小説『東方薬師見聞録』
作者:五月雨亭草餅()

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「出雲は居るか?」
「鬼神さま、出雲なら野菜小屋におりますが」
「そうか・・・」
「例の件ですか?」
「葉華は間が鋭いな」
「女子とはそういうものです。良いのですか?例の件に出雲を巻き込んでしまって」
本邸の玄関口に二人の強き鬼が対峙している。とはいえ、争いではないので普通の会話をしているが、二人の顔は、鬼のよくあるおちゃらけた感じは一切感じられない。それどころか少しピリピリしているようにも感じられる。
「あやつとてこの山の住人だ。そのうち巻き込まれるだろうし・・・・・。あいつが戦闘の爆音を聞いたまま黙ってられると思うか?」
「いえ・・・・。それは、無理ですね」
「だろう」
ピリピリしていても笑を忘れない。それが鬼の信条なのだろうか?
いつもと同じように多少は顔に笑みを浮かべる。
それでも何かが引っかかっているような不自然な笑みに葉華はなってしまっているが・・・・・・・。
「野菜小屋だな」
「ええ、そちらにいなければわかりませんが」
「ふん、あの男は自由そのものだな」
『鬼神』牙煉はそれだけ言うと玄関から出ていく。
残された葉華と言えば・・・。
「私たちは大丈夫なのだろうか・・・・」
どこかくらい表情を浮かべていた。
何かとてもひどいことを知ったかのような・・・・・・・・。








「出雲っ」
春の野菜小屋に牙煉は扉を開けつつ、出雲を呼ぶが・・・・。
返事はない。どうやらここではないようだが、隣の小屋から声が聞こえたところから考えると、夏の野菜小屋にいるようである。
「まったく・・・・。ここでとれた野菜はうまいがいざ訪ねてくるとなると面倒だな」
牙煉は徳利を持っているわけでもないのに呟いていた。




「で、なんの用だ?牙煉。明日は例年の宴の日だろう。なにかルールが増えたか?」
ノックをして入ってきた牙煉が中を見ると、出雲は頬に土をつけたりしながら雑草を抜いていた。
「いや。出雲、問題が発生した」
「・・・・・ふざけているわけじゃなさそうだ。何があった」

どうも、老体にムチを入れて体を動かしている(嘘)薬師出雲だ。
小屋で気分良く雑草取りをしていたんだが、牙煉の邪魔を受けた。とかふざけて言ってやろうとか一瞬思ったが、こいつがまとっている重苦しい雰囲気からどうやらふざけている場合じゃないらしい。鬼であるこいつらが、問題を俺に言ってくるということは鬼内部だけの話ではすまないということ。
つまりは、この山に何かがあったか、人里で何かがあったかのどちらかになる。
で、可能性的には・・・・。
「人里がまた発展でもしたか?」
「違う。この山の問題だ」
・・・・・・。そりゃぁ、こっちにとっても死活問題だ。
人里の発展も同じだが、攻めて来られたときはいざとなれば逃げればいい。
だが、この山の問題となればそうはいかない。
でも山に何か起こったとは思えんし・・・・・。
「ほかの妖怪でも攻めてくるのか?」
こっちは逃げるわけにはいかないからな。妖怪の種族の序列が変わってしまう。
今は鬼が負けなしだから最強の地位を手にしているが、戦わずして逃げでもすれば一番下にでも落ちるだろう。
序列が上ならば堂々と土地を歩いてられるが、したならば隠れていかなくてはならない。
奴隷のように扱われる場合もあるからな。まあ、鬼に対して、相手が一人であったとしてもほかの妖怪がそんな扱いできるとは思わないけどな。だって死ぬし。鬼に殺されるから・・・・・・。
「ああ、天狗の大集団だ」
「おいおい、そりゃまたずいぶんと大きな勢力が来るもんだな」
天狗の勢力・・・・。
鬼に次ぐ力を持った勢力と言われている。
個々の力では鬼に負けると言われるが、数は鬼が1000ちょっとしかいないのに対して6000以上はいるらしい。
また、天魔と呼ばれる天狗最強の王者は鬼神にも匹敵する力を持つ。大天狗と呼ばれる10名は鬼の四天王と匹敵するとか・・・・・・・。
「明日の宴に参加すると、我々が勝てば山を寄越せと言ってきた。どうやら我らこの山の最強は我だと思われているらしくてな。我に書状を送りつけてきたが、お主の方が強いからな。一応知らせには来たぞ。あとはおぬしが山を去ろうが戦いに参加しようがしなかろうが自由だ」
「律儀なもんだな、まあその場になって決めるよ。野菜持ってくかい?」
「・・・・・・・・・・いただこう」
『鬼神』大雉牙煉は野菜を片手に自分の屋敷へと帰っていった。





翌日・・・・・・・・
「出雲は来なかったな」
「葉華・・・。しょうがないよ、あいつは人間だよ」
大量の妖怪。鬼と天狗が対峙していた。
しかし、鬼の側には河童の姿は見られるが、出雲の姿は見られない。
「葉華殿、美月殿。そろそろ始まりますぞい」
二人の四天王の裏から年老いた鬼が声をかける。
「「じい様。すいません」」
「大丈夫じゃ、我ら四天王がおれば勝てるわ。あんな軟弱妖怪共などな」
どうやら、この老人も四天王の一人らしい。
あとひとりは、鬼神の横で瞑想をして浮いているが・・・・・。
「開戦っ」
鬼神の一声で二つの勢力はぶつかった。

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