75層のボス部屋を彷彿とさせたが、あの部屋よりも数倍ほどの直径がある。

樹の内部らしく、床は太い根か蔦のようなものが密に絡み合って出来ていた。

その蔦は外周部分で垂直に立ち上がり、壁を形成しながらなだらかに天蓋部分へと続いていく。

半球形のドームとなっている天蓋では、絡み合う蔦は床よりも疎らになり、ステンドグラス状の文様を描いている。

白光はその向こうから降り注いでいるようだ。


そしてーーその天蓋の頂点に、円形の扉が見えた。


精緻な装飾が施されたリング型のゲートを、十字に分割された石盤がぴたりと閉ざしている。


目指すべき樹上への道はあの向こうにある。

俺たち3人はそれぞれのエモノを構えた。

今回もリーファにはキリトの回復をお願いした。


俺は深呼吸をし、足に力を込め羽を広げた。

「ーーーーー行くぞ!」


俺の合図と共に飛び立ち、一直線にゲートを目指していく。

しかし、一秒も経たない内に、天蓋の発光部に異変が現れた。

白く光る窓のひとつが泡となって沸き立ち、何かを生み出そうとしている。

瞬く間に光は人型を取り、滴り落ちるかのようにドーム内に放出されると、手足、そして4枚の輝く翅を広げて咆哮した。

それは、全身に白銀の鎧を纏った巨躯の騎士だった。


ーーガーディアン……


鏡のようなマスクに覆われて顔は見えないが、明らかに俺たちを敵と認識している。

その右手にはキリトのものより長大な剣を携えていた。

ガーディアンは急速に上昇する俺たちに鏡の顔を向けると、再び人語ならぬ雄叫びを上げながら真正面からダイブしてくる。


「邪魔するなああああああ!!」


キリトそのガーディアンを右の愛刀で一刀両断にし、弾き飛ばした。

その乱心っぷりに、俺とリーファの口許が引き攣る。


まぁ、1対1なら問題は無い。が……


チラリと上を見た。

天蓋にある無秩序なステンドグラスの殆ど全ての窓から、次々と湧いて出てくるガーディアンたちに内心舌を巻く。

瞬時に数を把握し(大体数百ほど)、攻撃パターン、防御のタイミング、それらを全て頭に叩き込みながら相手にしていった。


解放なしでは少々きついが、殺れない数じゃない。


キリトと俺の気合いや絶叫の声を聞きながら、群がるガーディアンたちを片っ端から破壊していった。

ガーディアンたちがキリトたちの剣を受ける度に、ガーディアンの全身が溶け崩れ、白い炎に包まれ消えていく。


闘鬼神を振るっている俺の頬に、光る矢が掠めた。

瞬時に確認すると、遠距離で俺たちを取り囲んでいたガーディアンたちが、右手をキリトに向け、ディストーションの掛かった耳障りなスペルを詠唱しているところだった。

光の矢の第2波が、甲高い音と共に殺到してくる。

やはり、この人数じゃ分が悪い。

キリトはイエロー、俺も4割弱ほどHPを削られておりリーファの魔力も残り半分を切ろうとしている。

そろそろ潮時か……いったん引こうとした矢先…


十数匹のガーディアンが、四方からキリトに押し寄せ、一纏めに次々と剣で体を貫き始めた。

ぐはっ、キリトはそのダメージをまともに受けている


助けなくて!と思い近くに行こうとする俺の努力を嘲笑うかのようにガーディアンの群れが俺に押し寄せて来る。


そしてーー目の前で、キリトの体が青い燐光を纏った黒い炎に巻かれ、小さなエンドフレイムを残した。

「このヤローーー!!よくも、よくもーー!!!」


俺は左手で、腰に帯刀しているもう一振りの愛刀ーーー鉄砕牙を抜き放ちリーファに向かって叫んだ。

「俺が奴らを蹴散らす!その間にキリトをたのむ!」

うんとだけリーファが頷き、俺は気を集中させた。

二本の愛刀を同時にかかげ縦に振り下ろした。

「獄龍破!」

黒い龍が渦を巻きながらガーディアンの群れを蹴散らして行く。


その空白の瞬間をリーファが彼のエンドフレイムを持ち扉の外に出ようとした。


俺もそれを見届けて一気に外まで全力で飛んだ。


俺は扉から出た瞬間に目の前が真っ暗になってしまった。

ーーーーー
ーーー
ーー


目を覚ましたら俺はあの大扉の前に寝かされていた。


どうやら、俺は気を失ってしまったようだ。

ボロボロの体を起こして立ち上がり隣を見るとそこにはキリトの姿があった。

どうやら、リーファに蘇生してもらったようだ。

「気がついたか?」

キリトが目を覚ました俺に声をかけてきた。

「ああ。どうやらキリトも無事、のようだな。」

なんとか、全員が無事なのを確認できた。

リーファも隣に立っているし。

「全く2人とも無茶しすぎだよ!サイト君もいきなり倒れちゃうし。

びっくりするよ!」

「ああ、すまない。あの技は本来ならHPが8割ないと使えない大技で今みたいにHPがそれを下回る状態だと今みたいに意識を失ってしまうんだ。」

「そうか、無理をさせてすまない。」

「いいんだ。決めたことだからな。」


リーファは不思議そうな顔をしてこちらを見つめている。


「どうしてそこまで2人は世界樹攻略にこだわるの??

まあ、世界樹を攻略するってのはこのゲームの究極だけど、2人からはゲーム以外のなにかを感じるの……」

「ああ。俺は、どうしてもこの上に行き、そこにいるであろう人に会わなければならないんだ……
そう彼女に、アスナに……」

その言葉を聞いた瞬間、リーファはすこしうろたえた……

「………え?お、おにい、ちゃん?
ってことはサイト君は彩斗さん?」

「ってことは、ス、スグ?直葉?なのか……?」


ーーーーついにこの時が、きてしまったか……


彼女は数歩後退り、そのままログアウトボタンを押してログアウトしてしまった。

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