小説『東方薬師見聞録』
作者:五月雨亭草餅()

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臆するな

前だけを見て進め

諦めるな

最後の最後までは

突き進め

己が信じる道を

目を瞑るな

真実を見届けろ

さすれば道は切り開かん

歩んでいくべき道が・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

見えるか

先へと続いていく

長い長い階段が

上りきれ

夢を叶えんがために。





「よお、ここから先は通さないぞ」
「な、なんで人が?い、いや、妖怪のはずだ」
人間の軍隊は自分たちの前に人間が現れたことに驚いていた。
これまで受けてきた教育には、里以外には人間は一人もいないということを言われてきた。
だというのに、自分たちの目の前には一人の人間がいる。
「妖怪じゃないさ、俺は人間だ。・・・・・・だけどな、俺はこの山で生活してきた。おまえらは俺たちが何かしたわけでもないのに突如として攻めてきた。前は俺たちも迎撃が何とかできた。今回はなんだ?毒ガスか。俺がここに来るまでにもたくさんの妖怪たちが瀕死の状態になっていた。お前らは何がしたいんだよ、どんな生き物だって同じ命なんだよ」
出雲は自分に向けて武器が構えられていてもいつもと同じように、いや、いつも以上にしゃべる。
彼が思っていたことを目の前のたくさんの存在に向けてぶちまける。
「くっ、我々には関係ない。妖怪などという穢れた種族はこれからの時代に必要はない。全員、撃て」
指揮官がそういった次の瞬間、彼は宙を舞っていた。
そして、一瞬前まで彼が立っていた場所には、出雲が立っていた。
「ひっ」
「ああああ」
「指揮官っ」
「うわぁぁぁぁぁぁ」
頭がつぶれればまとまりがなくなる。軍隊は一瞬で崩壊した。
各人の思い思いの行動が取られ、出雲を撃ち殺そうと銃弾を放ってもかわされ、味方に当たる。逃げようと思ってもパニックに陥っており、逃げることもままならない。
そして、彼に近いところにいるものから宙を舞うことになっていた。
「死にたくないやつは失せろ」
「「「「「ひぃぃぃぃぃぃ」」」」」
そこからの行動はいくら崩壊した軍といっても素早かった。
とはいえ、全体がたまたま同じ事をしたというだけだったが・・・・・・。
言わずとも知れたこと、崩壊した軍は人里へと全力で逃げていった。



「追うか・・・・」
ああ、いくさ。何人山の連中が生き延びているかは分からない、でもまだ生きているやつらもいる。
さっきの連中が援軍を連れてもう一度攻めてこないとは限らない。だったらまだ生きているやつを一人でも多く生き延びさせるために人里の軍を本当に壊滅させる。それしかないさ・・・・・・・・。
「出雲・・・・、ひとりで行く気か」
出雲の後ろから聞きなれた声が響く。
鬼たちの頂点の
「牙煉・・・、無事だったか・・・」
よかった、本当に良かった。牙煉が生きていればまだ山は建て直せる。
・・・・・?天魔は?
「おい、天魔や美月はどうした?」
「生きとるわ」
「勝手に殺さないでよ」
「天魔・・・、美月」
彼らは無事だった。しかし、一つだけわかっていることがある。
ここにいる四人は出雲を除いて皆が毒を吸ってしまっているために寿命がだいぶ削られている。
明日にでも死んでしまうかもしれない。さすがに出雲といっても既に体内にめぐってしまっている毒を消すことはできない。出雲の行える空気の浄化は毒の無効化ではないからだ。
「ほとんど毒ガスを吸っていないもの達は河より向こうに送った。それ以外のものたちはこれから人里を攻める。どうせ死ぬのならせめて華々しく散りたいといってな」
「・・・・・・・・そうか。うちの屋敷にいた葉華、黒天を含めた37名は野菜小屋に入ってもらっている。あの小屋は壊れることもなければ燃えることもない。結界も張ってきたから毒ガスが中に入る心配もないしな」
出雲の言葉を聞くと天魔と美月が顔を緩ませる。
天魔は自分の娘が無事なことを、美月は自分の親友が無事なことを知ったから。
「お前ら行くぞ。もう皆が人里に向けて攻め込んだようだ」
「そうか、じゃぁ行くとしますか」
「いつでもいいよ」
「ふん、最後にド派手な花火を見せてもらうことにしようか」
四人は人里に向けて飛び出した。

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