小説『死神転生』
作者:nobu()

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目を覚ますと、俺は布団の上で寝ていた。

「…っ!」

起き上がろうとしたら、全身を物凄い痛みが走った。

頭がぼんやりしている…。俺、何をしてたんだっけ…。
確か、虚と戦って…?

周りを見渡すと、ここは和室で、何処かの個室みたいだ。
俺一人しかいないようだが…


「!…師範!」

そうだ、師範も俺と同じく、腹を貫かれて重傷を負っていたんだ。


師範を探すために部屋を出ようとしたら、死神が入ってきた。

「!?…ダメです!あなたは重症だったのですから、安静にしていて下さい!」

「どいてくれ!師範を、探しに行かなきゃ!」

「ダ、メ…です!」

そう言って無理やりに部屋を出て行こうとする俺を必死に引き留める。

「誰か!誰か来て下さい!患者が脱走しようとしています!」


死神が大声で叫ぶと、男や女が複数人やって来た。

「どうした!?」 「脱走者だと!?」 「あら、イケメン!」 「お前らとにかく押さえろ!」

色んな声が聞こえてくる中、5人ほどの死神が一斉に俺を抑えつけようとしてくる。

「ぐ、がぁ…邪魔を、するなぁ!」

「!?…なんて馬鹿力だ!?」
「くそ、押されてるぞ!全力で抑え込め!」
「きゃー!力持ちね!かっこいいわ―!」
「畜生、このままじゃ…!」

若干名、変な奴もいるが、とにかくここを突破して師範を探しに行かなければ…

抑え込んでくる奴らを全力で押し返そうと足に力を込めた途端、


「何事ですか?」


声のした方をみると、部屋の入口には一人の女性が立っていた。

隊長! 卯ノ花隊長! など、俺を抑えつけていた奴らが叫んでいる。


「隊長!この患者が脱走しようとして…!」

「うるさい!俺は、師範のところに行かなきゃいけないんだ!」

「分かりました。下がっていなさい。」


そういうと、途端に俺を掴んでいた複数人が一気に手を離したため、少しバランスを崩しそうになるが、何とか体制を整えて、部屋から脱出しようとした。

…が、


「どこに行くのですか?」


卯ノ花と呼ばれた死神が、俺の行く手を阻む。


「邪魔だ、どいてくれ。」

「いいえ、あなたは怪我人です。無理をさせるわけにはいきません。
 それ以上動くと傷口が開きますよ?」

「師範を探さなきゃいけないんだ。邪魔をするなら、例え女性でも手加減はしない。」


隊長と呼ばれていたが、この女性は見た感じそこまで強そうではない。
手加減はしないと言ったが、本当に攻撃なんてする気は無かった。あえて脅しとして言ったのだが…




「あら、私を超えて行けるのでしたら、どうぞご自由に。」




その日、この世のものとは思えない叫び声が尸魂界中に響き渡ったとか。









数分後、そこには再び布団で横になっている俺がいた。

………何があったかだけは聞かないで欲しい。
ただ一つ言えるとしたら、この世には絶対に逆らってはいけない人がいる。それだけだ。

それと、さっきの隊長が部屋を出て行くときに、「あなたのお師匠様は面会は出来ないが大丈夫だ」って言っていた。




少しして、ようやく落ち着いた俺は、ある事に気がついた。


「あれ……腕が、ある…?」


そう、俺には右腕が付いていたのだ。虚との戦いで失ったはずだったが、何故…?
右腕は包帯で巻かれていて、どうなっているかは分からない。
落ちていた腕をくっつけてくれたのだろうか?


今の俺は、右腕、それと左目を隠すように頭。それぞれの部分を包帯で巻かれいる。
まだ体の節々が痛むが、想像した痛みよりは幾分楽だった。
あんなにボロボロにやられたのに…。ここの人たちの治療が効いたのかな。


そんな事を考えながら、しばらくは療養の日が続いた。













ある日、包帯はまだとれないものの、体がある程度自由に動かせるようになった俺は、脱走しないという約束の元、散歩をする許可をもらった。

俺ってどんだけ信用されてないんだ…。



今俺の居るここは、流魂街とは違う瀞霊廷(せいれいてい)と呼ばれる、同じ尸魂界の中でも貴族や死神達が暮らすところで、今回俺達がここに来たのは、怪我がひどかったというのと、この前出会った虚についての情報を持っているから、という理由らしい。

事情聴取については、俺と師範の両方が回復してから、という約束をさせてもらったため、流魂街へ戻るのはもう少し後になりそうだ。


ここは四番隊という、救護などに特化した死神の隊らしく、その隊舎の中でしか散歩を許されていない俺は、庭を散歩していた。

しばらく散歩していると、一本の桃の木の下に着いた。
立派な桃だな―と眺めていると、後ろから人の気配がした。

振り返ると、そこには四番隊隊長の、卯ノ花 烈がいた。
この隊長の名前は、"あの事"があってから、俺の世話をしてくれている四番隊の人に聞いたのだ。


「こんにちは。お散歩ですか?」

「こんにちは。ずっと部屋の中にいるのも退屈になってしまいまして。」

「そうですか、でもまだ完全に回復したわけではないので、無茶はしないでくださいね?」

「ははは、嫌だなぁ、無茶なんてしたくてもさせてくれないじゃないですか。」


俺は苦笑いでそう返した。
…次に逆らったら俺はどうなる事やら…。


話す事も無くなってしまい、しばらく桃の木を眺めていると、ふと卯ノ花が口を開いた。

「桃の花はお好きですか?」

「?…えぇ、好きですよ。」

突然の問いに少し驚いたが、元々、桃は好きだったのでそう答えた。


「そうですか。…桃の花言葉は、『あなたに夢中』、『あなたのとりこ』など、恋愛に関係した花言葉があります。それとは逆に、『天下無敵』といった意味もあるのですが…」

「花言葉、か…。でも何故それを俺に?」

「特に深い意味はありませんよ。ただ、あなたに桃の花は良く似合うと思いまして。

花言葉以外でも、桃は邪気を祓う力があるとされていまして、虚などが来ても祓ってくれるように、と、ここに植えていたのですが、もうこんなに大きく育っていたとは。」


…桃の木を植えたのがこの人なら…。いったいこの人は何年生きているのだろう…。

女性に体重と歳のことは聞いちゃいけないって誰かが言っていた気がしたのでそれには触れないでおこう。特にこの人だけには…。


「さて、私はこれで失礼します。体を冷やしてしまう前に戻ってくださいね?」


そう言って卯ノ花は戻って行った。
もうしばらく桃を眺めていたが、そろそろ体が冷えて来たので部屋に戻る事にする。

桃の木か。いつか道場にも植えてみようかな?

そんな事を考えながらその場を後にした。

















それから更に数日後、腕と頭の包帯が取れるようになった。と言われた俺は、自分の部屋で担当の死神が来るのを待っていた。


「失礼します」という声と共に、いつも俺の担当である死神が入ってきた。

「それでは、これから包帯をとりますねー」

「はい、お願いします。」


そうして、死神が俺の包帯を取ろうとした瞬間。



「ちょっと待ってください。」



何と、部屋の入口に、卯ノ花隊長が立っていた。

「た、隊長、どうしたんですか?」

いきなりの事態に少し驚いた死神が答える。

「いえ、大した事ではないのですが、彼の包帯は私が外します。なので、あなたは少し席を外しておいて頂けますか?」

「え?えぇ、分かりました…。」

状況があまり飲みこめていない死神だったが、隊長を信頼しているのか、何も聞かずに部屋を出て行った。


「どうしたんですか?わざわざ隊長のあなたが、俺の包帯を取ってくれなくても…」

「その事なのですが、これから見る物に、どうか心を強く持ってください。」

「?…どういう事ですか?」

「それは、見て頂ければ分かります。」

そう言うと、卯ノ花は俺の腕の包帯を解いていく。



そして現れたのは…俺の白い腕だった。


「腕が…白い…!?」


当然の事に俺は驚く。
日焼けをしていない白さなどではなく、本当の白…

まるで、そう…



「虚のような白…ですか?」



卯ノ花は俺の心を呼んでいたかのように、そう呟いた。


「俺の腕は…どうなっているんですか?」

「その腕は、私たちがあなたを見つけた時からその像状態だったんです。…その反応からすると、やはり、最初からそうだった訳ではないのですね。」


少し悲しそうな目で俺の腕を見てくる。
という事は、この腕をくっつけてくれたのはここの人じゃなかったのか…?

俺が頭の中で色々と考えていると、卯ノ花が口を開いた。


「これは私の推測でしかないのですが…。その腕は、あなたが戦った虚のものではないのでしょうか?」


「………え?」


「実はあなたを保護した後に、あなた方が戦ったと思われる虚を探したのですが、どこにもいませんでした。虚と戦った痕跡はあるのに、です。


…虚が尸魂界を襲うとしたら、何か目的があったものと思われます。


目的が達成したのなら、いなくなっていても不思議ではないのですが、尸魂界の被害は、街を一つ潰された程度の物です。これが目標だとはどうにも考えられません。


ならば誰かが倒した、というが一番妥当な考えなのですが…。討伐に行った死神は全滅。
あなたと、あなたのお師匠様からも、虚を倒したという情報はありませんでした。


私はあなたの腕を見たときから、まさか、とは思っていましたが、元からあなたがその腕だった可能性もあります。だから、今日あなたにその腕を見てもらい、その反応を確認したかったのです。」


俺の腕が、あの虚のもの…?
だとしたら、俺は、虚と一体化しているという事なのだろうか。
だが、理解できない。なぜ?

「それと…」

そう言って卯ノ花は俺の頭の包帯も外していく。

「あなたの左目の傷口からすると、あなたの目は何かによって貫かれていたのではないですか?」

「え…?そ、そうですけど…」

「では、その左目を開けて下さい。」


そう言われた俺はゆっくりと左目を開ける。



「…目が、見える…?」



そんな俺の目を見た卯ノ花は、何故か悲しそうな顔をしている。

「やはり、私の考えは正しかったようです…。」

「それはどういう…」


俺が喋り終わる前に、卯ノ花は懐から手鏡を取り出していた。

無言でその鏡をこちらへ向けてきたが、その鏡を見た瞬間俺は絶句した。


「俺の目が…」


…俺の左目は、右目と対象に、目の白と黒の部分が逆転していた。

「本来、あの左目の怪我の具合からすると、あなたの目は潰れていて、見えないはずなんです…。
でも、その目が見えていて、その状態になっているところをみると、あなたと、あなたが戦った虚が一体化している。それしか考えられないのです。」


卯ノ花は静かに手鏡を懐へとしまう。


俺が虚と一体化…。では、あの後、虚は消えたのではなく、俺の一部になったっていうのか?


考えれば考えるほど混乱してくるので、一つだけ卯ノ花に聞いてみる。



「…この腕が、虚の物だとしたら…俺はどうなるんです?」

虚は死神達の敵。ならば、それと一体化している俺は何なのだろう?


「残念ですが…危険分子とみなされ、処刑は免れないかと…。」


「では、卯ノ花さんは…俺の事を、報告するのですか?」


恐る恐る尋ねた俺に、此ノ花は笑いかける。



「いいえ。私の仕事は、患者さんを守る事です。無駄な殺生は好みませんし、何より、あなたは心優しい方ですから。絶対に誰かを傷つける事は無いと信じています。」


その笑顔は、女神のような頬笑みだった。


「卯ノ花さん…」


そんなこと言われると、惚れちゃいますよ?


そんなことを言おうとしたが、こんな場面でそんな台詞を言ったら彼女からの制裁を頂けそうだったので、無理やり胸の奥に押し戻す。


「そうですね、このままだと宜しくないので、これを。」


そして、卯ノ花が懐から取り出したのは、黒い腕まである長い手袋と、眼帯だった。


「これは?」


「特に特別な物ではありませんが、あなたのその腕や目を見られてしまうのは危険なので、普段はこれで隠していて下さい。」


なんて用意周到な…本当にこの人は未来が見えるんじゃないかと思う。


「ありがとうございます…。なんてお礼をすればいいのか…」


「あなたが健康に生きていてくれるのが、何よりの恩返しですよ。」


何と言う女神…。本当にいい人じゃないか。鬼とか悪魔とか思ってた俺をぶん殴ってやりたい…。


「…どうかしましたか?
あぁ、あまりにもいきなりすぎて正直、正気を保て、と言う方が無理ですよね。
ごめんなさい。私も少し考えが足りませんでした。」


「い、いえ!そんな事ありません!卯ノ花さんは何も悪くないですよ!むしろ、こうやって伝えてくれて、嬉しかったんです…。」


卯ノ花さんはいつまでも黙っている俺に心配してくれたみたいだ。
急いで否定した俺に卯ノ花が聞き返した。

「嬉しかった?」


「え、えぇ。実は俺、あの虚に約束したんですよ。…いつかお前が人を殺さなくてもいいように助けてやるって。」


そう言った俺を、より一層、不思議な物を見るような目で見てくる。


「やはり、あなたはおかしな人ですね。虚を助けるだなんて。…今までそんな人はいませんでしたよ?」

「俺、変ですかね?」

何だかこの人に笑われると、凄く自信が無くなってしまう。


「いえ、変では無いですよ。むしろ、素敵だと思います。
…ですが、死神の人たちの前では、あまりそう言う事を言わないほうが良いでしょう。
友人や仲間を虚に殺されてしまった方などもいますので…。」


「あ…すみません。これからは気をつけます。」


「あなたが謝る事は無いのですよ?私もそう言う意味で言ったのではありませんし…」


そして、卯ノ花は何かを思い出したかのように、あ!という声を上げた。


「そうですね、あなたが死神になる、というのはどうでしょう?」


「え…?………ええ!?」


少しして、彼女の言った言葉の意味を理解した俺は物凄く驚いた。

死神というのは、真央霊術院という、死神などについて学ぶ学校のような物を卒業した後になれるものである。
しかも、流魂街から死神になる人はあまりいない。


「いきなりそんなこと言われましても…」


「そうですね、そんな道もある、という事だけ頭の隅に置いていてください。別に無理をして死神になる必要もありません。」



そう言うと、しばらく沈黙が続いたが、

「これ以上はここにいる必要もありませんね。何か用があったら、いつでも私を呼んでください。
あ、それと、あなたのお師匠様とは、明日面会が出来ますので、担当の死神に明日案内させますね。」


もうこれ以上の用が無くなった卯ノ花は、それでは、と俺に一礼して、部屋を出て行った。






誰も居なくなった部屋の中で、俺は一人でぼーっとしていた。


「死神、か…。」


いきなりできた新しい道に、戸惑いながらも、どこかそれを待ち望んでいたような気がする。

そんな事を思っていた。

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