小説『死神転生』
作者:nobu()

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―side 美弥―

どうしたんだろう?家に電話がかかってきた後、電話に出たお母さんは倒れてしまった。
代わりに電話に出たお父さんは、電話を切ると血相を変えて家を出て行った。


(何かあったのかな…)


外を見ると、雨が降り出していた。
そういえば、お兄ちゃん、傘持ってかなかったけど、大丈夫かな…?

お母さんは今、部屋のベットに寝かされている。
今日はやることないなー…

そう思って私はテレビを付けた。何か面白い番組やってないかな?

テレビを付けるとニュースをやっていた。



『―――――今日、午前10時27分頃、――県――市――の公園前で、高校生ほどの男の子がトラックに撥ねられ、病院へ搬送されましたが、間もなく死亡が確認されました―――――』


(やだなぁ、これってうちの近くじゃん…)


そう思っていると、また電話が掛かってきた。


「はい、もしもし、神崎です。」

『あぁ、美弥か…。母さんはまだ起きてないか?』


電話の声の主はお父さんだった。


「ううん、まだ起きてないよ。お父さん、元気ないみたいだけど、どうしたの?」

『…家に帰ったら、母さんと美弥に話がある。それまで待っててくれ…。』


そう言って電話は切れた。
いつものお父さんじゃないみたい。どうしたんだろ?


お父さんが帰ってきたのは昼過ぎだった。
お母さんは1時間前ほどに目を覚ましたが、何があったのか聞いても答えてはくれなかった。


「母さん、美弥、大切な話がある。

………圭が………死んだ。」


え?お父さんは何を言ってるんだろうか?だって今日の朝あんなに元気だったじゃん。


「お、お父さん、何かの冗談だよね…?あ!カメラか!どこかに隠してるんでしょ?ドッキリなんだ!
…ねぇ、何とか言ってよ?冗談、なんだよね…?」


お父さんもお母さんも、下を俯いて口を開こうとしない。


「お母さんも何か言ってよ?お父さん、こんな冗談心臓に悪いよ?」


そうだ、そんなことある訳ない。お兄ちゃんが…そんなこと…


「美弥…」


お父さんはとても悲しいものを見るような眼で私の事を見てくる。


「嘘だって言ってよ!だって、お兄ちゃん、あんなに…あんなに!さっきまで笑ってたのに!それなのに…!」

「美弥、聞いてくれ、これは本当の事なんだ…嘘なんかじゃない。」


お父さんは半ば正気を失っている私を宥めようとする。


「嘘だ!嘘だ嘘だ嘘だ!!!!お父さんの嘘つき!大っ嫌い!!!!」


そう言って私は部屋を出て行った。


「美弥!待つんだ!!」


後ろからお父さんの声がするが、私は急いで靴を履いて、雨の中、外へ飛び出した。


(お兄ちゃん、いるんだよね?どこかにいるよね?)


傘も差さずに、私はただ我武者羅に走る。

何処にも無いものを探すために。






どのくらい走っていただろう?疲れた私は、ようやく走りを止めた。


(いない…お兄ちゃんが、見つからない…)


目の前が滲んできた。よく前が見えない。


『ニャァ―』


足元から鳴き声がした。下を見ると、そこにはイベがいた。


「…イベ?何でここに…?」


しかし、イベは何処かに走って行ってしまう。


(確か、お兄ちゃんはイベを探しに行ったんだよね?…なら、お兄ちゃんの居場所を知ってるかも)


そう思って、私はイベを追いかけて行った。


イベを追いかけていくと、お兄ちゃんとよく遊びに来ていた公園についていた。
そこには警察やマスコミなどがいて、大きなトラックが止まっている。


(そうか、ここは事件があった場所なんだ)


ここはさっきニュースで見た事故現場だった。

近くを見ると、不自然な水溜りがあった。何か赤黒い…

そして、気付いた。気付いてしまった。その水溜りは…血で出来ているものだった。
理解してしまうと、すごく気持ち悪くなった。


(……あれ?)


道路の奥側に、何か見えるものがある。
少し角度を変えて、落ちているそれを見ると…

それは所々が赤く染まった白い靴だった。しかもよく見たことのあるような…


(ま、さか…?)


私は貼ってあるテープを超えて、少しずつそれに近付いていく。


(違うよね?きっと他の人のだよね?)


だが、残酷にも、彼女のその考えはあるものによって否定されてしまう。


   KANZAKI KEI 


彼女は知っている。圭が靴のかかとの部分に自分の名前を書いていたことを。


「ぁ…ああ、うぁあああああああああぁぁあぁぁああぁあぁぁああああああ!!!!!!!」


そうして、彼女は糸が切れたように、その場に倒れこんだ。
その言葉にならない叫びに、警察が気付き近づいてくる。


「!?…君!どうしたんだ!?大丈夫か!?……おい、救急車だ!誰か救急車を呼べ!」


しばらくして来た救急車に、美弥は乗せられ、病院へと運び込まれた。
彼女の頬には、一筋の水が流れていた。







………ここはどこだろう?

美弥は気付くとベッドの上で寝ていた。



「えぇ、特に異常はないです。ただ、ご家族の方だったとは。私たちの注意不足でした。
………大変申し訳ありません。」

「いえ、親である私も、同じことが言えます。ご迷惑をおかけしました…。」


誰かの話声が聞こえてくるが、まだ覚醒していないため、内容が頭に入ってこない。
近くの時計を見るともうすっかり夜になっているみたいだ。


「ん、美弥、目を覚ましたのね。気分はどう?」


ベットの横にはお母さんがいた。
気分はどうだって、それよりここはどこなんだろう?


「お母さん?ここはどこ?」

「ここは病院よ。あなたは救急車に運ばれたの。もう、ビックリしたんだから…。」


お母さんは怒ってはいないものの、とても悲しそうな顔をしている。

そうか、私、確か公園に行って…


「心配掛けてごめんなさい。…私、お兄ちゃん、の、…靴を…」


しかし、最後まで伝えられず、涙が溢れて来てしまった。


「そう、辛かったわね…。今は、まだ考えなくてもいいわ。今日はもう寝なさい。」


お母さんは私に毛布を掛けなおしてくれる。


「うん、ありがとう、お母さん。」


そう言って、私はまた眠りに就いたのだった。




―side 裕也―

電話が掛かってきた。圭と美弥の事で頭がいっぱいだって言うのに、今度は何なんだ!


「もしもし、神崎だ。」

『もしもし?警察のものですが、息子さんの事件現場にお嬢さんが来てしまったようで、いきなり倒れてしまったので、病院へ搬送させていただきました。』


受話器から聞こえた言葉にビックリした。


「何!?美弥が!?病院の場所はどこだ!」


病院の位置を聞いた俺は荒々しく受話器を叩きつける。


「あなた、美弥がどうかしたんですか?」


巴が不安そうに聞いてくる。


「あぁ、圭の事故現場に行ってしまったらしくてな、気絶して救急車で運ばれたようだ。これからその病院に行くぞ。」


そう言って車に乗り込み、美弥のいる病院へと向かった。

美弥…そうか、見てしまったのか…



適当なところに車を止めて、急いで病院の入口に向かう。
病院に入ると、少し背の高い男が話しかけてきた。


「神崎さんですか?警察の者です。病室はこちらです。どうぞ。」


裕也達は警官に誘導されて、一つの個室へとたどり着いた。


「美弥!大丈夫か!?」


ベットに横たわっている美弥を見て裕也は駆け寄った。


「怪我などはありませんでした。お父さん、少し外でお話をよろしいでしょうか?」

「あぁ、分かった。母さん、美弥の傍にいてやってくれ。」


巴を美弥のそばに残して、警官と話しをすることにした。
でも美弥が心配なので、部屋の前で話をすることにしてもらった。


「美弥は、あの事故現場にいたんですか?」

「テープを張って封鎖していたんですが、それも乗り越えてしまったみたいで…。」

「美弥に怪我はなかったんですよね?それなら、安心です。」

「えぇ、特に異常はないです。ただ、ご家族の方だったとは。私たちの注意不足でした。
………大変申し訳ありません。」

「いえ、親である私も、同じことが言えます。ご迷惑をおかけしました…。」


深々と頭を下げる警官。それと同じように裕也も頭を下げる。


「さて、今日はもう遅いです。私たちは今日は病院にいようと思いますので、もうお帰りいただいても大丈夫ですよ。」

「はい、それでは。」


そう言って裕也は警官を促し、一礼した後、警官は去って行った。

さて…美弥は大丈夫だろうか…


「母さん、美弥はどうだ?」


再び病室に入った裕也は巴にそう声をかける。


「ついさっき目を覚ましたのですが、今日はもう遅ので寝かせましたよ。」

「そうか…母さんは、もう大丈夫なのか?」


そうだ、母さんは電話が来て気を失っていたんだったな。


「はい。大丈夫です。…いまだに信じられませんが…。」


まだ少し不安そうなところもあるが、巴は裕也にほほ笑んだ。
自分自身まだ混乱しているところもある。


「まぁ、無理もない。今日はここに泊まろう。これからの事は、また明日考えればいいさ。」


看護師さんに後で布団を頼んでおこう。
そんな事を考えながら、「コーヒーを買ってくる」と、とりあえず自分も落ち着くために、裕也はその場を去って行った。


長い長い一日は、こうして終わろうとしていた。

-6-
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