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俺は太ももに刺さったナイフを抜いた。
そして、病院の正面エントランスへと激痛のはしる体を引きづりながら歩いて行く。
白いカッターシャツに真っ赤な血が滲んでいる。
出血の激しい箇所を手で抑えながら最も会いたい人の待つ箇所に急いだ。
「あの……すみません。」
俺の声が響いた数秒後、ドアが開いて薄いグリーンの制服を着た女性看護師が2人現れた。
両方の顔に浮かんでいた訝しむような色が、俺を見た途端驚きに変わった。
「ーーどうしたんですか!?」
背の高い、髪をアップにまとめた若い看護師が声を上げる。
どうやら俺の出血量は思ったより酷かったようだ。
俺がエントラスの方向を指差し、言った。
「駐車場で、男にナイフで襲われたんです。
白いバンの向こうで気絶しているので。」
2人の顔に緊張が走った。
年配の看護師がカウンターの内側にある機械を操作し、細いマイクに顔を寄せる。
「警備員、至急一階ナースステーションまで来てください。」
巡回中のガードマンが近くにいたらしく、すぐに足音と共に紺色の制服を来た男が小走りに現れた。
警備員は看護師の説明を聞くと、彼の顔も厳しくなる。
俺はそれだけを伝え、そのまま体を引きづるように病棟行きのエレベーターを目指した。
「あなた!そんな体でどこへ?!」
「ま……待ってる………人が、いるん………だ。」
俺は看護師に引きとめられるのを無視しエレベーターの上行きのボタンを押した。
エレベーターは幸い1階に止まっており、俺は12階のボタンを押した。
エレベーターに乗っている間ですら長く感じるほど待ち遠しく、そして体が悲鳴をあげている。
エレベーターが止まった。
目的の階に到着した。
俺は病室まで壁に片手をつきながら歩いた。
そして、病室の前に立ちもたれるように引き戸を開け、中に入った。
「彩斗、おそかっ…………た、っておい!どうした?!」
「彩斗君!!どうしたの?!」
「((…………………))」
明日奈はまだ声が出なかったけ
「ああ、ちょっとドジった。カッコつけすぎたな…………
かず、と……明日奈を……とりもどし……たんだ……な。
明日……葉……やく……そくは…まもっ……たぜ………」
俺の意識はそこで途切れた………
「彩斗くーーーーーん!」