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地の底から響くような低音を轟かせつつ、再び開いた石扉からはあの時のようなボス部屋独特の空気が流れ出していた。
けど、今度は大丈夫だ。
俺の隣には、アスハもいる。
隣にいるアスハの顔をちらっと見て、微笑んだ。
すると、アスハも微笑み返してくれた。
俺たちは、中央に立ち各々の獲物を抜いた。
「……行くぞ!!」
キリトの声と同時に俺たちは翅を広げ一斉に飛び立った。
事前の打ち合わせ通り、俺と戦闘で妖刀の妖力で一気に敵をなぎ払いその隙をキリトがつくという単純だが、最も成功率の高い作戦をたてた。
リーファとレコンにはヒールをお願いした。
アスハには、開幕はPT全員の自動回復を高めるスペルを頼んだ。
戦闘がはじまったーーーー
天蓋の発光部分からは、粘液が滴るように次々と白いガーディアンたちが産み落とされている。
はっきり言って不快な光景ではあるが、構わずに雄叫びを上げる守護騎士たちを瞬時に薙いでいく。
複数の巨人たちが四散するのを見たレコンが低く呻く。
「………すげぇ。」
俺とキリトの剣技はまさに鬼神のこどく、次々から湧いて出てくる、雑魚を一層している。
網目状の天蓋から吐き出される守護騎士の密度は、ゲームバランスを逸脱したものだ。
守護騎士たちは幾つかの密集した群れを作り、うねる帯を描いて次々と俺たちに襲いかかってくる。
「うぁ……」
レコンがこちらに顔を向けた守護騎士たちを見て、引き攣ったような声を上げた。
守護騎士たちの、鏡面マスクの奥から放たれる視線は確実にリーファたちを捉えている。
リーファは思わず強く歯を噛み締めた。
2人はターゲットされるのを回避する為に、キリトたちに対するヒール以外のスペルを一切使わないことを決めていたのだ。
通常、モンスターは反応圏内にプレイヤーが侵入するか、あるいは遠距離から弓やスペルで攻撃されない限り、襲ってくることはないから。
しかし、どうやらこの守護騎士たちは外界のモンスターとは違う、より悪意のあるアルゴリズムを与えられているようだった。
圏内にいるプレイヤーに対する補助スペルにさえもご丁寧に反応を示してくれるので、前衛にアタッカー、中衛にオールラウンダー、後衛にヒーラーというオーソドックスな配置は意味をなさない。
5、6人で構成される騎士の一群は、リーファのあっち向け、と言う願いも空しく、4枚の翅を打ち鳴らすと急降下を始めた。
リーファは咄嗟にレコンに向かって叫ぶ。
「奴等はあたしが惹きつけるから、あんたはこのままヒールを続けて!」
そのまま返事を待たずに上昇しようとするリーファに対し、レコンは待って、と彼女の右手を掴んで止めた。
その直後に火球が、迫って来ているガーディアンの群れに降り注ぐ。
レコンはそれに構うことなく、緊張に震えた声で、しかしいつになく真剣な顔をして言った。
「リーファちゃん……、僕、よく解んないんだけど、これ、大事なことなんだよね?」
「ーーそうだよ。
多分、ゲームじゃないのよ、今だけは。」
「……あのスプリガンや、ダークエルフたちにはとても敵いそうにないけど……ガーディアンは僕がなんとかしてみる。」
言うや否や、レコンはコントローラを握ると床を蹴った。
リーファが虚を突かれて立ち尽くしてる内に、彼はみるみる内に遠ざかり、守護騎士の第2郡に真っ正面から突入していく。
「ば、ばかっ……」
リーファの呟きが微かに聞こえ、俺は2人を確認する。
爆煙の中で上手く見えないが、レコンが飛び上がったのがちらりと見えた。
彼は飛行中に準備していたのだろう風属性の範囲攻撃を正面から守護騎士に浴びせ、切り裂いていく。
威力は高いとは言えないが、騎士たちのHPは僅かに減少し、彼らのターゲットが全てレコンに移った。
リーファはきっと、そんな彼の後姿を見守りながらヒールの詠唱をしているのだろう。
レコンは風に翻弄される木の葉のようにふらふらと飛行しながら、危ういところで巨剣をかいくぐり群の後方に抜けた。
騎士たちも急旋回して彼の後を追う。
リーファの詠唱が終わったのだろう、キリトの体をヒールの光が包んだ。
しかし、再び数匹の守護騎士が反応し、下降を始めた。
その一団も直ぐにレコンを追い回す群へと合流し、白いうねりは倍の大きさに膨れ上がった。
俺の頭に一つの技がよぎった。
「あ、あいつ………まさか!」
ーー確か、原作では……
この鬼ごっこは長く続かないのは目に見えている。
なら、彼は何を狙っているのか……それは……
ついに、彼を追う守護騎士の群は2つに分裂し、左右から挟み込むように移動し始めた。
雨のように降り注ぐ剣尖のひとつがレコンの背を捉え、その体を大きく跳ね飛ばす。
その直後、リーファの悲痛な叫びが聞こえた。
「レコン、もういいよ!外に逃げて!!」
確かに一度退避した者は、内部の戦闘が続いている間は攻撃を受けることはない。だが同時に、戦いが終わらない限りもう扉をくぐることができなくなってしまうのだ。
ーーそれに、今動けば巻き込まれる!
レコンを退避させるために動こうとしたリーファを、俺は叫んで止めた。
「リーファ、そこから動くな!!」
俺の叫びとレコンの決意に満ちた笑みを見たリーファが、開きかけた翅を止める。
立て続けに剣を身に受けるレコンは、新たなスペルの詠唱を開始した。
体を深い紫色のエフェクト光が包む。
その光は闇属性魔法特有の輝き。
忽ち、複雑な立方体魔法陣が展開していく。その大きさはかなりの高位呪文であることを示していた。
魔法陣は幾つかの軸を作って回転しつつみるみる巨大化し、全方位から押し寄せる騎士たちを包み込んだ。
複雑な光の紋様が一瞬、小さく凝縮しーー次の瞬間には恐ろしいほどの閃光を放っていた。
天地が砕けたかと思うほどの爆音が轟き、ドーム全体を激しく振動させる。
そうーーこの闇魔法は、自爆するためのものなのだ。
死ぬと同時に通常の数倍のデスペナルティを課せられるそれは、言わば禁呪のようなもの。
俺はレコンが消える瞬間に声をきいた。
「………あとは、たのん、だよ……」
それはレコンの思いだ。
「ありがとうレコン!お前が作ってくれたチャンス、無駄にはしない!」
俺達は運命の場所まであと3割ほどのとこまで、せまった。
よし、ここまで距離を詰めれば行けるな。
俺はキリトに耳打ちをした。
「次にあの場所が見えたら、一気に行け!」
キリトは俺に何か策があるのを悟ったのか、ただ無言で頷いた。
続いてヒールをしているアスハに向けて言った。
「アスハ!範囲攻撃の呪文をくれ!」
その呪文は文字通り、呪文や攻撃の範囲を大きくする技だ。
「うん!」
アスハも俺に何か策があるの悟ったのか、スペルを唱え始めてくれた。
ーーーーーーー
きた!
俺は蒼竜破で妖気を溜める時間を稼ごうとした。
「蒼竜破!」
ズゴゴという轟音をたてながらガーディアンを蹴散らしている。
しかし、その中に一体だけ武器を持たずに鏡を持ったガーディアンがいた。
蒼竜破の竜はその鏡に吸い込まれていき、そして………
跳ね返ってきた。
あれは、八咫の鏡!
一度だけ、どんな技も跳ね返すという。
竜がこちらに向けて戻ってくる。
「キリト!俺の後ろに下がれ!俺があれを何とかする!
そして、合図したら一気にいけ!」
俺もキリトもHPは幸いなことにほぼ満タンだ。
俺は右手の闘鬼神を鞘に収め、鉄砕牙を抜き放ち、両手でしっかりと握りしめた。
「いくぞーー!爆竜破!」
蒼竜破にむけて、鉄砕牙を振り下ろした。
鉄砕牙から放たれた螺旋状の風が蒼竜を巻き込みながら再びあの扉めがけて進む。
「キリト、いまだ!一気にいけ!」
俺の合図と共に、キリトは一気に
翅を大きく広げ加速した。
「うおおぉーーーーー!」
まっすぐと進むキリトだ。
螺旋の中を飛んで行くことにより、彼に妨害は加わらない。
俺は無事にキリトが到着したのを見届け目の前が真っ白になった。
ただ、地面に落ちて行く浮遊感だけが体を包んでいる。
すると、誰かに抱きかかえられ俺はあの大扉をくぐったのを感じた。
周りから戦いの気を感じなくなったのだ。