小説『東方薬師見聞録』
作者:五月雨亭草餅()

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今行くと

あなたは言った

あの桜

花びら散る頃

世界は巡る



行けるだろうか

あの山の向こう

灰に世界が包まれる前に

みんながいなくなる前に

世界が残っている間に

あなたが生きている間に





「勝ったか」
「ああ、まぁな」
勝った。だけどこちら側も損害はゼロじゃない。
幸いにも死者はいなかったが負傷者が38人。人里の軍隊の壊滅よりは損害が少ないと思うが・・・。
「・・・・・・・・・・」
「出雲、私の勝手な予想だが、彼らはまた来るぞ。そのときに軍師たるお前がそんなんでどうする」
「ああ、そうだな」
そうだ、俺の采配にみんなの命がかかってるんだ。
失敗すればみんなが死んでしまう。
ああ、分かってるさ。
俺は落ち込んでいられない。次にまたやつらが来る時は武器も新しくなっているはずだ。それでも勝たなくちゃ成らない。じゃなきゃみんなの命が灯火を消しちまうからな・・・・・・・・。




10年後
「牙煉、茶でも飲んでいけ」
「いらんわ」
「あっそ」
ふぅ、落ちつかねぇな。なんとなくだけど。
嫌な予感がする。何でだろうな、なんかざわざわする感じって言うか・・・・・・・・・。
「じゃあな。また明日会おう」
「あ、ああ。嫌な予感がする。気をつけて帰れ」
「ふん、その忠告受け取っておこう」
なんなんだこの嫌な感じは。
だんだんでかくなってくる。気分もわりい。
「葉華、黒天、寺子屋の生徒たちを集めろっ」
なんかあるぞ、これは。相当不味いぞ。
犯人は確実に人里の連中だ。
それだけは分かる。
「あ、集めたぞ。どうしたんだ出雲」
「私に指図するってことは何かあるんでしょう?」
「春の野菜小屋に入ってろ。全員だ」
そろそろだ・・・・・・・・・・
ゴォォォォォォォォォォオォォォォォォォォ・・・・・・
「きゃぁぁぁぁぁぁ」
「な、何?この音」
「いいから急げ」
まずいぞ、記憶があやふやになっているからいまいち分からんが大量殺戮兵器を撃ってきやがったなこれは。
野菜小屋は能力で壊れないからどうにか成るとしても他の連中をどうする。山のあちらこちらにみんなバラバラに生活しているぞ。
クソッタレ、
「マスタァァァァスパァァァァァァァク」
出雲から放たれた巨大な光線がミサイルを飲み込んだ。
ボンッ
ミサイルはそれによりどうやら爆発したらしいが・・・・・・・・。
怪しい色の気体が宙に漂い始める。
「まじかよ、毒ガスか」
出雲は難なのか気付くと、声を張り上げる。
山全域に届くように。
「毒だぁぁぁぁぁ、全員山から退避しろォォォォ」
しかし、すでにそれは遅い。山には紫がかったような、オレンジのような気体が漂い始めていた。



「お前たちは小屋から出るなよ」
出雲は小屋の中に毒ガスが入らないように注意してから、春の野菜小屋に入り寺子屋の生徒と葉華、黒天に声をかけていた。その数およそ30人余り。
「はい、せんせい・・・・・」
いつもと何かが違うことに生徒たちも気付いているのかどことなくくらい声になっているが、出雲は振る舞いを変えることはない。
「葉華、黒天。絶対に小屋から出るな。俺はすぐ戻る」
そういうと小屋から彼は飛び出た。人里の方へと向けて走り出す。
彼が山を走れば走るほど、死ぬ間際になったと思われる妖怪たちが見られる。出雲自身は、能力で空気を浄化させているのだが、さすがに広範囲にそれを行うことはできない。
「くそっ・・・・・・・」
ふざけるな、こんなのありかよ。
許さない、絶対に許さない、彼は走ることを放棄して大空へと飛び出した。
そして、彼の目に入ってきたのは山へと押し寄せる人間の軍隊だった。

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