小説『死神転生』
作者:nobu()

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真央霊学院に入学し、俺は無事死神になる事ができた。


十三番隊に入隊する事になった俺は、十三番隊の舎合で毎日を過ごすようになった。
隊長は浮竹十四朗(うきたけじゅうしろう)という、死神が出来てから初の隊長に就任した2人の内の一人で、滅茶苦茶すごい人だ。ちょっと体が悪いところもあるが、隊員からの人望も厚い。


そして俺にも、現世で仕事をする為の街が振り当てられた。
来週からその街に行って1・2か月ほど仕事をするらしい。

…何か聞いた事あるような名前の街な気がするんだけど…気のせいかな?









次の週、早速俺はその街へと出発した。
数日間は街の地形を把握したり、見かけた霊に魂葬を行ったり、そのくらいの事をしていた。


そして、初の指令。虚の現れる時間と場所が携帯機器のような物に送られてきた。
今から5分後。場所は…近いな。


近かったので急いで移動。足にはそれなりの自信があったのですぐに現場に到着した。


5…4…3…2…1…


「ゼロ…」


カウントが終わると同時に、空中に裂け目ができ、その中から虚が現れた。


「来たぁ…」


虚と戦うのはこれが初めてではないので、少しリラックスしながら虚を観察する。
幸い、まだこちらには気づいていないようだ。

…全長は2メートルより少し小さいくらいか…。動きが鈍いところからして、なりたてだろうか?
まぁ、油断は命取りに繋がるからな…。真面目に行こう。


「さて、行きますか…」


先手必勝、さっさと片づけて報告済ませちゃおう。


俺は虚の後ろまで回り込み、一気に駆け出し、虚の懐まで飛び込む。
そのまま顔についている仮面に向けて斬魄刀を切り上げる…!


『グアアァァァァアアァァア!!!!』


よし、仮面ごと切り裂いた。討伐完了だな。

虚の弱点は仮面であると、真央霊学院で教わった。
その通りに虚を攻撃すれば、殆どのものなら一撃で仕留められる。

まぁ、それなりの実力のある虚ならこうも簡単に行かないんだけどね…


「お仕事完了っと」


現世で最初の虚退治はこうして終わった。









それから1カ月弱、同じような事を続けていた。

先日来た報告によると、俺の現世での仕事は今日で最後になるようだった。


「最後の日だなー…。よっし、今日も頑張りますか!」


今日も彷徨ってる魂魄の魂葬を中心に活動した。


(ピピピ・・・ピピピ・・・)


もう日が暮れ暗くなり、街が静かになり始めたころ、突然俺の懐から音が鳴り始めた。

これは現世に行く前に、通信機器として渡された携帯端末で、虚の出現情報などはこれに送られてくる事になっている。


「虚か…。へぇ、珍しいね、この街の中心部じゃないか。」


俺がここの担当になってから、虚が街の中心の方へ現れる事はあまり無かった。
中心部に行ったのは最初の頃の探索程度だったかな…

さて、考え事もその辺にしておいて、そろそろ移動を始めよう。




少し距離があったが、とりあえず出現予定時刻には間に合った。
ここは住宅街の近くで、道が入り組んでいて少し動きづらそうだ。


「うーん、そろそろかな…」


そう呟いた途端、空中に亀裂が走る。もう何度目かになる見慣れた光景。
距離をとりつつ、完全に裂け目から虚が出てくるのを待つ。


完全に虚が出て来て、移動を始めた。

(よし、一気に決める!)

そう思い、駆け出そうとするが…


『何だ、テメェは?』


感づかれたのか、虚がこちらに振り返った。
だが、俺はまだ動いていないし、しっかり隠れて相手からは見えない位置にいた。


『その服…死神だなァ…』


今の虚の位置からでは俺の姿なんて分かるはずはないのに、俺の服を見て死神だと判断した?
だとすると、面倒だな、相手は透視系の能力があるのか…


『どうした?俺を殺さねェのかよ?なら…こっちから行くぜ!』


やばい、考え事をしてる内に虚がこっちに走って来た!

とにかく、虚の能力に透視がある以上、隠れていても仕方ない。

俺は一度走り出すと、広い場所を探して移動した。
あの場所では近くの住宅街に被害が出かねない。


『何だよ何だよ!鬼ごっこかァ!?やる気あんのかよオイ!』


すごく好戦的な虚だな…。結構危険な奴なのかもしれない。

虚は二足で立っていたが、走る時は四肢を使って走っていて速い。いくら俺も足に自信があるとはいえ、このままでは追いつかれるだろう。
少しスピードを上げようかと思ったが、学校の校庭が見えたので、そこに向かっていく。


「ふぅ…。ここなら大丈夫かな?」


『何だよ、逃げてたわけじゃねェのか?まぁ、どっちにしろ俺に殺されるだけだけどなァ!!』


あー、うるさい。随分とおしゃべりな奴だな。しかも短気だろうな…。ほんとに面倒だ。

さっさと片を付けるために、俺は斬魄刀を構える。
ここまでの行動とかからして、こいつはもう何人か魂魄を喰らっているだろう。
となると、やっぱり簡単には行かないのかな…

っと、また考え事に耽る前に、行動しなくちゃ。


少し離れたところにいる虚に向かって走り出す。それと同時に虚もこちらへと向かってきた。
俺は斬魄刀で虚の仮面を狙うが、それを読んでいたのか、虚はそれを片腕で弾く。

畜生、この腕、硬いな…!

虚の片腕は手首から肩にかけて盾のような者が付いている。
生半可の攻撃じゃ切り落とせないってわけか…!


俺は弾かれて少し後ろに飛んだが、体勢を直すと今度は素早く虚の後ろに回り込む。
反応できていない虚の一瞬の隙をついて、脇から上に切り上げる。

予想通り、盾のような物は上側だけで下にはついておらず、簡単に腕を切り落とす事ができた。


『クソッ!俺がこんな奴に負けるだと!?』


盾の無くなった虚は逃げようと残った3本の手足で走り出すが、


「遅いよ」


1本手を失っただけで、虚の速度は大分落ちていた。
俺は逃げる虚の前に立ち、その仮面に向かって斬魄刀を振り下ろす。


虚は断末魔を上げながら消えて行った。
やっと最後の仕事が終わった…。今日の虚はいつもより強かったな。
まぁ、勝てたから良かったけど。


そんな事を考えていると、突然頭の中に声が響いた。


(済まぬ、少し良いか?)


珍しくポデーラが俺に話しかけてきた。


(どうした?俺にお前から話しかけてくるなんて珍しいな。)


ポデーラの呼び方は何だかんだ考えた結果、良いのが思いつかなかったのと、思いついた呼び方を却下されてしまったために、?お前"って呼ぶ事になった。…もっとフレンドリーな呼び方がよかったんだけどな…。


(あぁ、少し気になる事があってな…。少し離れたが、もう一度今日の虚が出たところに向かってほしい。)


ポデーラが何を考えているのか、いまいち良く分からなかったが、とりあえず虚の出現した場所まで戻る事にした。







数分後、さっきの場所に戻ってきた。しかし、ポデーラは黙ったままだ。

しばらく待ってみても喋らないので、我慢できずにこっちから話しかける事にした。


(おい、付いたけど、どうしたんだよ?)


(もう少し待っていろ。もう少しで分かるんだ…。)


何がしたいのか分からないが、俺はその場に座って待つことにした。


(すまないが、左目の眼帯をとってくれないか?)


(あぁ、分かったよ)


ポデーラには左目を通して俺の見ているものが見えるみたいだ。
逆にいえば、眼帯をしている状態では何も見えないのだと言う。

あまり眼帯を外すのは好きではないが、ポデーラもその事を知っていて頼んできたので、仕方なく眼帯を外す。


眼帯が外され、白と黒が逆転した目が露わになる。


(やはりそうか…)


(だから、何がどうしたんだよ?)


ポデーラは勝手に一人で納得しているが、俺にはまだ何のことなのかさっぱり分からない。


(残念だが、まだ仕事は終わりじゃないみたいだ。…この近くにもう1体虚がいる。)


いきなり伝えられた事実に俺は驚く。


(虚がいるだって?だって、そんな報告も来てないぞ?)


(それもそうだろう。我がなんとなく分かる程度だ。全神経を集中させてやっと確信が付いた。
…このままでも良いが、どうする?)


ポデーラは俺に向けてそう言ってくる。
…つまり、このまま無かった事にして、周りの人たちが犠牲になってもいいけど、どうする?と言いたいのだ、こいつは。


(ったく…しょうがないな…。場所はどこだよ。尸魂界に報告してから現場に向かう。)







場所を教えてもらった俺は、虚がいるかもしれないと尸魂界に連絡をした。
なぜ?と聞かれたが、勘です。とだけ告げておいた。




ポラードに案内されながら俺はその虚がいるらしい場所を探していた。
住宅街の中に入って行き、しばらく移動していると、ここだ、とポラードが突然言った。

目の前には一軒の家があり、表札には『神崎』と書かれていた。

俺と同じ名字…?…偶然か?


(本当にこの家の中にいるのか?)

(あぁ、間違いない。)


とは言われたものの、家の中からは何の音もしないし、何の気配もしない。
だが、ポデーラがそう言う以上、何かはあるのだろう。

俺は警戒しつつ、その家のドアに近付く。
ゆっくりとドアノブを開ける。鍵は掛かっていない。なんて不用心な家なんだ…

そのまま家に入って行く。明かりなどは一切付いていない。

…しかし、何だろう?さっきから懐かしい感じがする…


そう思いつつ、玄関から真っ直ぐ行ったところのドアを開けた。
…その部屋の中は荒れていた。
広い部屋、ここは居間だろうか?

外から見た綺麗なイメージとは違い、中はまるで怪物が暴れまわったような…


部屋の中に一歩入った時に、俺は驚いた。部屋の隅に、虚がいたのである。


俺は驚き、急いで距離をとった。

まさか、本当にいたのかよ…

しかし、虚は動こうとしない。ずっとこちらを見つめ続けている。


(なんなんだあの虚…全く動こうとしないぞ…?)

(何があるかは分からない。…油断するな。)


相手の能力が何なのかが分からない以上、迂闊に動けないな…

ここは…遠距離攻撃で攻めるか。


「君臨者よ 血肉の仮面・万象・羽搏き・ヒトの名を冠す者よ 焦熱と争乱 海隔て逆巻き南へと歩を進めよ――――破道の三一 赤火砲!!」


虚へと向けた左手から赤い火の塊が放たれる。それはそのまま虚へと向かっていき、当たると共に、爆発が起きた。

結構な威力で撃ったから、少しはダメージを与えられたんじゃないか?

煙が晴れると、そこには無傷の虚がいた。


「な…!」


おいおい、無傷だと…!?本当に結構な威力でやったんだぞ!?


驚いている俺に、今まで少しも動かなかった虚が飛びかかって来た。

一メートル半ほどの小さめな虚だが、振って来た腕の威力はとても高かった。刀で受け止めようとしたが、受け止めきれず、俺は部屋の壁に叩きつけられてしまう。


部屋の中は暗く、月明かりのみが、俺と虚を照らしている。


(馬鹿者!油断するなと言ったろう!)


珍しくポデーラが焦っている。でも馬鹿は無いだろ…

そんな事を考えながら体勢を整えるが、虚は目の前に迫っていた。

虚は鋭い爪を使って、俺の頭を貫こうとしてきた。

(ちょ…、まずい!)


何とか横に転がってその一撃を避けた。そのままの勢いから立ちあがり、虚の仮面を狙う。
刀は仮面をとらえていたが、虚が少し身を引いたため、仮面にひびが入っただけだった。


そんなことも気にせず、虚は再び俺に向かって突っ込んで来る。
さっきより速いその動きに、俺はついて行くので精一杯だった。

虚の攻撃をかわし続けていたが、気付けば壁の角へと追い詰められてしまっていた。


(くそっ!)


腹に向かって放たれた攻撃に、俺は体を捻って避けることしかできなかった。

虚の手が俺の腹を掠った。今の攻撃で虚に隙ができ、横から後ろへと抜けられそうだ。



…そう思ったが



「ぐ、ぁ…ああ、ぁあ…」

いきなり頭が痛くなった。尋常じゃないくらいに痛い。頭が割れそうだ…!


(どうした!何があった!?)


ポデーラの声がするが、対応する余裕も無い。



頭の中に色々な映像が流れる。


こ、れは…なん、だ?


笑顔で笑いあう大人二人と小さな男の子が一人。楽しそうに何かを話している。

そうおもうと、次は別の映像が流れてくる。
さっきの小さな男の子と、今度は更に小さな女の子が一緒に遊んでいる。

また場面が変わり、今度は男の人がいる。
こちらに向かって何かを言っている。

―――――この世界に『鍵』を用意しておく―――――


な…これは、まさか…


―――――君が触れれば、記憶は元に戻る―――――


そんな…これって…


そして、男の人が消え、さっきとは別の女の子が現れる。


―――――約束、絶対に守ってくださいね!―――――


そう言う彼女の名前を、俺は知っている。


そうか、これは…俺の記憶だったのか…


だんだんと頭の痛みが引いて行く。
虚は何故か襲ってこないで、再び俺と距離をとっていた。


(おい!大丈夫か!?)


ポデーラが俺の事を心配して声をかけてきた。


(あ、あぁ。…大丈夫だ。)


しかし、実際はまだ今あった事実に付いて行けていなかった。

俺の記憶が戻ったという事は、目の前の虚が『鍵』だったということで、俺の腹への攻撃がかすった時に入れに触れたから記憶が戻ったって事で…。

でもまた俺から距離をとって攻撃してこないし、一体何なんだ、あの虚は…?


(何をしてる!戦闘に集中しろ!)


ポデーラの声で俺は我に帰る。
そうだ、とにかく今はこの戦いに集中しなきゃいけないよな。


依然として動かずにこちらを見ている虚にもう一度俺は向き直る。
斬魄刀を構えなおすと、やはり虚も先程のように戦闘態勢をとってきた。

やはり…こっちが攻撃しようとすると、向こうも応戦してくる…。
でも倒さなきゃいけない以上、こうするしか無いんだよな…。


「さて、第2ラウンドと行きますか…」


そう呟いて、再び虚へと駆けて行く。




だが、この戦いもまだ始まったばかり。

…いや、本当の戦いは、まだ始まってもいなかった。

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