小説『死神転生』
作者:nobu()

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辺りに人が転がっている。
うめき声をあげる者、どうにかしてその場から遠ざかろうとする者、そして全く動かない者。


そのほとんどは先ほど元柳斎が送った偵察隊だ。


そして、倒れている人たちの中心に、神崎圭は座っていた。



「さて…。連絡に行った奴は全員見逃してやったが…少しは骨のある奴らが来たか?」


近くに現れた気配を感じてそう呟く。


「…こりゃあ、ひどい有様だねぇ…。」

「…おぉ、怖い怖い。ボクらも手抜いたら危ないんと違います?」

「何を言う。こちらは隊長が四人もいるのだ。さっき言った通りにすればすぐ終わるだろう。」


目の前までやってきた京楽、市丸、砕蜂が各々の感想を述べる。
どうやらここに来る前に作戦を立て、全員で協力し、一瞬で片付けようとしているようだが…


「テメェらはどいてろ、俺一人でやる。」
「!?貴様!自分勝手な行動をするなと言ったはずだ!!」


満面の笑みで剣八がそう告げるが、砕蜂はそれをよしとしない。
それもそのはず。先ほど作戦を立てたときに、この男を注視していた砕蜂が「くれぐれも勝手な行動をしないように」と釘を刺していたのだ。



「…邪魔すんならテメェから斬るぞ」
「な…!?」


だが、剣八はそんな彼女に殺気を飛ばして黙らせる。
京楽は砕蜂の肩を叩き、市丸はやれやれ、と肩をすくめていた。


「…相談はもう終わったのか?」


そんな行動の一部始終を見ていた神崎はそう尋ねた。


「そうだね。今終わったところだよ。…ところで、ちょっと質問していいかい?」

「なんだ?あまり気が長い方ではないんでな。できれば早くしてもらいたい。」


京楽の質問に神崎は少し嫌そうに答える。
剣八は早く戦いたいようで、京楽を睨んだが、本人は気付いているのかいないのか、その視線を無視して話を進める。


「じゃあ、聞かせてもらうよ。…君は、もう神崎圭君では無いのかな?」

「…それには曖昧な答えしかできない。この体は紛れもない、神崎圭のものである。だが、もはやそいつの意思はここにはない。」

「そうかい…。じゃあ、その子の隊長には悪いけど…やらせてもらうよ。」

「おいおい、待てよ、やるのは俺だぞ?勝手に流れを変えてんじゃねぇ。」



話が終わったのを確認すると、剣八は京楽を腕で押し退ける。
京楽は笠のつばを摘まんで目元を隠すように下げると、後ろへ下がって行った。


「さあ、邪魔者はいなくなった!とっととおっぱじめようぜぇ!オメェとは前から全力で殺り合いたかったんだよ!!」

「…我はお前のことは知らないんだがな…。名前を名乗ろう。我の名は…ポデーラ・アブソリュートだ。」

「更木剣八だ。」

「ほう…。貴様があの…。まあ、いい、始めようじゃないか。」


そう言うと神崎…ポデーラは一瞬で剣八の元へと迫る。
右手に黒い光をためて、そのまま剣八の鳩尾へと叩きつける。…が。


「何だァ、その程度か?」


剣八は避けることもなく、その攻撃を受けた。
しかし、その体に一切の傷はなく、微動だにしなかった。


「…いや、今の程度で死なれは困る。死神と言うものの底が知れてしまうからな。」


そして一瞬で距離をとり、今度はその右手に光の槍を作り出す。


「今度は死んでくれるなよ…?」


その槍を剣八目がけて投げつけるが、剣八は今度は避けることなく、持っていた斬魄刀で防いだ。
だが、直後に爆発が起こり、剣八を中心としたクレーターができていた。


「…は、ハハハハッハハハハ!!!いいじゃねぇか!ここまでとはなぁ!!もっと楽しもうぜ!!」


少し傷ができた剣八だが、そんなことを気にする様子もなく、笑ってこの戦いを楽しんでいる。

今度は剣八がポデーラの元に駆けて行き、斬魄刀で斬りつけた。
だが、ポデーラは自分の出した槍を使ってその攻撃を流す。


「今の爆発でその程度の傷か…。これならそう簡単には死んでくれなさそうだな。」

「喋ってる暇があんならもっと本気出せ、よ!」


剣八が連撃でポデーラを追い込んでいく。そして、下から振り上げた一撃でポデーラの槍を弾いた。
距離を取ろうとするポデーラだが、それよりも早く剣八が頭上から刀を振り下ろす。



ドガアアアアアアアアア!!!!!



凄まじい音とともに土煙が立ち込める。
煙が晴れたそこには、割れた地面と、百メートル先まで割れている森の姿があった。

それを見ていた三人の隊長たちも、感嘆の声を漏らした。


「っち、こんくらいじゃ死なねぇか。」


煙の晴れたその場にポデーラはいなかったが、剣八にはまだ倒せてないことが分かっていた。


「どこに行きやがっ…!」


ポデーラを探そうとした突如、一瞬の鋭い殺気と共に、光の矢が飛んできた。
先ほどの爆発を思い出したが、避けるには時間がないため仕方なく刀で防いだ。


…だが今度は爆発は起きない。


「どうなってやがる?」

「気を抜かないでくれよ。これからが面白いところなんだ。」


森の中のどこからかポデーラの声が聞こえてくる。
しかしどうしてか、その場所をつかむことはできない。


「っ!」


再び殺気を感じたかと思うと、また槍が迫ってきた。
それを防ごうとするが、


「こっちもかよ…!」


また少しの殺気と共に今度は別方向から槍が飛んでくる。
右の方から来た槍を弾くと、そのままの勢いで刀を振り、すぐ目の前まで迫っていた槍を弾き落とした。


「っち、めんどくせぇ…」


思わず悪態をつくが、気は緩めていない。今度は一度に三方向から槍が飛んできているのを感じていたからだ。
わざとかは分からないが、丁寧にギリギリこちらが反応できるほどにテンポをずらして撃ちこんでくる。


「めんどくせぇから…」


そこまで迫っていた槍を目の前にしながらも、剣八は斬魄刀を腰の位置まで戻して構える。


「いい加減、出てこいやぁァァァ!!!」


そして、思い切り横に振った。
斬魄刀からは斬撃、衝撃派、剣圧、様々なものが飛んで行き…



…目の前の森を一気になぎ倒した。



「…まさかここまでとはねぇ…。」

「いやぁ、怖いなーほんま。さっきまであった森がきれいに消えてるやないの。」

「ありえん…こんなこと…」



目の前の光景を見て、隊長たちは驚いていた。そして…



「くく、ははは、流石、あいつに聞いていただけのことはある!久々に我も楽しめそうじゃないか!!
………だが、残念ながらそう時間もないんでな。さっさと終わらせてしまおう。」


いつの間にかポデーラは森があったはずの場所に立っていた。
だが、気付けばポデーラは剣八の後ろまで瞬時に移動しており、剣八の背中に手を当てていた。
そのまま攻撃に移るのかと思ったが…


「少し借りて行こう」


といって、どこかに消えてしまった。



「瞬歩!?だが、気配はどこに?!」

「ありゃぁ、これは撒かれちゃったかな?」



残された隊長二人はそう言っていたのだが、市丸だけは顎に手を添えてニヤニヤ笑っていた。
一体何を考えているのか、それはここにいる誰も分からない。
















「さて、と」


先ほどの森よりも深いところに、ポデーラと剣八はいた。


「貴様が神崎の協力者、ということでいいのか?」


「あぁ、だが、俺が頼まれたのはテメェと全力で戦うことだけだ。」


「…そうか。まぁ、ここはさっきの場所からだいぶ離れたところだからな、すぐには見つからんだろう。
それで、やり合う前に、意見があるんだが、次は最大の一撃で決めないか?」


「あ?何言ってんだよ、楽しい戦いをそう簡単に終わらせてたまるかよ?」


「…やはり聞いた通りだな。だが、ここで決着をつけてしまうのは惜しいと思わないか?次に会った時はもっと強くなっていることを約束できるのだがな…」


「…それは本当だろうな?」


やり取りの結果、しばらく考えた後、剣八は折れたようだった。


(…これもあいつが言っていた通りか…。)


と、ポデーラは圭に言われたことを思い出しながら話を続ける。


「出来るだけ派手な一撃で頼む。…さっきの奴らにも分かるようにな。」


「消し飛ぶんじゃねぇぞ?それと、さっきの約束忘れんじゃねぇぞ。」


話も済んだところで、二人とも距離をとった。


「さぁ、全力全開と行こうじゃねぇか!!!」


そう言うと剣八は自分の眼帯を外す。
瞬間、どこから湧き出てきたのか、剣八の霊圧が一気に跳ね上がる。


「ほう、それが貴様の全力と言うわけか。噂通り化け物じみているな。」


「その噂もあいつから聞いたってか?…まあいい、テメェも全力出せよ。まだ出んだろう?」


「…残念だが、全力は出せない。が、貴様が満足する分なら出せよう…」


すると、ポデーラからも剣八と同じくらい、いや、それ以上の霊圧が噴き出した。


「はは、ふはははは!!!全力じゃなくても俺より上か!!いいじゃねぇか!!最高の一撃で決めようぜ!!!」


「あぁ、お互いに悔いの残らないように、な。」


剣八は自分の斬魄刀に己の全てを込める。
対するポデーラは…


「槍というものは、斬撃には向いていなくてな…。こう行かせてもらおう。」


手に出現させた槍を前方に向けて構える。


「おもしれぇ、突撃ってわけか。さぁ、来いよ!!」


剣八の声とともに、ポデーラが突っ込んでいき、一歩ずつ、足元で霊圧を爆発させ凄まじい勢いで加速していった。
その姿は黒い光に包まれ、槍を中心に螺旋状に渦巻いていた。



「うおらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」


「うおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」



その両者が激突した瞬間、音が、光が、時間が、何もかもが止まった気がした。
そして、次の瞬間、二人がいた場所からはぶつかった霊圧同士の光の柱、表現できないほどの轟音が上がった。


突如発生したその現象に、離れたところにいた他の隊長たちも急いで駆け寄ってくる。


「これは…」


一番に到着した砕蜂は言葉を失った。
目の前には、何も残っていなかった。木も、土も、何もかも。
直径は1キロ近くになるだろうか。その周りのものは全て消えてしまっていた。
そして、その爆発のような物の中心には、剣八と、ポデーラがいた。



「はは、まさかここまでとはなぁ…。」



「けっ、テメェこそ化け物じみた強さのくせに何言ってやがる。」


(この野郎、直前で力抜きやがって…)

剣八はそう思ったが、他の隊長の手前、あえて口には出さないでおいた。


ポデーラは仰向けになって倒れており、剣八は地面にどっかり座っており上半身の服がすべて吹き飛んでいた。どちらも身体から大量の血を流している。

そしてポデーラは手足の先から徐々に崩れて消えていっていた。



「これは…。どうやら勝負はついたみたいだねぇ…。」


「ほんま、ちょっぴり間に合わなかったみたいですなぁ。」



遅れてきた隊長二人も、この惨状を見て驚いていた。
その間にも、ポデーラはどんどん消えていっている。


「あぁ、次に会うことがあれば、今度は、全力で―――――――」


だが、全てを言い終える前に、ポデーラは完全に崩れていなくなった。




「これも、やはり以前報告にあった十三番隊のと同じか。やはりそのときの残りだったのだろうな。」


「いや、そうでもないかもしれないよ?」


砕蜂の推測を京楽が否定する。
怪訝な表情を浮かべた砕蜂だが、それを納得させるように京楽が続ける。


「もしその十三番隊のこと同じ虚だったなら、そのときもこんな霊圧を発していたはずじゃないかい?」


「だが、もし乗っ取られた奴の力に関係してるのだとしたら…!」


「それでも、これだけの力を出せるんだったら、彼はとっくに三席くらいにはなっていたんじゃないかな。」


「だが、奴が自分の力を隠していたとしたなら…」


「まぁ、そうかもしれないけどね。僕が言いたいのは、そう簡単に解決できる事件じゃなかったってことさ。」



京楽はそう言うと、先の戻るねぇ〜、と間の抜けた声を出して先に戻っていった。


「まぁ、あの子の死亡も見たことですし、後の処理も下の人に任せて、さっさと僕らも帰りましょ。」


「…あぁ。」


そう言って市丸と砕蜂も去っていく。
残された剣八は、仰向けに倒れると、一人呟いた。



「…やり足りねぇ…。」





























「それで?彼の実力はどうだったんだい?」


「いやぁ、正直のところ、分かりませんわ。全然本気出してるように見えませんでしたし。
…でも、あの虚は、隊長並の力はあると思いますよ?」


「ほう。だが、死んだのだろう?」


「えぇ。やっぱり更木の名は伊達じゃないですわ。ボクだったら怖くて途中で相手やめてますもん。」


「実に惜しかった。出来ればこちらに引き込みたかったんだがな。」


「あらら、御人が悪い。あんなにいい子を引き入れようだなんて。」


「ふふふ。まぁ、仕方がない。こちらには既に十分と言っていいほどの戦力がある。いや、見込みがあると言った方がいいか。少し前に拾ったあの虚も中々面白い。」


「あんな可愛い子まで使うなんて、ほんま恐ろしい御人ですわー。」


「君も人のことを言えないのじゃないかい?」


「はて、何のことでしょう?」


「…さて、今日はここまでにしよう。お疲れだったね、ギン。」


「いえいえ、とんでもない。見れて楽しい闘いでしたよ。ほな、それじゃ。」








「…本当に残念だ。君だけは手に入れておきたかったんだがな。神崎、圭…。」








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