暗い夜の中に、一つの人影があった。
その人物は一枚の布に身を包み、家の屋根の上に立っていた。
「そろそろか…。」
その人物の眼下では不良同士が喧嘩をしている。
傍から見ればそうだろう。
だが、複数対一。
一人の方は学生服でオレンジの髪の毛。
複数の方はいかにもチンピラみたいな服装をしていた。
「何だァ!?イキナリ出てきて山ちゃん蹴倒しといて、その上俺らにココをどけだァ!?」
話を聞く限りではオレンジの男が先に喧嘩を吹っ掛けたように聞こえる。
キレて言い寄っている不良の一人だったが、オレンジに近付いて行った結果、その男も顔面を蹴られ撃沈した。
だがどうもオレンジはただ喧嘩を吹っ掛けた訳では無いようだった。
近くの電柱のそばで倒れている花瓶を指差し、怒っている。
その花瓶はこの前ここで死んでしまった少女への供え物だった。
それをスケボーで遊んでいた不良どもが倒して、オレンジがキレたと…。
しばらく眺めていると、突然現れた血まみれの少女を見て、不良たちは泣きながら逃げていった。
「早めに成仏しろよー」
少女の幽霊にそう言い残してオレンジはその場を去って行った。
「さて、俺もお仕事お仕事っと。」
屋根の上で見物していた人物…神崎圭は、オレンジが去っていったのを確認して下に降りた。
「…お兄さん、だれ?」
先ほどの少女の近くに移動したら、少女がそう尋ねた。
「お兄さんはね、迷子の幽霊たちを天国へ連れて行くお仕事をしてるんだよ。」
「え…、私、天国に行けるの?」
少女は不思議そうな顔で聞いてくる。
まぁ、この年で死んでしまったら、天国なんておとぎ話のようなものなのだろう。
年の取ったおっさんの幽霊とかだと、
「う、嘘だ!貴様は私を陥れようとしているのだろう!」
とか、訳の分からん事言ってくるし。
実際は天国ではなく、尸魂界に行くから嘘ではあるんだが…
地獄では無いので半分は本当だろう。
「うん。君は良い子だったみたいだからね。…それにもう少しすると、ここに怖い怪物がやってくるんだ。
それに襲われちゃうと、天国にも行けなくなっちゃうんだよ。
だから、お兄ちゃんが先に君を天国へ送ってあげたいんだけど、嫌かな?」
その問いにふるふると首を振った少女に、刀を取り出し、柄の部分をおでこでコツン、と突いた。
瞬間、少女の後ろに穴が現れる。
「あ、お兄ちゃん、さっきのオレンジのお兄ちゃんに会ったら、ありがとうって言っておいて!」
「うん、分かったよ。」
それを聞いてほほ笑んだ少女は穴に吸い込まれていった。
完全に穴が閉じた後、圭も先ほどオレンジが去っていった方向に歩いて行った。
数分後…
『魂…。どこかに…。喰いたい…』
全身が白い化け物がのそのそと歩いてきた。
『ここに…濃い魂の痕が…。まだ…近く…濃い魂…近くにある…』
そう呟いて、先ほどオレンジと圭が去って行った方向に進んでいった。
それから1時間ほど経ち、オレンジの少年―――黒崎一護の家の前では、激しい戦闘が繰り広げられていた。
白い化け物と、制服ではなく、黒い死神の死覇装を纏った一護が戦っていた。
だが、一護の方が圧倒的有利に戦いを進めている。
「ウチの連中に手ェ上げた罪を思い知れ、サカナ面!!」
そして、慎重ほどあるどでかい刀を振り下ろし、白い化け物の頭を真っ二つにした。
化け物は消滅し、その場に再び静寂が戻った。
「ふむ、流石は一護。さ、今日のお仕事終了っと。報告しなきゃなー」
圭もその場を去り、浦原商店へと向かっていった。
「?…今そこに誰か?…気のせいか…?」
ふと視線を感じたルキアが周りを見渡すが、誰もいなかった。
黒崎家宅から去って行った圭は、数分後には浦原商店についていた。
コンコンコン
店の戸をノックすると、鉄裁さんが出てきた。
「神崎殿ですか。中へどうぞ。」
「ありがとうございます。浦原さんは?」
「奥の部屋でお待ちです。」
鉄裁を先頭にそのまま店に入っていき、浦原のいる部屋まで進んでいく。
いつもの居間に浦原は座っていた。
「お、神崎さん、お疲れ様ッス。今日はどうでした?」
「…ついに死神化しましたよ、あいつは。それにしても、身長ほどあるバカでかい刀でした。一護の斬魄刀は。」
「そうッスか…。ついに…。」
「あ。あと、あのローブみたいなの、ありがとうございました。多分気付かれませんでしたよ。
…しかし、浦原さんの言った通りでしたね。まさかここまで当たってるとは思いませんでした。」
今日は浦原さんが100年前の事件の時に身につけていた、あの霊圧を遮断するローブを借りていた。
いつもなら何も言われずに、夜に一護の観察へと行くのだが、実は今日は浦原さんが一護に何かあるから特に注意して観察してほしいと頼んできたのであった。
その結果一護はルキアと出会い、ピンチに陥り死神化した。
遠くから見ながらこんな出来事があったと思っていたのだが、今日それがあるとは分からなかった。
一体浦原さんはどうやってこの出来事を見越したのだろうか?
「ところで、以前浦原さんが言っていたお客さんってのは、あの死神の事ですか?」
「そうッス。実は少し前からこの店に来て、色々裏の商品を買ってもらってるんス」
なるほど、もう交流はあったと…。
ま、そう言う俺もとっくに交流はしてたんだけどね。…20年ほど前に。
しかも、きっと明日から転校してくるんだよな。
まぁ、クラス違うから問題ないか?
「じゃあ今日はもう帰りますねー。明日も学校ですし。」
「了解ッス。それと、申し訳ないんですが、これからも黒崎さんの観察をお願いしてもいいッスか?」
「構いませんよ。元々そのつもりでしたから。」
「そうッスか。…それはありがたいんスけど、これからは彼の行動が夜だけでなく昼にも起こることになるでしょう。そっちもお願いできますかね?こっちは無理にとは言わないッス。」
あぁ、そうか、もう活動は夜だけじゃなくなるんだっけな…。
「構いませんが、できる限りの範囲で行いますね。」
「えぇ、それで構わないッスよ。無理言って済みません。」
「気にしないでください。浦原さんの頼みなら喜んで聞きますよ。…では、今度こそこれで。」
そういって店を出て行った。
次の日、学校に行くと、周りのやつらが騒がしかった。
「おい、聞いたか!?1-3に転校生が来るらしいぜ!」
「あぁ、噂だと可愛い女の子らしい!」
「マジで!?」
「おいおい、そりゃホームルーム終わったら見に行くしかねェな!!」
あぁ、やっぱりこれか。きっとルキアが転校してきたんだろう。
1-3か。ちょっと覗いてみるかな。
ホームルームの終わった後、1-3の教室に行くと、俺に気づいた水色が近づいて来た。
「おはようー。圭から教室に来るなんて珍しいね?あ、もしかして転校生でも見に来たの?」
「おはよう。ま、そんなところだ。転校生ってのは誰だ?」
俺が尋ねると水色が教室の一番後ろの列を指差し、紹介してくれた。
「彼女が今日転校してきた朽木ルキアさんだよ。何でもご両親の都合で急遽引っ越してきたみたい。」
「ふーん…。」
そんな話をしていると、俺の視線に気が付いたのか、チラッと俺の方にルキアが振り向いた。
一瞬すごく驚いた顔をしていたが、気のせいだと感じたのか。軽く会釈し、俺もそれに合わせその場はそれで終わった。
俺の顔を見て、一瞬驚いた顔をしていたのは、きっと俺が、彼女の知っている神崎圭に似ていたからだろう。
しかし今現在は、髪の色も違い、同じなのは眼帯をしているくらいか。
眼帯も以前していた黒いものではなく、普通の白い眼帯。…普通の眼帯ではないが。
それに何よりも、俺からは霊圧なんてものは微塵も感じなかったからだろう。
他人の空似、という事で終わったはずだ。
確か一護も海燕さんに似てたとか言ってたし。
「あれ?圭って朽木さんと知り合いなの?」
「んにゃ、たぶん違うと思う。そういえば、今日は一護がいないな?」
「あぁ、昨日の夜に、トラックが家に突っ込んできたみたいで、今日は休みかもしれないんだって。」
「へー、でも一護のことだ。どうせ無傷だろ。」
そんな話をしながら1限目が始まるので、水色と別れてクラスに帰って行った。
「あ、あの、小島君?」
「ん?どうしたの朽木さん?」
「さっき一緒にいた男の人って…」
「あぁ、圭のこと?あ、もしかして知り合いだった?」
「圭…。その、名字の方は?」
「名字は神崎。彼の名前は神崎圭だよ。」
それを聞いた瞬間、ルキアの表情が曇った。
水色が心配して声をかける。
「やっぱり知り合いだった?仲が悪かったとか?」
「いえ…。ただ、同じ名前の似たような顔の人と、昔知り合いだっただけです。でも、彼はその人とは雰囲気も違ったので、ただの人違いだと思います。」
「そっか。圭も知り合いじゃないって言ってたから、別の人かもね。ほら、世の中には自分と同じ顔の人が3人はいるって言うしさ。」
(神崎殿…。そう、あの人はもう…。私がただ、未だあなたにすがろうとしているだけなのだろうか…?)
2限目も終わり、休み時間に入ったころ。1-1の教室の前を、一護が通り過ぎて行くのを圭は見た。
少しすると今度は一護をルキアが引きずるようにして歩いて行くのを見た。
「さて、俺も行きますか…。」
カバンから飴玉のような物を取り出すと、それを口に入れる。
周りから見ればそれだけなのだが、実際には圭が死神化し、圭の義骸には別の魂魄が入っていた。
「じゃ、ちょっと出かけて来るから、その間はよろしく。」
そう言うと、圭の義骸はコク、とだけ頷いた。
その後は公園に行き、一護が死神としての覚悟をちょっとだけ決めるのを見届けた。
――あとがき――
ここから漫画の第一巻に入っています。
原作と同じところは大体簡略して書かせていただきたいと思います。
しかし、作者が書きたいと思ったところは圭のちょっとした絡みを加えてお送りさせていただきます。
今後もこの作品をどうぞお楽しみください。