小説『死神転生』
作者:nobu()

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「いた…」


俺は呟いた。

今俺はある洞窟の目の前にいる。
それは、虚の棲み家であり、今回の討伐対象のものであった。



俺たちは太い木の枝の上に立っていて、下方には、虚がいた。


『…匂いが…するのう…』


真下にいる虚はこちらを見上げて言う。


『頭の足らん、餌の匂いが!』


ひひひひひひひひ!!!!という、不気味な笑い声で、こちらを挑発してくる。

それを見下ろす海燕の表情は冷たい。
その表情を一目見たルキアは口を開く。


「海燕殿、まずは私が出て様子を…」


しかし、海燕はルキアが全てを言い終える前に一歩踏み出す。


「隊長…。俺一人で、行かせてください。」



ルキアは何を言っているのか分からない、といった顔で海燕を見ている。

しかし、浮竹隊長は険しい表情をしながらも、「ああ。」とだけ言った。


「隊長!!何で一人だけで行かせるんですか!?」


勝がそう叫ぶ。俺も同じ意見だ。
だから、下に飛び降りようとしたが…



「…何の真似ですか。浮竹隊長。」


浮竹隊長が俺の肩を掴んで行かせようとはしなかった。

そうして一呼吸おくと、語り始めた。



「いいかお前たち。よく聞きなさい―――――」



戦いには二つの戦いがある。命を守るための戦いと……誇りを守るための戦い。
その二つを常に見分けて戦わなければならないということ。


そう言った浮竹隊長の表情はとても辛そうだった。










くそっ!早く行かなきゃいけないのに…!そうしなきゃ、海燕副隊長が助からないって分かってるのに…

どうして動いちゃいけないと思うんだよ…!!!




浮竹隊長の話は、原作を読んで知っていた。だが、実際に話を聞いてしまうと、決意が揺らいでしまった。



再び下を見ると、虚と何かを話していたが終わってしまい、海燕が、斬魄刀を構えていた。
そして、今まさに虚へ飛びかかろうとしていた。



「―――ッ!!ダメだ!そいつに触っちゃいけない!!!」


周りのみんなは不思議な目で俺のことを見てきた。




俺は精一杯の声を出した。
多分、その声は海燕にも届いたのだろう。







…だが、もう海燕は虚の足を斬り裂き、虚の触腕に手をかけてしまった。



『ひひひ!あの小僧の言うとおりじゃ。敵の能力も知らんくせに不用意に手を出すべきではないのぅ。』


「うるせぇ、ならさっさとテメェを殺して終わらせるだけだ。水天逆巻け!『&#26841;花』!!!」


ここにいる誰もが知っている、志波海燕の始解。その解号を聞いたとき、俺以外の誰もが勝利を確信しただろう。
しかし…



「な…!?」



海燕の斬魄刀は発動することなく、砕け散ってしまった。いや、消滅したんだっけか。



『一夜毎に一度だけの能力だ。』



虚は余裕たっぷりに話す。



『その夜最初に儂の触腕に触れた者は――――』








「斬魄刀が、消滅する…」


俺は無意識のうちに呟いてしまった。



「神崎!?奴の能力を知っているのか!?」


浮竹隊長がすごく驚いている。……やっちまった。


「いえ、勘です。気にしないでください。それより…これは、まずいですね。」


俺の言葉によって目を下へ向けると、虚の触腕によって海燕が攻撃を受けていた。
これで、会話をそらせた…はず。



「このままでは海燕殿が…!」


ルキアがそう言って刀に手をかけ、飛び降りようとするが…



「朽木、我慢しろ…!」


「ですが!このままでは…!」


やはり浮竹隊長が行かせてはくれない。
それでも。



「すみません、浮竹隊長。罰なら何でも受けます。なので、これだけは行かせて下さい。」


そう言ったのは勝。
俺と全く同意見だとはな。


「そういうことです、浮竹隊長。誇りなんてどうでもいいという事ではありません。むしろ、これは俺たちが仲間を殺させたくないという…意地です。」


そして俺、勝、ルキアの三人は、浮竹隊長の制止を無視して、下へ飛び下りて行った。






















――side 海燕――


「ハァ、ハァ…」


正直、斬魄刀を消滅させられたのは辛い。まさかここまで追い詰められるとは思わなかった。
だが、都のため、俺自身の誇りの為にも、これは、これだけは何としてでも勝たなければ…!


『…ひひ…斬魄刀なしでここまで粘るか…。なかなかやりよるのぅ、小僧…』


「…当たりめーだろ。テメーごとき鬼道があれば充分だ。悪いがこのまま倒させて貰うぜ!」



そう、確かに斬魄刀は使えなくなったが、これくらいなら鬼道だけでも何とか倒せるレベルだと思う。



『…小僧がなめた口を利きよるわ。…仕方ないのう…。昨日の今日で使いとうはなかったが…』


そう言って虚は再び攻撃の姿勢をとる。

くそ!まだ何か隠してやがるのか…!


咄嗟に防御の姿勢を取ろうとしたが…




「やらせるかぁぁぁぁぁぁ!!!!!」



突然上から声がし、圭、勝、ルキアの三人が飛び降りてきた。

叫んだのは圭で、飛び降りてきた瞬間、虚の触腕を一本斬り落とした。



『ぐあぁぁぁぁ!!!こわっぱ共めぇぇえ!!』



虚も攻撃態勢を解除し、後ろへ飛び退く。



「おい、テメェら!これは俺の、誇りの為の戦いだ!下がってろ!!」


俺は三人に向かってそう叫んだ。だが…


「嫌です!それに、誇りを守る戦いなら、私にもさせてください!!都さんは私にとって憧れの人…
そんな人を失った。その無念を晴らすためにも、私は戦いたいんです!!それに海燕殿を助けられなかったら、都さんになんて報告すれば良いんですか!!」


「全く、水臭いですよ副隊長。どうして一人で抱え込もうとするんですか。俺たちも頼ってください。
何のための仲間ですか?もう…。」


「こんなところで死んだら、それこそ部下泣かせですよ。……誇りを守る戦いを邪魔しようなんて思ってません。ただ、その誇り、俺たちにも守らせてもらえませんか…?」



ルキア、勝、圭。この三人に言われてしまって、流石の海燕も笑ってしまった。


「ったく、お前たちには敵わねぇな!ここまで来たからには、最後まで一緒に戦ってもらうぞ!!
まだ敵は何か隠してるみてぇだ。…気をつけていくぞ!」


「「「はい!」」」



三人がそろって返事すると、もう一人、上から飛び降りてきた。


「…その人の誇りは、その人にしか守れないと勘違いしていたみたいだ。
海燕、お前の誇り、私にも守らせてほしい。」


「えぇ、お願いします、浮竹隊長!」



そう言い終えると、再び虚の方へと向かっていく。

前衛が圭と勝。中衛が浮竹隊長とルキア。攻撃が鬼道のみになってしまった俺が後衛だ。




『今度は多数できたか!こしゃくな!!』



虚はそう言うとさっきよりも多数の触腕で攻撃を始める。
あまりの攻撃の激しさに、皆近寄れない。

だが、一人、浮竹隊長だけは触腕をすり抜け、触腕を二本斬り落とした。


『ぐああああぁぁ!!!おのれぇぇぇぇえ!!』


ただやられるだけではない虚は、触腕で浮竹隊長を攻撃しようとする。
この程度の攻撃であれば、浮竹隊長なら避けられるだろう。そう思った。



しかし…


「が、はっ!」



浮竹隊長が突然血を吐いた。
虚の触腕はすぐそこに迫っていた。




だが、そこにいつの間にかルキアが飛び込んでおり、触腕をいくつか弾いた。

それでもいくつかの攻撃は当たってしまい、怪我を負ってしまった。
追撃の手を止めない虚は、再びルキアへ触腕を伸ばすが…



そこに今度は圭が割って入り、ギン!という音とともに、攻撃を弾き、叫んだ。


「ルキア!隊長を連れて一度副隊長の後ろまで下がれ!!」


ルキアは頷くと、浮竹隊長を抱え、海燕の後ろまで下がった。

圭も敵の触腕をひとつ斬り落とし、その場を離脱しようとするが、



『させるかぁぁぁぁぁ!!』



虚は自身の殆どの触腕で圭を囲み、攻撃を仕掛けた。
前後上下左右を囲まれ、脱出が困難になってしまった。
数本の触腕は弾いて、避けてを繰り返したが、攻撃を何度か受けてしまった。



「まずい!これは斬魄刀が無いからなんて言ってられねぇな!」


俺はそう言って圭の元へ走っていく。横を見ると、勝も走ってきていたので、アイコンタクトをとって行動した。

勝はまだ圭の近くにある触腕を弾き、二本斬り落とした。


俺はそれでできた隙間から、圭を引っ張り出し、後ろに下がる。





三人になってしまったが、まだ勝機はある。このまま押し切る!



「圭!大丈夫か!?」


「少し当たりましたが、まだ行けます!」


「分かった。だが、引き際を見落とすんじゃねぇぞ?」


「はい!」




圭は斬魄刀を構えなおし、もう一度虚の元へと突っ込んでいく。






だが…


圭は少し揺れたかと思うと、崩れ落ちて膝をついてしまった。

そして、虚はその瞬間を見逃しておらず、



『小僧!!ここで決めてくれよう!!!』



攻撃の姿勢を取った虚は、仮面と足以外の部分を圭に向かって放った。


まずい…!


俺も敵の攻撃とほぼ同時に走りだす。
だが、圭を挟んで俺と虚は対極にいるため、圭を庇うのには間に合わない…!



虚の攻撃が圭に直撃するかと思った瞬間…






「圭はやらせるかぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」





横から勝が飛び込んできて、圭を庇い、その攻撃に当たった。



「勝!大丈夫か!?」



虚の攻撃は、勝に当たったが、そのまま吸い込まれた。勝に傷ついた様子はない。

無事に見えるのに、何故か胸騒ぎがする。





『ひひ、儂のことを呼んだか、小僧?』







そこにいる勝は…

もう、勝ではなかった。








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