小説『死神転生』
作者:nobu()

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そこには依然として、対峙を続ける二つの影があった。

一つは神崎圭。もう一つは虚。

戦場としては狭く、リビングとしては広いその部屋の中で、斬り合っては離れ、斬り合っては離れを繰り返していた。
電気も何もない夜の部屋の中で、月の明かりだけが、ただ彼らを照らしている。


(はぁ…はぁ… 正直、きついな…。今の俺じゃ決定打は与えられないし… 相手は本気を出しているように見えない…。一体どうすればいい…?)


先ほどからずっと戦い続けているが、相手が疲れているようには見えない。
俺の攻撃が当たりそうになると、ギリギリのところで避けてくる…。
そのくせ、こっちは相手の攻撃のスピードについて行くのがやっとだ。


(おい、息が上がっているが、大丈夫か?)


頭の中で、ポラードが声をかけてくる。


(大丈夫…って言いたいところだけど、さすがにヤバイかな…)

(ふむ…手を貸してやれんこともないが…?)

(本当か!?)


今更、と思えばそうだが、この際関係ない。
助けてくれるというなら、どうにかしてこの状況を打開させたい。


(でも…俺はどうすれば良い?)

(簡単だ。我の力の一部を、一時的にお前に貸す。だが、本当に一時的だ。我の力を使うには、お前の力はまだまだ足りん。1回、せいぜい使えて2回ほどだろう。3回目はお前の命に関わる。だから我がお前への力の供給を止める。)


ポデーラの力…俺と戦った時のあの光る槍のことか?
でも…あれを使っても、俺の今の力では当てることができないかもしれない…。

そんなことを考えていると、俺の考えを読んだかのようにポデーラが告げる。


(我の力と言ったが、今回お前に貸すのは光の槍のことではない。我の本当の能力…空間転移能力だ。)

(空間転移能力?)

(お前との戦いでも何度か使ったがな、いわゆる瞬間移動が使える。これで敵の背後に立ち、一気にけりをつけろ。…チャンスは一度だけだと思え。)

(………分かった。)


会話を終えると、途端に俺の頭に情報が流れてくる。
空間転移能力の簡単な理論、使い方、効果。
もともと知っていたかのような感覚に少し戸惑うが…多分使うことができるだろう。

斬魄刀を構えなおし、集中する。


チャンスは1回………。


………行くぞ!




次の瞬間、俺の姿は虚の目の前から消え――――――虚の背後へと回りこんでいた。



よし、このまま―――――――!

俺は斬魄刀を振り上げ、虚の頭へと振り下ろそうとした。



だが、俺が斬魄刀を振り下ろすよりも早く、虚は俺の動きに気づいてしまった。
虚は瞬時にこちらへと振り返り、間合いを取ろうとするが、その仮面に斬魄刀が振り下ろされる。


…しまった、浅い…!


刀は確かに入ったが、虚を切断するまでには至らなかった。

最後の、チャンスが…

最後のチャンスを失い、呆然としてしまった俺を見て、不意に、虚が笑い出した。


『フフ、残念だったね』


そういった虚は大きくひびが入った仮面を、まるで邪魔なもののように取り払った。

俺は驚いた。虚のその異常な行動にではなく、その仮面の下から現れた顔を見て。


「そんな…、そんなことって…」


目の前にいる虚は――――――


『久しぶりだね。………お兄ちゃん』


そこにいたのは、何年振りかに見た、自分の妹だった。




――side 美弥――


…もうここでこうしているのも何年続いただろう。

お兄ちゃんが事故で死んでから、数カ月して、私はある日、突然わけの分からない死に方をした。



いつも通り、学校の帰りで道を歩いていると、私の体が、突然強い衝撃に襲われた。

(い、った…)

今のは何だったのだろうか…?いきなり何かに殴られたような…?

ふらりと立ちあがって、周りを見渡す。
すると、先ほどの場所には自分が力なく地面に倒れこんでいるのが見えた。


(私?どうして…?)


よく見ると、倒れてる自分の胸から鎖が伸びている。
その鎖は、今立っている自分の胸まで伸びており…


(何、この板…?)


今立っている自分の胸には金属の板があり、そこへと鎖はつながっていた。
再び倒れている自分に目を向けたが、そこには更に信じられないモノがいた。


(何なの!?今までこんなのいなかったのに!こんな白い化け物、どこにも…!)


目の前には、自分の体より一回りほど大きい怪物がいた。
これは夢なんだろうか?そう思ってほっぺをつねってみても痛い。
そうこうしているうちに、目の前の怪物はこちらへと振り返り、ゆっくりと歩いてくる。

「い、いや… 来ないで…!」

私は必死にその場から逃げようとする。
だが、倒れている私から伸びている鎖が、私をそこから逃がしてはくれなかった。


『その鎖が邪魔か?切ってやるよ!』


私を追いかけようとしていた怪物が、そんなことを言い出すと、私と倒れている私をつなぐ鎖に触る。

「っ!だ、だめ!触らないで!!」

何故だろう、とてつもなく命の危険を感じた。あの鎖を切られたら、もう助からないような…

『ああ?もうおせぇよ。』

だが、怪物はその鎖を引きちぎってしまった。
そして、再び怪物はこちらへと向かってくる。

「いやぁ!来ないで!!あっち行って!!」

私はとにかく叫ぶ。こんなに叫んでいるのに、周りの家の人は誰も家から出てこない。
とにかく、自由に動けるようになった私は走って逃げる。ただ、ただ逃げる。

『待てよぉ!』

後ろからは化け物が笑いながら追いかけてくる。
怖い、家に帰りたい。早くお父さんとお母さんに会いたい…
そんなことを考えながら、私は後ろの化け物から逃げるしかなかった。


しかし、化け物の早さは尋常じゃないくらい速く、1,2分走っただけで追いつかれてしまった。

『もう逃がさねぇぞ?』

口から出した長い舌で私の体を締め上げる。

「いや、いや…!やめて…!」

殺される。もうダメなんだ…。
そう考えていると、化け物が喋り出す。

『安心しろよ、殺しはしねぇさ。
…だってお前はもう死んでんだからよ!』

そう言って化け物は私の胸から垂れている鎖を引きちぎった。
とてつもない痛みと、苦しみと、吐き気と、様々な苦痛に襲われる。

「―――――――――――!!」

そして、人間としての私の意識は途切れた。












それから気が付くと、私は自分の家へと向かっていた。
自分の体は白く、まるでさっきの化け物のような姿になってしまっていた。

でもそんなことはどうでもいい。
早くお父さんとお母さんに会いたい。

会って、会って………









殺してしまいたい。




数分後、私は自分の家に着いていた。
いつも通り家のドアを開け、家へと入っていく。

家のドアが開く音に気がついたのか、お母さんが声をかけてくる。


「あら、美弥?帰ってきたのー?」


懐かしいほどに感じるその声が、とても悲しい。


「何だ、美弥、帰ってきたのなら挨拶くらいしなさい。」


お父さんも声をかけてくる。

二人はいつも通り、リビングにいるらしい。
そのまま玄関からリビングに続くドアへと歩いて行く。

そして、そのドアを開けると、笑顔だったお父さんとお母さんがこちらを見てくる。

しかし、その笑顔は一瞬で消えた。


「な!?虚だと!?」


真っ先に反応したのはお父さんだった。
お母さんを自分の後ろへと下がらせ、私との間合いを取る。

その行動にとても悲しくなる。
そして、とても憎しみを感じる。

…私はあんなに怖かったのに。
何度も何度も助けてって言ったのに…。


お父さんは懐から何か小さなものを取り出すと、それを自分の手首へと通す。
アクセサリのような輪っか状のものだ。


「我は鎖、汝は十字架。戒めのイバラとなり、訪問者を我が虜によ!」


その輪っかを付けた手を弓を撃つように構えたお父さんは、突然訳の分からないことを言い出した。
そして、その手から光のようなものが現れ、私へと放った。

いきなりのことで反応できなかった私に、その光に当たった。


が、大した痛みなどはなかった。
まあ、どうでもいい。早く殺してしまいたい。早く、早く…

動き出そうとした私を、違和感が襲った。

………体が動かない。何だ、これは?


私が動かないことを確認したお父さんはこちらに歩み寄ってくる。

「悪いな虚、これで終わりだ。」

そうして、お父さんはもう一度、私に腕を伸ばしてきた。
その手に再び光が集まるが…


『ひどいよ、お父さん』


私は、神崎美弥の声でそう言った。

「な!その声は…!?」

その声を聞いたお父さんはすごく驚いている。
そのおかげだろうか、体も少し動くようになった。

『ふふ、残念だったね、お父さん。』

驚いて動かないお父さんの腹を、私は腕で貫いた。

「あなた!」

お母さんが取り乱してこちらへと駆けてくる。

「馬鹿…!くる、な…!」

まだ息があったのか、お父さんはお母さんにそう言った。
でも、もう遅いよね。

私は走ってきたお母さんを舌で捕まえ、お父さんと同じように腹を貫いた。

「く…そ…。美弥、お前は、このまま死神どもに殺させは…!」

お父さんにとどめを刺そうと思ったが、それより先にお父さんが何かしてきた。

お父さんの腕から光が放たれた。
それは私の体に当たるのかと思ったが、この家の天井を突き抜け、見えなくなった。

「今から、お前をこの土地に封印する…。」

何を言っているのか分からないが、とりあえず、止めをさすことにする。
そうして私は、お父さんとお母さんを――――――――










それから、全部終わった私は、家から出ようとした。
だが、リビングから出ようとしたところ、その先から出れなくなっていた。
ドアは動かない。
殴ってみてもビクともしないし、閉じ込められたのだろうか。
部屋の窓を殴っても割れない。部屋の中で暴れ待っても何も起きない。壁に傷はついたりするが、壊れはしない。

…完全に、閉じ込められた。

『まぁ、いっか。』

なんだか、満足しているし、このままここにいてもいいかな。
いつ出れるかも分からないけど、しばらくはここにいよう…

そう、考えていた。






それから、何年経っただろう。

何度も日が昇っては沈んでいった。何度も、何度も。

毎日を部屋の隅で過ごした。

考えていた。私はどうなったんだろう。これはやっぱり夢なんじゃないかって。
でもこれは夢じゃなくて、私がお父さんとお母さんを殺したのも事実で。

誰もこの家に入ってこないし、近づこうともしない。鳥も、虫も、人も。
誰にも気づかれないこの家に、私は一人でいた。




でも今日、信じられないことに誰かがやってきた。

部屋に入ってきたその人は…死んだはずのお兄ちゃんだった。

私は驚きのあまりに、声を出すことも忘れていた。
とても久しぶりに見たお兄ちゃんは、とても変な格好をしていた。
黒い着物、黒い眼帯、黒い手袋。

全身が真っ黒だった。
でも、特徴的な灰色の髪の毛と、その優しそうな目は、まぎれもなく、私のお兄ちゃんだった。


…でも、いきなりお兄ちゃんは私に腰に下げていた刀を向けてきた。
お兄ちゃん、何してるの?そう思ったけど、声には出せなかった。

何か呪文のようなことを喋り出し、手を私のほうへと伸ばし…
その手から赤い光が放たれたからだ。
そして、動かなかった私に、それは命中した。



お兄ちゃん…。お兄ちゃんもやっぱりそうなんだね、そうやって私を殺そうとするんだね。



煙が晴れて、見えたお兄ちゃんはすごく驚いていた。
自分の身体を見ると、傷が全くついていない。

あぁ、そうか。流石、あの二人を?取り込んだ"ことはある。

いいよ、お兄ちゃんも私のことを殺すのなら…

私もお兄ちゃんのことを殺してあげるよ!!!!



そして私はかつての兄へと襲いかかる。




長い闘いは、まだ戦いは始まったばかりだ。

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