小説『死神転生』
作者:nobu()

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――side 海燕――

勝の葬儀はとても簡単に終わった。
一度死んでいる俺たちが葬儀なんてのもおかしな話だが。

俺が気絶してからのことは、後で浮竹隊長に聞いた。
どうやら、皆に無理させちまったみたいだ。



…あれから神崎は塞ぎこんで、勝の葬儀にも最後まで顔を出すことは無かった。
しばらく隊舎に顔を出してないみたいだ。
瀞霊廷内での目撃情報はあるみたいだが…

まぁ、あれだけのことがあったんだ。この隊の中でもあいつらは一番仲が良かったみたいだしな。
仕方ない事だろう。


さて、俺もこれからのことを考えなきゃならねぇな…

斬魄刀も無くなっちまったし、どうすっかな、副隊長…。












――side ルキア――


やはり、神崎殿の姿を葬儀で見ることは無かった。
私は何と声をかければよいのだろう?

私は何もできなかった…。そして、今度も何もできないのだろうか?
神崎殿は居場所も分からない。

しばらくはそのままにしておいた方が良いのであろうか?

分からない…。誰か、私に答えを教えてはくれぬか…?












――side 浮竹――

神崎、あいつには悪い事をしてしまった。
あの時、私が倒れさえしなければこんなことには…。


神崎は最近塞ぎこんでしまっている。
皆には伝えてはいないが、一度私のところへ来て、しばらく休養がほしいと言ってきた。
心底疲れたような顔だった…。

私はそれを承諾した。いや、断る理由も無かった。


しかし、今回の件は被害が大きすぎた。
物理的な被害と言うよりは、精神的な被害か…。
これは、今後に影響の出ないように注意しなければならないな。












――side 圭――

…勝。
俺は、お前を…。

俺がこの世界に介入して、物語を変えようとなんてしなければ、お前は…


どれだけ謝罪しても、許されることのない事。
この後の出来事を知っているからこそ、俺はお前に謝らなければならない。
例え許されることがないとしても…。



俺のせいで、関係のない人が死んでしまう…
これからも、そんなことが起こるのだろうか?


それなら、俺はこのままじゃいけない…。









ここには、もう、いられない…。






















その日の夜、俺はポデーラに会いに行こうと決めた。
これからのことを相談するためだ。
夢の中で目を覚ますと、俺はいつもの場所にいた。

白と黒の世界だが、以前に来た時とはどこか雰囲気が違っていた。
以前ここに来たのは確か…そうだ、美弥と戦った後だったっけ。

そうすると、しばらくこっちに来なかったのかな。
最近は忙しかったし、ポデーラに話しかけてみても返事は帰って来ないし、向こうも何か忙しいかなって思ってたんだけど…。


「これは、忙しいっていうレベルじゃないのかな?」


俺はいつも通りに家の縁側に座っていたのだが、後ろを見てみると、家のほとんどが崩壊していた。
何というか、壊れてるっていうか、虫に食われたみたいになってる。
というか、それだけではなく、周りの風景なんかも同じように崩れている。

と、色々観察していたら声がした。


『何だ?来たのか、いや、来てしまったのか。
…そっちは危ない。ここまで来い。』


声の主はポデーラだった。あの花が散っている木の下にいた。

危ない、という言葉に?マークを浮かべた俺だったが、足元を指差されたので見てみると、なんと俺の足元も崩壊が広がっていた。

焦ってポデーラのところまで駆けて行き、そこでふとあることに気づく。


「あれ?この木だけ傷ついてない…?」


そんな疑問を抱きながらも、振りかえって俺の居た場所を見てみると、もう何もなかった。
あのままあそこにいたらどうなってたんだろう…?
なにも無くなったところは真っ黒の世界が広がっている。
白黒の世界だったが、その黒よりもさらに深い黒。見ていると不安な気分になる。


「なぁ、ポデーラ。一体何があったんだ?」

『…そうだな、ここに来たからには話さねばなるまい。
まずは、この崩壊が始まったのは、そうだな…。確か、我が一度お前の身体を使ったあとだったか。
あれからある時、この世界の一部が崩れていることに気がついた。最初はお前の肉体にかかった負担が原因だと思っていた。
…だが違った。それから、我にまで影響が出てくるようになった。』


…まさか、それって、最近起こる俺の目まいと何か関係あるんだろうか?
ていうか、何かそんな気しかしなくなって来た。。


『度々、表の世界に意識が持っていかれそうになることがあった。最近では、我が集中していなければ完全に持っていかれてしまうほどに強くなっている。
…お前にも何か影響が出ていたりはしないか?例えば急に目眩がするとか…』

「はい、ビンゴおおおおおおおお!!」


っと、思わず声に出てしまった。いや、だって、完全にフラグっぽかったし…
てか、軽くポデーラが引いてるよ(笑)



『…大丈夫か?』

「すまん、心の声が出ちまったみたいだ。」

『その反応からすると、結構ひどかったようだな。』


まあ、ひどかったって言うか、ほぼこれが原因で仲間が、ね。


「まあ、そうだな。結構ひどかった。で、原因とかは分かってるのか?」

『あぁ。何となくだがな。それについてこれから話すが、少し長くなるかもしれん。取りあえず腰でもおろそう。』


そう言って木の根元に腰掛ける。
もうほとんどの風景は残っていない。どうやら侵食のスピードは思ったよりも早いようだ。
それとも、俺がこちら側に来たことで更に加速したのか。



『原因だったか。…そうだな、簡単にいえば、表と裏の逆転。我がお前の身体を使ったことが事の発端だった。お前が表、我が裏で何とか安定を保っていたものが、我が無理やり表に出たおかげでおかしくなってしまった。
我が表に持ってかれそうになると言ったな。それが強くなるとともに、この世界の崩壊も早くなっていった。

最近はこの木だけに範囲を絞って崩壊を防いで、それ以外の力を全て表への対抗に使っていたと言うわけだ。
お前が何度か話しかけているのは分かっていたんだが、返事する事も出来なかった。』


「そうか、話しかけても返事なかったのはそういうことだったのか…。
それで、これの解決策は何かあるのか?」


『…すまない。このままでは時間の問題だな。もうあと半年もしないうちに、この世界は完全に崩壊する。
そうなった場合…。正直我にもどうなるか分からん。』



解決策はポデーラにも分からないか…。困った。…でも、


「一つだけ、解決策っぽいものがあるんだよねー…」

『なに、それは本当か?…というより、ぽいもの…?』

「そう。ぽいもの。解決する確証は無いけど、頼りになる人を知ってるんだ。」


そう言って下駄、帽子、甚平を身につけた人を想像する。
実際にいつか会ってみたいと思っていたけど、こんな早く会おうとするとも思わなかった。
しかし、これ以外に選択肢は無い。というか、思いつかない。


俺は某十二番隊隊長のマッドサイエンティストを思い出す。

…ダメだ、あれに関わったら五体満足では帰れない気がする。モルモットは確実だな…


今度は某五番隊隊長のボスキャラを思い出す。

…いけない。どうにかなるかもしれないけど、完全にダークサイドに持ってかれる…。



『おい、さっきからどうした?ずっと唸っているぞ?』

「っと、すまん。つい嫌な妄想をね…」

『そうか。…で、頼りになる人とは?』

「うん。その人は死神なんだけどな、訳あって現世にいるんだけど…」


そこで俺は一度区切って、ポデーラの顔を見て言う。



「でも、その人に会いに行くためには…死神をやめるしかないんだ。」



『死神を、やめる…?』

「といっても、死神にそんな丁寧なシステムは無いからさ…。逃走するんだよ、尸魂界(ここ)から。」

『逃走だと!?』


ポデーラもどういうことか分からないみたいだな。
俺もできれば皆と仲良く生きていければよかったと思っていたのだが…
…勝のこともあった。これ以上は関わりを避けようと思う。

やっぱり、そのためには必要なことだったのかな…。


ちなみに、死神に退職というシステムは存在しないようだ。
個人の事情でやむを得ず職から離れる時は休隊、復隊の目処が立たない時は除籍。

俺の師範は後者だな。戦闘はもうできないみたいだし、雑用くらいならできたかもしれないが、あの年になった体には厳しかったと思うし。



「その人はお訪ね者なんだ。堂々と会いに行くので現世に行かせてくださいなんて言えないし、そもそも、そう簡単に現世に行けるものじゃない。

まあ、会いに行けば俺もお訪ね者確定ってことだな。脱走犯ってことで。だけど、俺は生きてるってことはあまり知ってもらわないで出て行きたいんだ。」


理由はいろいろあるが、この世界にあまり誤差を生まないように、俺の存在を皆に忘れていてもらいたい。
そのために一番手っ取り早いのが、死んだことにしてもらうことなんだが…


「俺が死んだってことにして出て行きたいんだが、それについてちょっと作戦があるんだ。ちょっと耳貸してくれないか?」

『何だ?』

「実は、ゴニョゴニョゴニョゴニョ…ということなんだが…『馬鹿かお前は!!』…だよねー」


作戦をポデーラに話したらすごく怒られた。でも、これやるしかないんだ…。


「お前が怒るのも分かる。…だけど、これしかないんだ。頼む。」

『…好きにしろ。ただ、どうなるか分からんぞ?もう、戻れなくなるかもしれん。』

「分かってる。それも承知の上だ。…俺を信じてほしい。」

『馬鹿が。…さっきも言った通りだ。お前に任せよう。』


ポデーラはしぶしぶだが同意してくれた。…本当にすまないな。
でも、ありがたい。これはあいつが協力してくれなきゃ出来ないことだから…。


…さて、そろそろ目が覚める頃かな。取りあえずは伝えられてよかった。


「そろそろ起きるみたいだ。」

『そうか。…上手くやれよ。我はただ、お前が用意してくれたことをこなすだけだからな。』

「頼む。じゃあ、また会おうぜ。」



意識が浮上していく。だんだん目の前がかすんできて、この世界とも別れの時が来ていると分かる。
最後にポデーラの方を見たが、やはりというか、どうにもやりきれない顔をしていた。

これからやることを頭の中で考えながら、やってくる感覚に身をゆだねて、俺は表の世界に戻って行った。


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