小説『死神転生』
作者:nobu()

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ある日の夜、流魂街は騒がしかった。
周囲の声で圭は眼を覚ます。

寝室の扉を開くと、遠くの空が赤くなっているのが見える。火事だろうか?

俺は寝間着から着替えると、門へ向かった。




門に着くと、そこには虚と向かい合っている竜建がいた。
虚にしては珍しく、人のような形をしている。
何故虚かと分かったかというと、その頭に特徴的な白い仮面があったからだ。

「師範!何をやっているのですか!?危険です!逃げてください!!」

「圭か?ここは危ない。中に戻っておれ。平気じゃ、その辺の死神よりは強いからの。」

辺りは火に包まれていた。
竜建はいろんなところから血を流しており、その周りには死神と思われる人たちが倒れている。


『ほう、この小僧、貴様の孫か?』

「そんな事はお主には関係無いじゃろう。さっさと消えてはくれんかの。」

『口の減らない奴だ。まぁ、その辺の死神よりは手応えがあるようだがな。』

そう言うと、二人はまた駆け出す。
竜建は刀を持っているが、虚は何も持っていない。
だが、確実に竜建は追い詰められていた。

足場に溜まっていた死神の血で、一瞬竜建が足を滑らせる。
その一瞬をついて、虚は手刀で竜建の腹を貫いた。

師範の刀が足元に落ちる。


「っ…ぐぅ…。はぁ…はぁ…。わしも…歳かの…。」

『そうだな。貴様も無理をせずにやられてくれれば良いものを。』

「残念だな…わしにはまだ、守るべき者がおる。…まだまだ死ぬ訳にはいかんよ。」

『随分と面白い事を言うものだな。さて、面倒な死神が来る前に、さっさと始末しよう。』

腹から手を抜いた虚は、竜建の首を掴み持ち上げる。

『死神でも無いのに、ここまで抵抗できたことを褒めてやろう。さらばだ、人間――――』

「っ!…待て!」

俺は気付けば声を上げていた。これ以上見てられない。
早く師範を助けなければ。
しかし、身体のあちこちが震えている。

『ほう、小僧。勇敢だな。…だが、震えているぞ?』

確かに。怖くて、もう逃げてしまいたい。心臓もバクバクしているし、身体に力が入らない。
…でも、ここで師範を見捨ててしまう方がもっと怖い。

「師範を…離せ!」

「…圭…よせ、早く逃げ…げっほ、ごほっ!」

『圭? ほう、…これが貴様の守るべき者、か? …そうだな、先に小僧から始末してしまおうか。
大丈夫だ。貴様等程度に本気など出しはしない。』

虚は竜建から手を離し、こちらに体を向ける。
そして、一瞬で俺との間を縮め、俺の腹に容赦ない蹴りを入れてくる。

「うぐ、あ、が…!」

息が出来ない。やはり師範よりも強い…。
俺じゃ、敵わないのか…。

(いや、まだ、諦めない…)

どうにか、酸素を確保できた俺は、この前師範と手合わせした時のように、目を閉じる。

『どうした、小僧?もう諦めたのか。いや、賢明な判断だ。』

虚は、再び俺の元へ駆けてくる。

(少しだが…まだ気配が分かる…!)

虚は俺の頭に拳を突き出してくる。が、俺はそれをギリギリでかわす。

『…今のを避けたとは。どうやら諦めたようでは無いみたいだな。』

今度は瞬間移動のようなもので俺の背後に立つ。
そこから俺の胴に回し蹴りをしてくるが、それをしゃがんで避ける。
その姿勢から、虚の腹を蹴り上げる。

(これなら、いける…!)

蹴りは虚に当たり、少し虚はよろめいた。
そのまま足払いを繰りだろうとするが…

『まさか、この程度でどうにかなるとは思っていまい?』

どうやら、わざと俺の蹴りを受けたようだった。
動きを読まれていた俺は、簡単に足を掴まれてしまう。
そして俺は建物の壁へと投げとばされる。

「ぐ、ぁ…!」

肺の空気が全て吐き出され、意識が飛びそうになる。

いつの間にか目の前には虚が迫っていて、その手には黒い光の槍のような物があった。
俺にそれを振りかざしたとき、虚の腕に刀が飛んできた。
刀のとんできた方向を見ると、そこには倒れている竜建の姿があった。

『ほう、まだそんな気力が残っていたとは。』

「なぁに、家族を…守るため、ならな…。 圭は…絶対にやらせんよ…。」

家族、その言葉に、俺はまだ死ねないと思った。
師範の…いや、家族の為に。

…まだ、体は動く。今度は俺が家族を守る!

俺は虚の腕から突き刺さった刀を奪い取り、師範の元へと走る。
竜建は死にそうな体を無理やり起こし、あることを俺に伝えた。

「圭よ、そいつの名は、"蒼淵"。大切な人を守るための刀。お主、なら、使いこなせる。きっと…」

そう言って竜建は再び倒れる。一瞬戸惑ったが、まだ息はしているようだ。

「蒼淵…。……俺に、力を。守るための力をくれ…!」

『まだやるか。なぜそこまでして…』

俺は虚に斬りかかるが、また虚は消える。それと同時に俺は目を閉じ、気配を感じる。

…後ろ!

虚は後ろに現れ光の槍を投げてきた。俺は向かってくる光の槍を蒼淵で弾く。

『ほう、この槍を弾くとは…。』


だが、一瞬で近付いた虚に、腹に蹴りを入れられ吹き飛び、再び壁に激突した。
追撃を避けようと俺はすぐに起き上がろうとするが、

「っ…ぐ、」『遅い』


虚は自分の手から再び光の槍を出し、止めをさす為に、俺の頭へと投げつけた。

(やばい…!)

咄嗟に避けようとするが、身体が言う事を聞いてくれない。
槍が目の前まで迫ったとき、何とか顔を捻ったが、その槍は左目へと突き刺さっていた。


「ぅがぁ…あぁあぁああああぁぁあぁ!!!」


熱い、痛い、苦しい…
燃えるような苦痛が俺の中に流れ込む。




…しかし、俺はその苦痛の中で何かを見た。


『…スケテ……ウ、…シタク、ナイ……』

何だ、あれは…?誰かが苦しんでいる…?

『ヤメテ、モウ…コロサセナイデ…』

その誰かの目の前で、男性と女性が二人倒れている。
もう少し、もう少しで、見える…

『オトウサン、オカアサン…』


あれは、まさか…



「終わりだ、小僧。」



不意に掛けられた言葉で俺は現実へと引き戻される。


数十メートル前から光の槍を構えた虚がこちらへ突進して来ていた。
痛む左目を無視して、なんとか俺は横へと転がる。

避けた後ろで、今まで俺の居た壁は、粉々に吹き飛んでいた。



俺は立ち上がり、虚に声をかける。

「なあ、虚。」 『何だ?』 「もう、やめにしよう。」 『今更何を言っている。怖いのか?』

いきなり敵からそんな事を言われて戦闘をやめるわけがないだろう。
だが…



「いや、もう終わろう。…もうお前には誰も殺させない。」


『何…?』

虚の微かに息を呑む音が聞こえた。
そう、さっき見たあれは…確かにあの虚だった。
多分、目の前で倒れていた二人は…両親。
あそこにいたのは、この虚だったと、俺は思う。

「お前の過去を見た。…虚になって、両親を殺したんだな。」

『何故それを…。いや、あの槍が当たった時に、我の記憶の一部が流れ込んだのか。』

「ああ。お前は泣いていた。もう誰も殺したくないと。」

『!?そんなはずはない!…今までいろんな人を。強くなるために、たくさんの同胞を殺してきた。…それが我の生き甲斐…生きている証拠!貴様に我の何が分かる!』

「大丈夫だ、俺が何とかしてやる。…お前をその苦しみから解放して見せる!」 

『黙れぇ!』

虚はいつの間にか精神的に追い込まれていた。
どうにか説得しようとしたのだが、それが逆に引き金になってしまった。


冷静さを失った虚は、構えていた槍を圭へと振りおろした。

しかし、圭はそれを避けようとはしなかった。槍はそのまま圭の右手を切り落とし、刀と共に右手は地に落ちる。
それでも表情を変えない圭に虚は驚いた。

『何故だ!避けようと思えば避けれたはずだ!?』


「お前こそ何故だ?今止めを刺そうと思えばそうできたはずだ。
最初からそうだ…。俺たちなんて、別に一瞬で仕留められたのに。
そうしなかったお前は、まだ…」


そう言って俺は虚に近づき、残った左腕で虚を抱きしめる。

『な…貴様、一体何を…』

「でも、やっぱり、俺も限界みたいだ、ごめんな。
…師範にだけは、手を出さないでくれ。後は…好きにしろ。









-―――side 虚――――



「目が覚めたらさ、いつかお前に会いに、行って…。助けて…。」



そう言うと、圭という少年ははその場に崩れ落ちた。
出血多量と痛みのショックなどで倒れたのだと思う。


『なぜ、なぜ敵である我の為に…』


こちらへ向かってくる気配が幾つかある。きっと隊長格だろう。
別に奴らなど、すぐに殺せるが…

『好きにしろ、か。』

そう呟いて、自分の手にもう一度光の槍を出す。

しかし、その手から現れたのは、先ほどまでの黒い槍とは違い、今度は白く光った槍。
そしてその槍を両手で握り、それを倒れている圭の腹部に突き刺した。


『全く、我ほどの虚が、こんな小僧一人殺せなかったとは…。』


そして、虚は音もなく、その場から白い霧になって消えていった。












――――side out――――


数分後、3人の死神が到着した。


「オラァ!敵はどこだぁ!?」
荒々しく叫ぶ男の背には十一の文字が書かれている。


「うるさい。わざわざ呼んでどうする。」
その男の背には六の文字が。


「二人とも静かにせんか。情報通りならば、敵はヴァストローデ級。真面目に行かんと、死ぬぞ。」
最後にその場を静かにさせた老人の背には一の文字があった。





その場の捜索をしていた3人だったが、そこら一帯は死んだ死神だらけだった。
だが、その中に少年と老人の姿があった。

「む?」
一の老人が近付いてみると、二人ともまだ息をしているようだった。

「おいおい、爺さんなんだぁ?そこの死にぞこないは?」
十一の男もこちらに近付いてくる。

「喧しい。今すぐ四番隊を呼べ。卯ノ花もじゃ。」

「分かりました」と、六の男は戻って行った。

「めんどくせぇ」と言いながらも、十一の男も後に続いた。




残された一の老人は、その場に倒れている老人を見た。どうやら意識があるみたいだ。

「竜建、お主ほどの者が…。わしらの到着が遅かったために…。済まなかった。」

「おぉ…久しいのぅ、元柳斎。わしは…大丈夫じゃ。…それより、その辺に子供が一人おろう?
其奴は大丈夫かの…?」

元柳斉、と呼ばれた老人は、少し離れたところにいる少年を見つめる。

その少年は左目から血を流していた。
その傍らには、刀を持った腕が転がっている。
少し不思議に思ったが、他の死神の腕だろう。そう判断した。


なぜなら、その少年の長袖の先からは、ちゃんと"両手"が見えていたのだから。


数分後、四番隊がやってきた。
周辺にある死神の死体を回収させ、次々と事件の収拾をしていく中、そこに倒れていた2人の元に四番隊の隊長を呼びだした。

「卯ノ花、この2人はどうじゃ?」

卯ノ花と呼ばれた女性は、その二人の様態を確認していく。

しかし、少年の右手を見た瞬間その動きが止まった。


「卯ノ花、どうかしたのか?」

「…いえ、何でもありません。ここは私たち四番隊に任せて、皆さんは虚の捜索をお願いします。」

「……分かった。後は頼む。」


そうして、他の隊長3人を引き連れて行ったのを確認して、卯ノ花は呟いた。



「この子は……。 …今は誰にも知られないほうがよさそうですね…。」



手早い動きで少年の右腕に包帯を巻くと、部下を呼び出して老人と共に運ばせて行った。
そうして自分も四番隊の隊舎に戻って行ったのだった。




その後、元柳斉達はどれだけ探しても虚の姿は確認できなかった。

元々居なかった?いや、あれだけ多くの被害者が出たのに、そんな筈はない。
では帰って行ったのだろうか?それならば目的は何だったのだろう?


「…どれだけ考えても分からん物は分かるまい。…今はあの2人の回復を待つしか無かの。」
今現在、虚の事を知っているのはあの二人しか居らんじゃろう。」


そうして、2人の隊長に声をかけ、戻って行ったのであった。



誰も居なくなった戦場には、一つの刀を握った腕が残っていた。

-9-
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