小説『東方薬師見聞録』
作者:五月雨亭草餅()

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どうも、もう何年生きているのか分からない薬師出雲だ。
ここ何年かの話だが、山の一箇所の土地に定住していたら周囲に妖怪たちがたくさん集まり始めた。俺が畑を育てていたら急に襲いかかってきたやつらを撃退したところ、なんか部下にしてくださいてきなのりでそのまま居着いてしまった。
しかし、なかには普通に居着いている妖怪たちもいる。
たとえば・・・・・・
「玲奈、お前はあっちの訓練しているやつらを抑えろ、畑が吹っ飛ぶ」
「俺が?なんで俺が・・・・」
俺口調の霊鷲山(りょうじゅせん)玲奈(れな)。あくまで女だ。人型で刀の付喪神、紅いポニーテールにきりっとした切り目が特徴だ。
俺の周囲にいる中では多分俺の次ぐらいに強い。葉華や黒天よりは弱いと思うけどな。
「相変わらず荒れたまんまだね?」
「お前は後ろから急に現われるな」
こいつは伊呂波(いろは)美奈(みな)。玲奈の相棒らしい。青緑の髪に緑の目。こっちは鏡の付喪神で能力もち。光を屈折させることができるんだとか・・。おかげで知らない間に後ろにいてビビッたことも多多ある。
「この里は何時までもつのかな?」
「いやなことを言うな。俺の気がすむまではもたせて見せるさ」
「ふーん、何時までなのか興味があるかな?」
語尾が必ず疑問系のところは多少気になるがこの際無かったことにするしかない。
「まあいいよ、そうそう、見回り役の子が言ってたけど近くまで人が来てるって?」
「そうか・・・」
そう、ようやくとでも言うべきか、地上に再び人が現われ始めた。
此処にいる妖怪たちの少数がむかし、今の月の民が地上にいた頃に生まれた妖怪。そして、大半が新たに生まれたばかりの妖怪集団。とはいえ、基本的に武闘派ばかりのため、全員が全員戦闘訓練を行っておりけっこう強い。
「来たら来たときにどうにかするか・・・・・・」
「そうだね?」
はあ、もし狙われるとしたら畑だろうな。
あの畑は俺が自分で育てている畑だけど広大だ。だから遠くからでも見ることができる。
食料が群生してると思って食べられるよな。
「畑が吹っ飛ぶだろうがぁぁぁぁぁ」
「「すいません姐御ぉぉぉぉぉ」」
「「・・・・・・・・・・・・・・」」
ふぅ、強いな。玲奈は。
今度戦ってみたい気もするが、やめておくか。土地がただではすまない気がする。それにある程度一方的な試合になるしな、下手にあいつの自信を砕かない方がいいだろう。
そうそう、玲奈と美奈は月の民がいた頃に生まれた妖怪だそうだ。
だから玲奈は姐御、美奈は姐さんと呼ばれていることが多い。
で、強い。だからこんな場面はよくあるのだ。
だが、何度見てもなれないものだ・・・・・・・・。
「美奈は見回りの連中に回数を増やすように言っておいてくれ」
何時人が来るかも分からないからな。
せめて何時来るかぐらいはしっておきたい。だからこそ見まわりの数を増やす。
この妖怪の里、には500ぐらいの数がいるんだからちょっと増やしたところで変わらないけどな。
「いいよ?」
疑問文のような返答。
どうにかならないものか・・・・・・・・・。




「あっちの山にたくさん野菜が生えてますよ村長」
「行きましょうよ」
「このままじゃ餓えて死ぬやつも出てきますよ」
「じゃがな・・・・」
とある林の中、何十人もの人間は顔を合わせて会議を行っていた。
議題は近くに見える野菜のたくさん生えている山に移住するかしないかという話。リーダーとごく一部の者を除いて、みなその意見に賛成だった。
反対派としてはなぜそんなところに群生しているのかが分からないし、なぜか生え方が整っているということから何らかの妖怪の罠、もしくは誰かのものということではないかということからだった。
「誰かのもの。笑わせないで下さい。あんなにたくさんの食い物を独り占めですか?俺たちが餓えて死ぬというのに断れますかね」
「む、しかし、それでわしらが殺されても文句は言えんぞ」
「大丈夫ですよ、おれたちにゃ、おきゅうさんがいるんですから」
「私は反対なんだけど・・・・・」
「おきゅうさんそんな堅いこと言わずに」
反対派の方がこの集団の重役は多いようだ。
しかし、賛成派の方が圧倒的に多い。
そして・・・・・・
「指揮権は康介に授ける。山に行くぞ」
山に行くことが決まった。
出雲が待ち受ける山に。

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