「ラーはラーメンズのラー…。シーは品川庄司のシー…。」
夜の住宅街にのんびりとした女の子の歌声が響く。
女の子は買い物の帰りで、ビニール袋をぶら下げながら帰宅しようとしていた。
横断歩道で信号が変わるのを待ちながら、自分で作った替え歌を歌っている。
「さぁうーたー……?」
信号も変わり、歩きだした女の子。
…しかし、
ギギキキキィィキキギィィィ………
自分の右側から、車が猛スピードで突っ込んできていた。
――side 織姫――
「ドーはドランクドラゴンのドー♪レーはエレキコミックのレー♪
ミーもエレキコミックのミー♪ファーはアルファルファのファー♪」
「…いつも思うけど、楽しそうだな。」
「えー?こんな天気のいい日には楽しくお散歩するのが良いんだよー?一緒に歌おうよ!」
「…一緒に歌いたいけど、その歌に合わせるのは流石に難しいぞ。次がソってことしか分からないな…。」
私たちは二人でお買い物から帰る途中なのです!
え?誰と一緒なのかって?
えへへー、実は何と!
「たわけ!あれほど頭の描かれたボールだけを狙えと…!」
「だから何の特訓かわかんねーって!そもそもテメーの絵で…!」
ん?下に誰かいる?
私は道の上から声のする方を見降ろす。
下の方には二人の人影があって…
「ありゃ?」
良く見ると片方は見知った人物で…
「黒崎くんだ!」
「あぁ、そうみたいだな…。俺は待ってるよ。行っておいで。」
「うーん…じゃあお言葉に甘えて行ってきます!ちょっとで戻ってくるから!」
「あぁ、俺はここで本読んでるから、そんなに焦らなくてもいいよ。」
「うん、ありがと!」
私はそう言って近くの階段から下へ降りて行く。
ふふ…、黒崎くん私の事に気が付いてないみたい!
「こんにちは黒崎くんっ!!!」
「うわぁ!!」
黒崎くん驚いたみたいで今びくぅ!!ってなった!
「いっ…井上か!ななな何してんだこんなとこで!?」
「えへへ、ちょっと晩ごはん用の買い物でしたー。ネギとバターとバナナとようかんを買ったの!」
(な…何を作る気だろう…)
ん?黒崎くんが何か言いたそうな…?…気のせいか!
「黒崎くんはここで何してたの?」
「あ?俺か?俺はえーっと…」
(何て言おう…特訓してましたなんてハズカシくて言えねーしなー…)
また黒崎くんが考え事してるー。………あれ?
「朽木さん!?」
うわぁ!朽木さんだ!黒崎くんと一緒にいるってことは仲が良いのかな?
この前転校してきたばっかりなのに凄いなぁ黒崎くん!
「あら井上さんご機嫌麗しゅう!」
「え…あ…はい、ご機嫌うるわしゅう?」
朽木さん、こんな感じの人だったんだ…?
なんか想像とちょっと違ったなー…
「その腕…どうした?またころんだのか?」
「え…あ、これ?ううん、はねられそうになったときに…」
「は…はねられたぁ!?車にか!?」
「うん、でもそうじゃなくて…。はねられそうになった時に助けてもらって、その時にころんで怪我しちゃったの。」
「助けてもらった?そんな勇敢な奴いたのかよ。運良かったなー…。」
うん、あの時はすごく驚いたなー。だっていきなり後ろから突撃されたんだもん!
あれはプロのアメフト選手かと思ったよー…。でも…
「でもね、その助けてくれた人って言うのは…」
そういって私は降りてきた階段の上を見上げる。
近くの木にもたれかかって、その人は本を読んでいた。
「あれ?何で圭があそこにいんだ?」
「うん、私を助けてくれたのって、神崎くんだったんだ。」
「へー…ってマジかよ!?…でもあいつなら妙に納得できるなー…。」
私たちの視線に気が付いたのか、顔を挙げてこっちを見ると小さく手を振って来た。
「今日は圭と一緒に買い物してきたのか?」
「うん、昨日助けてもらった後にね、危なっかしいからって、少しの間一緒にいてもいい?って言われたんだー。」
「へぇー、あの圭がねぇ…」
何でか黒崎くんが神崎くんを見てニヤニヤしてるよ…?
「というより、井上さんは良く怪我をするの?」
「よくなんてもんじゃねぇよ!ほとんど毎日だ!」
「えへへー、あたしってボーっとしてるから…」
朽木さんがそう聞いてきたけど、黒崎くんが余計な事言うよー…
でも何でだろう?ホントに最近怪我することが増えちゃってるんだよね…
「ふーん…。ん?…その足の痣は?ちょっと見ていい?」
「え?これ?うん、別にいいよーこれも昨日はねられそうになった時にどっかにぶつけたんだと思うけど…」
でも私の足を見たとき、朽木さんの顔が一瞬怖くなった気がした。
「…朽木さん?…どうしたのこわい顔して?」
「え?あ、いや、痛そうだな…と思って…」
「すごい!よくわかるね!ホントどこの怪我よりもこの足の怪我の方が痛いの!」
「あァ!?オマエそれマヒしてんじゃねぇのか!?医者行けよ医者!」
「え?…えーっと…///」
「…なんでソコで照れる?」
い、医者に行けって、つまり家に来ないかっていう、く、黒崎くんからのプ、プ、プロポーズなんじゃ…!///
「あっ!もうこんな時間!」
「何か急ぎか?」
「うん!笑点が始まっちゃう!」
私はそう言いながら急いで階段を駆け上がっていった。
上で待ってくれてた神崎くんが本を閉じてこっちに歩いてくる。
「大変そうだなー!送ってってやろう…って圭がいるから問題ねぇかー!」
「う、うん!それに悪いし、大丈夫だから!!」
「そっかー!んじゃ明日なー!!」
「え?えと…、…うん!明日ねっ!」
そうして私は神崎くんの所まで小走りで駆けて行った。
「…良かったのか?誘いに乗らなくて。一護が送ってくれるって言ってたのにな。」
「え?で、でも…恥ずかしいよぉー…」
「そうか、井上さんは一護の事が好きだったのかー…。」
「もう!神崎くんまで、たつきちゃんと同じこと言うんだから!」
そうだよ、私は黒崎くんのことは!黒崎くんのことは…
「ま、そう言うことにしておこう。今夜は家に有沢が来るんだって言ってたね。」
「うん!今日はたつきちゃんとお喋りするんだ!」
「そっか…。ま、家はすぐ近くにあるんだ、何かあったらすぐに教えてくれ。」
「うん!…でも何でそんなこと?」
「それは井上さんが危なっかしいからです。」
「答えになってないよー!もぉー!」
そう、実は神崎くんは私の家と近いんだって!昨日初めて気付いたの!
私の家から5件くらい挟んだところかな?歩いて1分くらいなんだよ!
昨日私を助けてくれたのも、偶然家に帰る途中で、私と同じ方向だったからなんだって!
「ほらー、置いてくぞー」
「あ、待ってよー!」
私が考えに耽っていると、神崎くんは先に歩きだしていた。
急いで神崎くんに追いつこうとしたけど…
「あっ!」
躓いてしまって勢いよく、ビターン!!
って盛大な音を出して転んじゃった…
…と思ったんだけど、
グイッ!
「…大丈夫か?」
「あは、あはは…また助けてもらっちゃったねー…」
「全く、ホントに危なっかしいんだから…」
「えへへ…」
と私も思わず笑っちゃったんだけど、何だかんだ言って神崎くんって優しいんだよね!
今日もこうやって転びそうになったところを何回か助けてもらってるし…
そのたびにこうやって呆れたような顔をしても私の腕を優しく取ってくれるんだ。
一度、神崎くんに「優しいんだね」って言ったら、「…そんなことはないよ。俺は。」ってちょっと悲しそうな顔されちゃったんだー…。
何かあったんだろうけど、そんなこと聞けそうにも無いんだよねー…。うぅ…。相談に乗って上げれたらいいのに…。
その後は私の家の前まで行って、さよならしたら、神崎くんは自分の家の方に帰って行っちゃった。