小説『死神転生』
作者:nobu()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>



「ほ、報告します!部隊はほぼ壊滅、唯一死人がいないことが奇跡なくらいです…」


偵察隊の一人が乱れた息で部屋へと入ってきた。


その言葉にその場にいる殆どが顔をしかめた。

ある者は怒り、ある者は驚き、そしてある者は悲しんでいた。

そしてその場の最高責任者である老人が口を開く。



「もういいじゃろう。…只今をもって神崎圭を危険分子と判断し―――――――――






   討伐を命ずる」























時間は遡り、月が昇り辺りが暗くなったころ。


事件は瀞霊挺からそう遠くない森の入口で起こった。





「は〜あ、ねみぃなー…。全く、こんなところ警備してる必要なんてあんのかよ…」

「そういうなよ、仮にも仕事なんだからさ。ほら、交代の時間までもう少しだ。」


そう会話をしているのはこの付近を担当している警備隊。
とはいってもここにいるのはこの男たち二人だけで、他の人たちは等間隔で警備をしているのだが…




ガサ…




「お、おい、今あそこで何か動かなかったか?」

「はあ、暇だからってふざけるのはやめろよ?」


暇すぎてからかわれていると思ったのか、男は不満そうな顔をして隣にいる男を睨む。



ガサ…ガサガサ…


「う、嘘じゃねぇって!ほら、今また何か動いたって!!」

「あぁ、確かに動いたな。でもどうせウサギか何かだろう、気にすんなって。…ほらよっと」


隣の驚き具合に呆れた男が目の前の茂みに向かって石を投げ込む。



ぴょん!


石に驚いて茂みから出てきたのは本当にウサギだった。
出てきた瞬間にビクッとなって驚いた男だったが、出てきたのがただのウサギだと確認すると、安心したのか大きく息を吐いた。


「はあ…。な、何だ、ホントにウサギだったのかよ、驚かせやがって…」

「な?言ったろ?お前はビビりすぎなんだよ。」



ガサガサガサ!


二人が笑い合っていると、先ほどよりも大きく目の前の茂みが揺れた。


「ど、どうせまたウサギとかだよな…?」

「馬鹿野郎!こんな音ウサギが出すわけねぇだろ!」


この音の大きさを異常だと思った片方の男は自分の斬魄刀に手をかける。

慌ててもう一人も自分の斬魄刀を手に掛けるが…



ガサガサ!


その茂みから出てきたのは自分たちと同じ死神だった。


「な、何だ、脅かすんじゃねぇよ…。」

「交代か?だが何で森の中から出てきたんだ?」


男が質問するが、それに男は答えない。
自分の質問が帰って来ず、不審に思った男はその死神に近寄っていくが…



「おい、俺の質問に……!!??」


ドウッ!!


いきなり目の前の男から溢れ出た凄まじい量の霊圧に男は言葉を無くした。
慌てて後ろへと後ずさるが、何かにつまづいて転んでしまった。

見ると相方の一人が霊圧に当てられて気絶してしまっていた。



「どうした!!」


いきなり現れた大きな霊圧に気付き、十数人の同じ警備隊の者たちが駆け寄ってきた。

仲間が来た、これで安心だ。


転んでしまった男がそう思った瞬間。



「がッ…!?」「ぐはっ!!」「ごほッ…?!」


一瞬にしてやってきた仲間の半分ほどが、目の前にいた死神に蹴られ、殴られ、次々に吹き飛んで行った。
その光景は目で追うことすら難しく、一種の芸かと思うほど素早く、しかし一つ一つ確実なものだった。



「おい!急いで瀞霊挺に報告と応援の要請をしに行け!」

「は、はい!」



その光景にただ事ではないと思ったリーダー格が、使いを一人、瀞霊へと向かわせた。


「おい!早く起きあがってそこの奴を避難させろ!」

「あ、は、はい!」


つまづいて転んでしまった男が、急いで気絶している男を拾い上げ、避難していく。
その光景を確認したリーダー格は、再び死神へと目をやる。


目の前の死神は、半数人を気絶させた後、まるでこちらのやり取りが終わるのを待っていたかのように動かなかった。


「残った奴らはなるべく離れないようにしろ!死神には二人以上でかかれ!決して一人で挑むな!…もし死にそうになったら自分の命を優先させ逃げろ。」


最後の言葉は重々しく告げたリーダー格。正直、目の前の奴戸の力量差は分かっていた。
おそらく自分たちがどうあがいても勝つことはできないだろう。



応援の到着まで耐えれば、あるいは隊長格が来てくれれば…



しかし、リーダー格の考えもむなしく、数分後には全ての警備隊が地面に伏していた。





























時は同じくして瀞霊挺内。
隊長格はもちろん、普通の隊員達でも、この異常なまでの不安感を感じ取っていた。


そして、少しして、各隊の隊長は全員招集。他の者は皆、隊舎で指令があるまで待機していろとの命令があった。
異例な事態に対して、殆どの者たちが不安を隠せずにいる。



「一体どうしたんだろうな…」

「分からない。だけど、何だろうね、この何とも言えない不安…」



「おい、お前たち!私語は慎め!今は命令待機中で休み時間ではないんだぞ!」


「「は、はい!申し訳ありません!」」



先ほどから、いろんな隊舎でこうして副隊長に叱られる隊員の姿がある。
しかし、副隊長も不安なのは同じなのだ。


そして、他の隊員よりも感知能力の高い彼らは、この霊圧が虚のものだということも分かっていた。
しかし、ここでそれを口に出してしまえば一気に混乱へと陥るため、くれぐれも口に出してしまわないようにと言われていたのであった。










瀞霊挺のある一室では隊首会が開かれていた。
そこには護挺十三隊総隊長である元柳斎がおり、それを中心としその両側に2列になって各隊の隊長が並んでいた。


その重々しい雰囲気の中、元柳斎が口を開く。


「さて、なぜ此度、諸君等をここに呼んだのかはもう気付いておるじゃろう。先ほど警備隊の一人が報告に来た。何者かが現れた様で、そこにおった十数名の死神の半数が一瞬にしてやられ、今さっき、偵察隊として、三十近くの死神を向かわせた。

…じゃが、これほどの霊圧、もしかすると――「失礼します!」…何じゃ。」



偵察部隊の一人と思われる死神がやってきた。



「報告です。我々偵察隊は現地にいた標的と思われるものと接触、交戦中であります。

死神…いえ、あの姿は、虚でした…。そして、偵察隊の一部の証言によりますと…



…十三番隊の…神崎圭隊員と、酷似しているそうです…。」




「な!?そんな馬鹿な!?何故彼がそんなところに!「浮竹。」…すみません…。」


いきなりの報告に取り乱した浮竹を元柳斎が黙らせる。
それから報告に来た死神に続きを促すと、再び死神は話し出した。



「私の見てきた状況ですと、左目は彼の右目が反転した状態であり、右腕は白く、その…まるで虚を相手にしているようでした…。」


対峙した時に受けた霊圧と殺気を思い出し、顔を青ざめる死神。




「それは先日報告にあった十三番隊の風見とやらの症状と似ているようだが?」


二番隊隊長、砕蜂が口を開いた。


「それは違う!彼はただ…!「浮竹隊長。少し落ち着いて下さい。」…卯ノ花隊長…!」


浮竹は神崎のことを言おうとしたが卯ノ花によって制止された。

…確かに今彼のことを話したところで状況は変わらない。
それに、あの時の虚、ということを知られてしまえば、状況はもっと悪くなるかもしれない。



「どちらにせよ…」


口を閉ざしていた元柳斎が呟く。


「現段階では何とも言えんが、分かっていることは二つ。我々を脅かす敵がおり…、倒さねばならぬということじゃ。

恐らく並の死神では太刀打ちできぬということ。それはここまで伝わってきておる其奴の霊圧を感じれば分かることじゃろう。

…そして、この霊圧は、まぎれもない虚のものじゃ。」



再び沈黙が起こり、その場に重い空気が流れる。


しかし、その沈黙も長くは続かず、再び偵察隊の死神が入ってくる。



「報告です!偵察隊の中にいた十三番隊員の数名の証言により…
十三番隊、神崎圭隊員だと分かりました…そして交戦中の偵察部隊…」「ほ、報告します!」


報告中の死神の言葉を遮って、後ろからもう一人の死神が来た。とても焦っているようだ。


「部隊はほぼ壊滅、唯一死人がいないことが奇跡なくらいです…」



それを聞いた元柳斎は自らの決定権を使い、命令を下す。



「――――以上。なお、二番隊、三番隊、八番隊、十一番隊の四名は直ちに現地へ向かえ。四番隊は隊長が選んだ十五名ほどを現地へ。隊長は待機しておれ。そのほかの隊長も何か連絡があるまで待機じゃ。」


「お、俺も行かせてください!」


呼ばれた4人の中に自分がいなかったため、浮竹はそう頼んだのだが…


「…現地へ行くのは先ほど言った四名だけじゃ。異論は認めん。」

「ですが…!」「まあ、落ち着きなって。」


熱くなる浮竹の肩を優しく抑え、八番隊隊長の京楽が落ち着かせる。
昔からの仲である二人の間には、語らずとも伝わる何かがあった。


「…分かった。…熱くなってしまってすみませんでした。」


そう言うと浮竹は一足先にその場を去って行った。

残された人たちも、次から次へと自分のやることに向け準備を進めて行く。



…部屋の中に一人、その場に不釣り合いな笑みを浮かべている人が一人。
しかし、誰もが忙しなく動き始めたその中で、その笑みの気付く人は誰もいなかった。



十一の文字を背負う男は、その不気味な笑みを顔に張り付けたまま、部屋を去って行った。























報告:
コメントで教えていただいた、22ページの最後の部分を「頭の赤」→「頭の中」に訂正させていただきました。

それともう一つ、これからの物語で少し矛盾が起きてしまう部分があったので、誠に勝手ながら訂正をさせていただきました。
訂正個所は16ページの最初の方にあった、隊長格複数名が虚になる事件についてのところで、
「100年ほど前」から「数十年前」といった表記に代えさせて頂きました。

今後の時系列に関わる内容だったので、訂正させていただきました。
今後からはなるべくこう言ったことを無くしたいと思います。


それでは、今回はこの辺りで。

-24-
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える




BLEACH-ブリーチ- 朽木ルキア 布製ポスター(タペストリ)
新品 \0
中古 \
(参考価格:\)