小説『死神転生』
作者:nobu()

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「わしはな…昔、死神だったのじゃよ。」


突然、師範は俺にそう伝えた。


「し、師範が…死神…?だって、昔はそこそこ有名な剣術を扱う者だって…」


「あぁ、確かに、わしは有名だった。…死神としてじゃがな。騙していた訳ではない。
…ただ、わけあって、公にする事が出来なかったのじゃよ。
じゃが…お主には伝えねばなるまい。わしの過去を。」


そうして竜建は語り出した。自分の過去を。


「わしは、昔、死神じゃった。もう何年も前の事じゃ。
…山本 元柳斎 重國。奴はわしの友人、そして戦友じゃった…。


元柳斎が、死神などの様々な組織を作った事は知っておろう?
死神…。その組織が出来たときの、最初のメンバーにわしはいた。」


「最初のメンバー…?」


「そうじゃ。当初、元柳斎が今の真央霊術院を創った。そして、多くの死神が生まれてきた。
それと同じくして、わしは隊長では無かったものの、元柳斎と共に死神として生活しておった。



当時から、元柳斎はトップにおった。時折、死神全員で稽古会のような物をやっていたんだがの…
奴に敵う者は一人もおらんかった。…わし一人を除いてはな。

とは言っても、わしが奴より優れていた訳ではない。何度戦っても、引き分けだった。
それだけの事じゃ。」


…あの元柳斎と同じ実力…。師範、やばいです…。

大した事では無い。という風に語る師範に、俺は心の中でそう呟いた。


「それから数年後、わしは数人の部下を連れて、現世に虚退治へと向かった。
しかし、それがわしが死神を引退する、原因になってしまったのじゃ。


わしが付いているから大丈夫だろう。そう思って、わしと初の実戦をする死神2人で現地に向かった。
そして、何事も無く情報通りに現れた虚を倒したのじゃ。


…じゃが、虚との戦闘に集中していたせいで、情報とは別の虚が近付いておった事に気づく事が出来なかったのじゃ。


いきなり現れた虚に、他の2人はもちろん対応する事が出来んかった。
虚は動けない片方の死神に襲いかかった。わしの斬魄刀で虚を切ることも可能じゃったが、そうすれば一緒に死神も切ってしまう。


迷った結果、わしが身を呈して其奴を庇った。それ以外、方法が思いつかなかったのじゃ。
わしの生命力では死に至る事は無かったが、鎖結をやられてしまっての。
その後、2人に指令を出しながら、何とかその虚は倒す事が出来た。」



昔、師範から聞いた事がある。…鎖結とは霊力のブースターとも呼ばれる魂魄の急所の一つだ。



「長い治療と養生によって、わしは普通に行動ができるようになったんだがの、以前のように死神として動く事はできなくなっておった。


この前お主にわしの刀…蒼淵を見せたじゃろう。あれはわしの斬魄刀での。
鎖桔が使い物にならなくなってしまったわしでは、始解も卍解もできなくなっておった。今ではそこらの刀より強い刀でしかないのじゃ。」


そう語った師範の顔はとても悲しそうだった。
あの刀も、昔はもっと強かったのか…。今でもそれを大切にしている師範を思い出すと、やはりその思いの強さが感じる事が出来る。


「わしは除籍という形で死神をやめる事になった。
その後、元柳斎に死神を引退して、道場を開くことを勧められたのじゃ。


隠居のような形で流魂街に道場を開いたのじゃが、他の者達にわしが死神だった事を教えることはできんかった。
死神を恨んでる者もおるからの。そこも踏まえて、元柳斎は意見したのじゃろう。
わしは、元柳斎の意見を受け入れ、今の生活に至った訳じゃ。」



一通り話し終えた師範は、ふぅ、と一息ついた。
やはりまだ全快では無い分、長時間話すのは疲れるのだろう。



「では、俺がその事を知ったという事は…」


「そうじゃ。わしは、お主に死神になってほしい。」


師範は俺の目をまっすぐ見据えてそう伝えた。

しかし、まだ俺の不安は消えていない。


「ですが、このまま道場に師範を一人残していくのは…。また今回のような事があったら―――」


「わしの事は、いや、全ての事を抜きにして、圭よ。お主は、どうしたいんじゃ?」


師範は俺が全て話す前に言葉を挟んできた。



…どうしたいか?
俺は他の人の事を全て抜きにして、本当はどうしたい?

その問いに対し、俺は俯いて考える。




俺は、俺は………





「死神に……なりたいです………。」




全てを抜きにして、俺は、死神になりたかった。どうして?と聞かれてもうまく答えられない。
なりたい、と言うより、ならなければいけない。
その決心をしたのなら、もう、師範を今回のような目に会わせないためにも。

俺は、死神になる。


「ふぅ、それでいいのじゃ、圭。」


前を向くと、笑顔の師範が、そこにいた。




――――お前がしたい事を応援してくれるだろう――――




ふと頭の中を、夢の中で虚に言われた言葉が過った。



(全く…お前の言うとおりだったよ)



俺は心の中でそう思った。


だけだったが…




(そうだろう?)




「え!?」



いきなり虚の声が頭の中に響いた。
あまりにビックリしたので、つい声に出して驚いてしまった。


「どうした圭?まさか、わしがお主を応援した事に驚いておるのか?」


「い、いえ、そんな事では!」



(お、おい!今話しかけた気は無かったんだけど!て言うか、これがお前の言ってた会話?)


(あぁ、そうだ。…何だ、話しかけた訳ではなかったのか。それは済まなかった)


そう言うと、虚の声はしなくなった。て言うか、後でこれの使い方ちゃんと聞かなきゃな…

気を取り直してもう一度師範と向きあう。


「師範、ありがとうございます!」


「何当然の事だ。息子の応援をしてやらないで、親を名乗る資格も無いからの。」


本当に、この人はどこまで行っても俺の事を思ってくれてる…。
そう思うと何だか込み上げて来るものがあった。


「じゃからのう…圭。男ならばそう簡単に泣くでないと…。まあよい…。こちらへ来なさい。」


そう言うと、近くに寄った俺を、優しく抱きしめてくれた。
それまで我慢していた涙を、今度は何の抵抗も無く流し続けた。
そんな俺の頭を、師範は何も言わずに、ただ優しく撫でてくれた。



















それから数日後。退院した俺と師範は、道場へと戻った。
しばらく見ていなかった街は元通りになっていた。道場も、焼けた家も。


聞けば街の人と死神が協力して復興に当たったのだと言う。
俺達がいなかった道場は、道場にいつも通っていた人たちが声を掛け合って直してくれたらしい。


道場の中は燃えておらず、門と周りの壁が壊れてしまっただけで、中にあった物はすべて無事だった。
俺は、これから真央霊術院に入学するために自分の荷物をまとめ始めた。




次の日の早朝、門の前には俺と師範の姿があった。
日が昇り始めたころで辺りは薄暗かったが、だんだんと明るくなってきた。


「まさかお主がここを去る時が来るとはのう…」


「えぇ、ここに来た時は、そんなこと考えた事もありませんでした。」


「わしもじゃよ。………しかし、立派に成長したもんじゃ。」


「そうですか?何か変わった気はしませんが…」


そう言って自分の体を見回す俺を見て師範は笑う。


「ほっほっほ、中身じゃよ、中身。

…さて、そろそろ時間じゃのう。」


気付けば道場を出なければならない時間に近付いていた。
…そろそろ此処ともさよならしなきゃいけないんだよな…。


「そうですね…。では、行ってきます。…父さん。」


「あぁ、行っておいで。わしの自慢の息子よ。」


俺は深々と一礼して、真央霊術院へと向かっていった。



「本当に…成長したのう…。」



そう呟いた竜建はとても満足そうな顔をしていた。

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