小説『死神転生』
作者:nobu()

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「ふぅ、取りあえず一仕事終えたか…。」



夜の街にポデーラはいた。しかし見た目はまだ圭の姿で、着ている死覇装は所々が破けボロボロである。



「しかし、ここはどこだ…?確か、空座町の浦原商店だかに行けばよかったんだったか…。」



何故彼が生きているのかと言えば、まあ言ってしまえば全てが演技だったからだ。
剣八との戦闘も、最後の死に方も。全て演技だったわけで、そしてその全ては…圭が考え、計画し、そして誘導、実行したのであった。

…まぁ、実行したのはポデーラと剣八なのであるが。


圭は、ポデーラと剣八にこの芝居の手伝いを要請した。剣八には自分を討伐してもらうこと。
そして、ポデーラにはこの体を乗っ取ってもらい、現世まで移動することであった。


圭はこの二人に"お願い"ということで、この一連の作戦の協力をしてもらったのだが、その理由は自分が生きたまま現世に行ったことを他の人に知られたくなかったかららしい。

この事実を知っているのは、協力を頼んだポデーラ、剣八そして圭の3人だけである。



死んだふりをして崩れて行ったポデーラだが、実は少し空間移動に工夫を加えてカモフラージュしたものであった。

そして、現世にやってきて、圭に言われた通り、浦原商店を探しているのだが…



…見ての通り、迷子である。




「ここはどこだ…?取りあえず現世には来たが、空座町なんて知らんぞ…。」



見たところここが空座町であるなんてヒントは見当たらないし、そうだったとしても土地勘なんて全くないため、手探りでの探索となる。



「…はぁ、仕方ない。ヒント無しでも探すしかないか。…時間もそんなに無いんだがなぁ…。」



まずは周囲に大きな霊圧の反応がないか探してみる。
圭が言うには物凄い実力の持ち主らしいので、近くにいるのならサーチすれば分かるかもしれない。



「…反応がない…。」



仕方がないので北に10キロほど移動してから再度サーチ。



「…ここも反応がない…。」



さっきの場所まで戻り、今度は南に移動し、サーチ。

…しかしやはり反応がない。

今度は東に。…だがここにも反応はなかった。



「…面倒だ…。」



徐々にストレスのたまり始めるポデーラ。
正直、正攻法で見つけられる確率なんてほとんどないようなものだ。

そこで、サーチする範囲を限界にまで広げてみる。
出来るにはできるのだが、疲れるのが難点だ。
それに、この体はあまり負荷をかけたりしてよいものなのかも分からない。


限界まで広げた検索範囲には大きな反応は一つもなかった。
また移動してこうやって地道に調べて行くのかと思ったポデーラであったが、ふと面白いものを見つけた。



検索範囲の端っこに引っかかった土地に、極僅かな霊圧だが、それが集中して集まっている土地があったのだ。
他の場所にも僅かな反応はあるが、ここだけ何故かそれが異様に多いのである。



「ふむ…。まあ、どこか移動してから探そうと思ったし、一旦ここまで行ってみるか。
はずれならそこからまた探すまでだ。」



そういってポデーラは目的地まで移動を始めた。





























「…何というか、運がいいというか、何かしらの作意が感じられるのだが…。」



目的地に辿り着いたポデーラは呟いた。

驚いたことに、そこはまさに今まで探し求めていた空座町であった。
ここまで来る途中に、わざわざ丁寧に大きく『空座町まで 15km』と書かれた看板を見つけたのだ。
そして、その通りに来ると、なんとさっきの小さな霊圧が集中している土地までやってきた。

どうやら、2つは同じ場所をさしていたようだ。



「やっと着いたか…。だが、あいつの言ったようなでかい霊圧の反応はないぞ…?」



この町に着いてからもう一度探してみたのだが、それらしい反応は一切なかった。

もしかして同じ文字なだけで実は全く別の街だったり…と、ポデーラは一瞬考えてしまった。
そうであったらまた振り出しにもどることになる。…正直それだけは避けたい。
ここじゃなかったらもう探し当てることができない気がするからだ。



「しかたない。何とか商店でも探すか…。」



もはや名前もうろ覚えになってしまったが、重そうな足取りで再び行動を開始した。
































――浦原 side――



いやぁ、今日もいい朝ッス!
青い空、白い雲。我が浦原商店もいつも通りに平和でのんびりいい感じ。

まあちょっとお客が少な過ぎるところもあるんスけど…



ドンドン!ドンドン!



お、こんな早くからお客さんとは珍しいッスね?まだ開店時間じゃないんスけど…


「はいはーい、今行くんでちょっと待ってて下さいー」


急ぎの用事かもしれないと思い店の戸をあけるが…



「貴様が、浦原とやらか。ようやく、ようやく見つけたぞ…!」



…!!死神…!でも、この霊圧は…虚?
目の前にいる男性からは怒気と少しの殺意が感じられる。
とにかくどうにかしないと…



「鉄裁さん!…お仕事ッス」



店の中にいる鉄裁を呼びだす。
外へ出てきた鉄裁は回りくどい言い方をされたにもかかわらず、一目でこの事態を悟った。



「これは…敵襲ですかな?」


「んー、いまいち分からないんスよねぇ…。取りあえず、こちらに敵意がある見たいッス。」


「ふむ。それでは、先手必勝!縛道の六十一、六杖光牢(りくじょうこうろ)!」




鉄裁の詠唱と共に六つの帯状の光が男の胴に突き刺さる。


「な!?これは、動かんのか。…はっ!」


男は一瞬驚いたが、少し力を入れると鉄裁の六杖光牢を破壊してしまった。



「…これは予想以上に面倒なものかもしれませんな?」


「そうみたいッスねぇ…。アタシも少し真面目にやりましょうか…。」

(とは言っても…何か様子が変なような…?)



まあ迷っても仕方ない。ここはうまい具合に気絶でもさせられれば…
しかし、六十番台とはいえ、相手はあの鉄裁の鬼道を破壊した。少し厄介なのかもしれない。

そう思いながら、長年一緒にいる"彼女"の名前を呼ぶ。



「起きろ『紅姫』」



すると、今まで自分を支える杖だったものが、鍔の無い短めの直刀になった。
そして浦原は目の前の男に迫り斬りつける。



「な!ちょ、まっ…!」



男は何かを言いかけたが急に迫ってきた敵に対し、どこからか黒い槍のようなものを出してその一撃を防いだ。
受け止められてもなお浦原の攻撃は緩むことはなく、徐々に男を追い詰めて行く。

男も若干焦りの色を見せ始めたようで、このままではまずいと思ったのか、ぶつかりあった槍を爆発させ、強制的に距離をとった。



「はぁ…はぁ…。おいちょっと待てt…ごぶ!」「縛道の七十五、五柱鉄貫(ごちゅうてっかん)!」



再び男は無いかを言おうとしたが、鉄裁が縛道を放ったため、体を拘束されてしまった。
間髪入れずにそこへ浦原が追撃を入れる。



剃刀紅姫(かみそりべにひめ)



斬魄刀から放たれた紅い衝撃波のような斬撃が男へ向かっていく。



「…っち!」



鬼道によって身動きの取れない男にそれは直撃した。

…と思われたのだが、直撃にしたときに出た煙が晴れると、そこには誰もいなかった。



「いない!?一体どこに…」


(そんな、今の一撃は確実に当たったはず…
威力を抑えたとはいえ、当たれば満足に動けないはずなんスけど…)



斬撃を飛ばした本人も驚いていると、不意に後ろから声がした。



「いい加減…。人の話を聞けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」



後ろを振り返ると、先ほどの男が拳を振り上げているところだった。
あまりにも唐突でストレートな攻撃に、戦闘能力の高い浦原も反応できなかった。

ガツン!という鈍い音と共に、男の拳骨が見事に決まる。



「いっっっったぁ!!!」


「大丈夫ですか!」



余りの痛さに涙を浮かべて悶える浦原へと鉄裁が駆け寄る。
そんな二人を前にして、男はどうしたものかと考えていると、取りあえずその場に座った。



「我は貴様らに敵意など持っていないんだが?いきなり襲われた理由が分からん。」


「「はい?」」



突然男の発した言葉に、浦原と鉄裁の声が重なった。
…今までの緊迫した戦いは何だったのだろう。


「ったく、人の話も聞かずに攻撃しおって、この体にはなるべく負担を…ごほっ!がはっ!」


話をしている最中に突然苦しそうに咳き込んでしまった男を二人はどうしたものかと見つめている。


「はぁ…。もう、大丈夫だ…。いきなり負荷を、かけすぎたのでな…。」


「えっと、あなた、もしかして、虚ッスか?」


浦原は自身の考えを口にする。先ほど戦闘した際に感じたものはまぎれもなく虚の霊圧だった。
男はその質問に対して、曖昧な表情で返事をした。



「むう…。そうでもあるが、違うともいえる…。この体は、半分死神、半分虚なのだ。」


「やっぱりそうなんスね…。まずは、いきなり襲ってしまってすみません。ここに来たってことは何か用があるんでしょう?今更ッスけど、店の中に案内しますよ。」



そう言って店の中へと男を招き入れる。
鉄裁は荒らしてしまった店の前を竹箒で掃き始めた。


結構荒らしたもんスねー…。結界張っといてよかった…。
そんなことを思いながら自分も店の中へと入って行った。





それはまだ、日が昇ったばかりの清々しい朝の出来事であった。

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