小説『東方薬師見聞録』
作者:五月雨亭草餅()

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出雲は再び永琳に刃を突き刺さんとしている男に飛び蹴りを食らわせる。
あくまで本気で蹴ってはいない。一切の妖力を感じられないところから種族が人間であり、大して防御力もないと思ったからだ。
そして、案の定その男は簡単に近くの民家の壁へとたたき付けられた。
「久しぶりだな、永琳」
「あ、ああ、え、出雲?」
「そのとおり」
その言葉を聞いた永琳はペタンと地面に座り込んだ。
「っとと、永琳怪我は大丈夫なのか?」
出雲はその重要な案件を忘れていたことを思い出し、永琳の背中を見ようとするが、
「平気よ、私は不老不死だから」
「はっ?」
「不老不死になれる薬を造って飲んだのよ。ついでにさっきあなたが蹴飛ばしたのが軍の最高指令にして人里の指導者。いわば私の敵対者ね」
永琳の敵対者、すなわち妖怪殲滅派の総司令官である。
10年前に大規模な攻撃を仕掛けてきたのもこの男。
軍を使って山に毒ガスを降らせたのもこの男。
追撃といわんばかりに軍を送り込んできたのもこの男。
すべての黒幕がこの目の前でうめいている男の仕業なのである。
「殺してもかまわないわ、彼がいなくても私たちは生きていける」
「・・・・・・・・・・・そうか」
出雲が何かを考えていることに気付いたのか、永琳は彼につぶやく。
「今殺すか殺さないかは別としてお前はもう行ったらどうだ?あの飛び去った円筒状の塔は月を目指しているのだろう?お前が乗り遅れたら誰が月を仕切るんだ」
「それもそうね、でも私がいなくてもみんなは大丈夫よ。みんなをまとめられる人材は何人もいるもの、でも。今回は私も行かせてもらうわ」
「さっさと行け」
出雲は自然を操る能力だからこそ一つの事に気付いていた。
今から天気が劇的に変わると・・・・・・・・。
「お前のせいで発射が遅れるぞ」
「じゃぁね、出雲。また遭えることを願っているわ」
「ああ、またな」
こっちだって不老不死なんだよなぁ、と心の中でつぶやいた出雲は永琳を見送ると、先ほど蹴飛ばした男を見る。
いまだに痛みのせいかうめいており、仲間たちがこんなやつに苦しめられたのかと思うと憎しみの炎が揺らめく、そして・・・・・・・・
「消えろ」
出雲の手から放たれた光線で男の頭が失せた。
「これで、終わりか・・・・・・」
人里の周囲で打ちあがっていた色とりどりの花火はもう見られない。





「出発するわよ」
「はいっ」
八意永琳は部下に最後のロケットの出発を告げる。
つまりは自分たちのロケットの。
「八意さま、風連尺さまが乗られていないようですが」
「・・・・・、多分だけどもう死んでいるわ」
「そうですか、では月へ皆を送り届けましょう」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴォォォォォオォォォォォォォオォォォォォォォォォ
最後のロケットが飛び出した。
黒く濁った分厚い雲に向けて・・・・・。




「あのバカ。あの雲は相当ヤバイぞ」
出雲は出立したロケットの軌道上にある雲を見ながらつぶやく。
あの雲だけは他の雲と違って色々とおかしい。妙に厚いうえに、気流の流れ、その他もろもろが不安定だったり極度に高かったり低かったりしている。
「しょうがないな・・・・、あいつらに罪は無い」
出雲は大空へと舞い上がった。




「八意さま、ぐっ、このままでは機体が空中で分解します。一度地に降りた方が」
「どっちにしてもむりだわ、この状況じゃ降りるまでに機体がぼろぼろになって着陸すらできない」
「そんな・・・・」
先ほど軌道上に有った雲に突っ込んでからというもの、機体が大きく揺れたり回転したり雷撃を直撃されたりと
月まで行かねばならないというのに既に大幅に機体にダメージ、及び燃料である霊力を消費していた。
「くっ、ここまで来て・・・・・・」
永琳自身はたとえ機体ががぼろぼろになって地面に墜落しても生きていられる。しかし、他の乗員たちにそれは不可能だ。墜落すれば簡単に死んでしまう。
どうにかならないものかと外を見たときだった。
一つの黒い陰がロケットと併走するように飛んでいる。
「て、天狗?そんな、こんな時に」
「いえ、違うわ」
永琳の目には天狗でないことが一瞬で判断できていた。
まず翼が無い、それに・・・・
「出雲が来た」
黒い陰が大きく腕を振るとロケットの前方には黒い雲の中にうえまで貫かれたトンネルができていた。
「いまよ、全速力で雲を抜けなさい」
「は、はい」
ロケットは可能な最大速度で雲を突破すると、数分後、月にたどり着いていた。
出雲の姿は多数の乗客、及びに乗員によって確認されていた。

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