小説『東方薬師見聞録』
作者:五月雨亭草餅()

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「急ぎなさい、月へ行くロケットは順次発射するわ。乗り遅れたものは置いていくわよ」
人里の中心部では、永琳たちを中心に前々から行われていた事業があった。
『人類の月への移動』
妖怪に襲われて一度は壊滅状態に陥った。
しかし、だからといってすべての妖怪を敵とみなすわけではなく、自分たちのこの里を襲ったクマ妖怪だけを恨んでいた者たち。そんなものたちは鬼などに戦争を仕掛けるのは反対だった。
そのため、戦うことを選ばず、住む場所を変えることを選んでいた。
地球にいたら、どこに行っても妖怪は居る。
だったらすぐそこにある月に住む場所を変えたらいいじゃないか。こういう思想を持った者たちは少なくなかった。それは自分たちがクマ妖怪に襲われて大事な人を失った悲しみを知っていたからだろう。彼等妖怪だって感情を持って生きている。
何もお互いにしたわけでもない無関係のものたちを殺すのには抵抗があったのだ。
だが、すべての人がそういう思想を持っているわけでもない。
妖怪は悪、人間が善。そう思っている者たちは軍に入っていった。
そして、手当たりしだいに妖怪を狩る。
周囲の妖怪を狩り尽くし、ついに山へと攻め込んだ。ただそれだけだったはずだったのだ。
前回はそれで軍が壊滅した。
今回は毒ガスという化学兵器を使うことによって妖怪を壊滅状態にして攻め込む予定だった。だが、鬼や天狗が本気でキレてしまい、逆に攻め込まれ始めている。街の外周で銃声が聞こえるほどに。
「急いで、死にたくなければ急いで」
永琳は叫ぶ、少しでも多くの人間を月に送るために。
人里の中に今いる者たちの多数が妖怪共存派、もしくは中立だった者たちだった。その考えを持った者たちを妖怪に殺させてしまっては本当にどうしようもなくなる。
「八意様、第一ロケットから第五ロケットまでが発射します。また住民の80%がロケット内への退避が完了しており、30分後には全ロケットの発射が可能になります」
「わかったわ、あなたも急ぎなさい」
「八意様はいかがしますか?」
「私は最後のロケットに乗るわ」
「了解しました」
「・・・・・・・・・、行ったわね・・・・・・。急いで、もう間に合わないわ」
人里の外側で1000mクラスの火柱が建った。




「悪いな、先に仕掛けたのはお前らだ。終焉の紅炎(ラスト・プロミネンス)」
出雲の前方の人の軍隊の中心にプロミネンス(紅炎)が発生する。
その豪炎は当たり前だが人々をチリ一つ残さず焼き尽くした。
「行け、最後に花火を上げるぞ」
出雲の号令に後ろにいた妖怪たちがプロミネンス(紅炎)の範囲外だったところにいた軍隊に襲いかかった。
「・・・・・・・・・・・・・・悪いな、永琳。お前だけでもせめて逃げられるようにする」
消え入るような小さな声で彼はつぶやいた。
命の恩人へ向けて。





「あっちは出雲か、さすがは火力最高峰とでも言うべきか・・・・。我らも行くぞ、紅蓮の二重奏」
一匹の鬼が紅蓮の炎と雷を降らせた。



「ふん、馬鹿どもめが、無粋な単色花火をあげおって・・・・・。我が鮮やかなものを見せてやろう。これまで使ったことがなかったが虹色の飃(つむじかぜ)」
七色の妖力弾がランダムに混ざりながら扇状に広がりながら風のように滅茶苦茶な軌道で前方の軍に降り注ぐ。
「鬼如きに遅れを取るなよ」
天狗たちが最後の花火をあげんと猛攻を仕掛ける。




ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴォォォォォオォォォォォオォォォォォォォォォォォォォォ
轟音を響かせながら待機を切り裂いてひとつの円筒状の塔が地を離れる。
それに続くように二本目、三本目と次々塔が飛んでいく。
上空に見え始めた月へと向かって・・・・・・。
「行ったわね、あとは5機のロケット。4機は行けるけど最後の一機は・・・・」
一人街の外側をむいて仁王立ちしていた永琳の背中に冷たいものが走る。
それは冷や汗などではなく、
「何しているんだい?&#10006;&#10006;」
「チッ・・・・・」
背中に突きつけられた銀色に輝く刃の影響だった。
「舌打ちとはひどイね、だから」
さぁぁぁ・・・・
銀色の刃が体に入り込む。
「くっ・・・・」
痛みを感じないわけがない。背中を切られているのだから・・・・。
「はははははは、俺をさっさと認めないからだ。知ってるぜ、お前が不老不死なことぐらい。だからいくら斬ってもシナナインダモンナァ?」
ザクッ
「がぁ・・」
永琳は背中を光宗によって深く斬られた。




「どこだ、永琳。もう逃げているならそれでいいが・・・・」
出雲は先に人里のなかに入り、命の恩人たる人物を探していた。時たま、逃げ遅れた人を見つけると、自分の能力で速く走れるようにし先を急がせる。
そして、自分は再び命の恩人を探し出す。先ほどからこれの繰り返しだった。
「死んでないといいがな」
外へ出ていなければ死んでいることはほとんどありえないだろう。
しかし、多数流れ弾が人里の中にも飛び込んでいることに出雲は気づいていた。
だからこそ探しているのだ。
そして・・・・・・
「あ、いた。えい・・・・り・・・・・・ん?」
彼の目に写ったのは背中から先決を飛び散らす八意永琳の姿だった。
そして、その後ろには血をたらす刀を構えた男の姿が・・・・・・・・。
「永琳っ」
彼はなりふりを構わず飛び出していた。

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