小説『死神転生』
作者:nobu()

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一悶着の後、店の中へ入って行ったポデーラと浦原は、店の中の居間でちゃぶ台を挟み向き合って座っていた。
先ほどの件もあり、少し気まずい空気が流れていたのだが、これでは何も進まないと感じ取り、浦原が口を開いた。




「…で、ここに来た理由を聞かせてもらってもいいッスか?」


「知らん」


「即答!?いや、何かあるんスよね!?」



即答で答えたポデーラに浦原は突っ込む。

ポデーラに遊ばれていると知っているだろうに、あえて乗ってくる。
それに気づいて、中々面白い奴、とポデーラは内心評価していた。



「まぁ、冗談だ。えーと、何だったか…。話せば長くなるんだが…ってのはお約束なんだがな。つまり、手短に話すと、かくかくしかじかだ。」


「なるほど…。あなたはその人の身体と一体化したものの、最近になって一線を越えて体を乗っ取るようになってしまったと。」


「いや、何故今ので理解した…?」


「気にしない方がいい気がするッス。この小説的にも。」


「何を訳の分からないこと言ってるんだ?」


「あれ、ワタシ今何か言ってました?まぁ、要するに、乗っ取ってしまったその体に元の持ち主を戻せばいいんスね?…出来ますよ。」


「それは本当か!」


「えぇ、本当ッス。まぁ、ここじゃできないんスけど…。取りあえず、場所を移動しましょ。」



そう言うと浦原は立ち上がり、ポデーラを更に店の奥へと案内する。
行き止まりのところまで来たかと思うと、下に続く梯子があり、これを降りて行くように、と言われ、浦原は何かものを取りに行ってしまった。













「しかし、この梯子長すぎじゃないか…?」



梯子を降り切ってようやく地に足をついたポデーラは、自分が降りてきた梯子を眺めて呟いた。

というか、あんなちっぽけな店の地下にこんなスペースがあったとは思いもしなかった。
どうやってこんな場所を作ったんだろう、とか考えながら浦原を待っていると、



「いや〜、お待たせしました〜。」


いつの間にか浦原は下まで降りて来ていて、その腕の中には色々な道具が詰まった段ボールがあった。



「その箱に入ってる者は何だ…?」


「あ、これッスか?ちょっと探してくるのが面倒だったんで箱ごと持ってきちゃいました。
…えーっと…、これじゃなくて…。これでも無くて…。…あっ!ありました!これッス!」



そう言って箱の中ら取り出したのは手錠とグローブだった。



「それは何なんだ?」


「これはちょっとした実験の過程でできた副産物です。何かあった時にと取っておいたんですが、まさか本当にそんな時が来るなんて思わなかったッスねー。」


「実験…?お前は発明家か何かなのか?」


「んー、まぁ、ちょっと裏のあるダンディな研究者ってところスかね?」


「…そうか。」


「ちょ、ちょっと!そんな生ゴミを見るような目で見ないでください!!ほんのジョークッスから!」


「大丈夫だ、分かってる。お前は生ゴミだったんだな。」


「いや!?何も分かってないッスから!」


「これ以上遊ぶと話が進まないんでな。そろそろ説明してもらおうか?」


「アタシの発言がん無視ッスか…。まあいいです。まずはこの手錠をつけてもらいます。」



手に持っていた手錠を両方ともポデーラの左腕にはめた。
手錠の鎖は異様に長く、2,3メートルはあるように見える。



「…?片手ずつにつけるんではないのか?」


「ええ、これでいいんです。じゃ、行きますよ…」


浦原は帽子を片手で押さえると、杖で自分の足元をコツンとつついた。


ふわっ


次の瞬間、突然浮遊感がポデーラを襲ったかと思うと、今度は真下へと落下していった。


「落ちることくらい言ええええええ!!!」


「アタシでさんざん遊んでくれた仕返しッス」


ポデーラが落ちて行ったことを確認した浦原は、ふふふ…と笑いながらポデーラの落ちた穴に自分も落ちて行った。











「どもー!いやー、すみませんねぇー。すっかり下に落ちること伝えるの忘れてましたーw」


「…ふふ、ふふふ…」


「あ、あれ?もしもーし?」


「ふふ、いや、構わんよ。……………後で潰すからな(ボソッ」


「今さりげなく恐ろしい事言いました!?」


「どうでもいい。それより、こんな所に落としたんだろう?今度またくだらん事でもしてみろ。本当に命の保証はしないぞ?」



今まで冗談めいていた雰囲気がポデーラが殺気を出し始めた事によっていっきに固まった。



「大丈夫ッス。今回は真面目にやりますよ。…それと、怒ってるときに殺気出すのどうにかしたほうが良いっすよ?ここにいる人は慣れてますけど、殆どの人はきっと気絶しますからね?」


「考えておく。」


「…はぁ。まあいいッス。始めましょうか。」



そう言うと、右手にさっきのグローブをはめ、ポデーラに見せる。



「さっき、とある実験の副産物って言いましたよね?実はこれ、霊体から魂魄を引きだす事が出来るんス。

本来、霊体と魂魄はほぼイコールなんスけど、詳しく調べると若干違うんです…って、こんな専門的な話をしても仕方ないッスね。

とにかく、その霊体から、あなたの魂魄だけを引き離します。
今その体を乗っ取ってるのはあなた自身なので、その体の持ち主の魂魄が引き出される事はありません。

…何か質問はありますか?」



「特にないが…。我の魂魄が引き離された後はどうすればいいんだ?」


「その後は、今あなたがつけてる手錠があるでしょう?それがあなたの魂魄とその霊体をつなぎます。
あたしがその鎖を断ち切れば、ひとまずの仕事は終了ッス。」


「ふむ…。まぁ、いいだろう。始めてくれ。」



浦原はグローブを深く着けなおし、歩きながらポデーラの胸にその手を重ね、そのままポデーラの横を通り過ぎて行った。

胸を押され、バランスを崩すかと思ったポデーラは、足を一歩後ろへと下げた。


すると、今まで自分がいた体は目の前にあり、自分の感覚はその後ろにあった。



「実験成功ッスね。良く自分の身体を見てください。」



言われたとおりにポデーラは自分の姿を確認すると、それは懐かしい、圭と出会うまでの虚としての自分の姿があった。



「これは…。懐かしいな。まさかもう一度この姿で動けるとは思えなかった。」



「霊体から魂魄を抜いてしまうと、本当は霊体と魂魄それぞれを維持できなくなって霊子となって崩れてしまうんスけど、その体は魂魄が二つあったので霊体は崩れることはありません。
多分、通用するのは今回だけっすね。
それと、あなたが消滅しないでいるのも、この手錠とこの穴の中の空間のおかげなんスよね。」



「…そういえば、ここは外と違って、霊子濃度が高いな…」



「お、流石ッスね、正解です!ここは尸魂界の10倍ほどの濃度が発生するような仕組みでできてるんス。詳細は機密事項なんで教えませんよ?
まあそう簡単に10倍なんてできないんで、ここより大体10メートル上に行けばあっちと同じ濃度になってますがね。
つまり、あなたがここから10メートル以上うえに行けば…消滅します。」



「そんなものなのか…?というか、我は今、そんなに危険な状態なのか?」



「ははは!ちょっと脅かしすぎましたね。確かに10メートル以上うえに上がれば消滅しますが、それはこの空間であなたの魂魄が自立していれば、の話ッス。
万が一にもそうならないために、その手錠をつけてもらってるんスよ。」



「確かに、この手錠がついている限りは、無理をしなければ10メートルも上に行くことはないな。」



「それだけじゃないんすよ。もしこの空間に不備があった場合、その手錠がなければあなたは即死していました。

というのも、その鎖が付いている間は、まだあなたは魂魄として自立してないんスよ。まだ、その霊体から完全には離れてません。

ま、その道具もこの空間も、実際に使うのが初めてだったんで、失敗したらどうしようとか、内心思ってたんスけどね!あははははは!………あ」



「ほう?それが本音か。つまり成功する確率など知らずに我を実験台にしたというわけか。
確か、さっき命の保証はしないと言ったよな?ということは、覚悟はできていたということか…。」



「ちょ、ちょっと待ちましょう!ほら、実験も成功したんですし、ね!結果オーライってことで!」



「ふん。まぁ、今回は良いだろう。お前も何か考えがあったんだろうからな。で、次はこの鎖を断ち切るんだろう?早くやってくれ。」



「ふぅ(実は何か考えがあったわけでもないんスけど…)。じゃあ、切っちゃいましょうか。ここの霊子濃度も安定しているようなので、大丈夫なはずッス。」



そういって、先ほど斬魄刀に変えた杖を再び変化。刀の姿へと戻した。
鎖の片方をポデーラに持たせ、もう片方を浦原がもち、ピンと張らせた状態にする。



「さぁ、行きますよ…!せいっ!!」



勢いよく、斬魄刀を振り下ろした浦原だったが、鎖が切れることはなかった。



「あ、あれ?すみません、もう一度やるんで、一回鎖を下ろしてもらってもいいッスか?」


「あぁ、分かった。」



今度は地面に着いた鎖を叩き斬るように斬魄刀を振り下ろす、が。


ギン!


「何で切れないんスか…」


全く微動だにしない鎖に、計算が狂った浦原は何かブツブツと呟きながら考え事を始めてしまった。


しばらくして、何かを思いついたように顔を上げ、もう一度鎖の前に立った。



「すみません、出来るだけ離れてください。ちょっと威力上げますから。………剃刀紅姫。」



斬魄刀から放たれた斬撃は、戦闘中だった時のものと比べ、遥かに威力は抑えてあるものだった。まぁ、それでもさっきの攻撃よりは強いのだが。


だが、その斬撃を受けてもなお、鎖は傷一つ付くことはなく、きれいなままだった。



「ふむ、やっぱり…。」


「何がやっぱりなんだ?」


「あなた、その体の一部だったんじゃないんスか?」


「…その通りだが、何故分かった?」


「鎖が切れない原因ッス。ここまでして切れないということは、逆に切れてはまずいということッス。
例えば、あなたがその体の心臓部を担っていたのだとすれば、あなたがいなくなってしまった瞬間、彼は死んでしまうでしょう。」



これは困った…と浦原は呟き、今回ポデーラをこの体から引き離すのは困難だと考えた。

取りあえず、このままポデーラの魂魄を霊体から引きだしておいても意味がないのでひとまず戻しておく事にした。



「ひとまず魂魄を体に戻してもいいっすか?」


「構わん。やってくれ。」



そう言うと、もう一度グローブでポデーラの胸を押し、霊体の中へと戻した。
体の中に戻る時、何とも言えない感覚が体の中を走り、ポデーラは身震いした。



「慣れるとかそういう事ではないが、何だか変な感じがするな…。」



「まぁ、そればっかりは仕方ないッス。
…そういえば名前を聞いてなかったッスね。もしよければ教えてもらえます?」



「そうか、言ってなかったな。我の名はポデーラ・アブソリュートだ。」



「じゃあ、ポデーラさんと呼ばせてもらうッス。で、ちょっと質問なんスけど、ポデーラさんがここに来た目的はなんスか?」



「?今更何を言っているんだ?それはここに来た時に行っただろう。この体を元の所持者に返してやってほしい。」




本当に今更な事を聞かれたのだが、ポデーラは仕方なく答える。
が、その答えに満足したのか、浦原はうんうん、と頷き、自分の横に上まで続く梯子を出現させた。




「そうッスよね。アタシなんか勘違いしてたみたいッス。別にポデーラさんをその体から引き離すなんてしなくてもよかったじゃないですか。」



「どういうことだ…?」



「つまり、その体からあなたを引き離さない方法でも、元に戻せるんスよ。ただ、それにはあなただけではなく、あなたとその体の持ち主である彼の意見が必要なんスけどね。…どうにかして、もう一度だけその体の持ち主と話せないッスかね?」



「そうは言われてもな…。方法があればとっくに戻している。」



「そうッスよね…。ハァ〜…。」



ダメ元で聞いてみたが、やはり想像した答えしか返ってこなかったため、浦原は落胆する。
やはり、どうにかしてあの鎖を断ち切るべきなのだろうか。それとも何か別の方法を考えて…


また新しい事を考え始めてしまった浦原だが、それを見たポデーラが仕方ないと、唯一の方法を教える。




「が、方法がない訳でもない」



「お!それは本当ッスか!?」



「ああ。だが、ちょっと手荒な方法かもしれんな。しかも確実に戻るとも限らん。」



「そうスか。…それでもいいです。方法を教えてもらえませんか?」



「…そうだな、お前ならどうにかできるかもしれん。…一度だけ我がこの体を乗っ取った事があった。虚との戦いでこいつが追い詰められた時の事だ。そのときはこいつが限界になって気絶するのと同時に入れ替わった。つまり、我を気絶させればいいんじゃないか?」



「ふむ…。そうッスか。じゃあやるしかないッスね。でも、今日は霊体から魂魄を取り出したりと、分からないかもしれないッスが結構疲労が溜まっています。この梯子を登って、また時間をあけてからにしましょう。」





二人が梯子を登って行き、地下室を後にして元の部屋に戻る。

穴の中にいる間は全く分からなかったのだが、外に出た瞬間、いきなり疲れが溢れて来た。浦原が言うには、霊子濃度の濃い場所だったので平気だっただけであって、いきなり濃度に差のある地上へ出たため、このような状態になったのだという。


この状態を見て、やはり1日はあけたほうがいいと浦原は伝え、空いている部屋を一つ貸し、自由に使うように言った。


その後は何だかんだで昼を過ぎ、時間もちょうどよかったので昼食をとり、平和な1日を過ごした。


ポデーラはこのような行動を知っていたが、自分が平穏な暮らしをするとは思っておらず、風呂を洗ったり、台所で料理をする鉄裁に興味津々だったという。


そして夜になり、始めて寝る、という行為をしたポデーラだった。

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