小説『東方薬師見聞録』
作者:五月雨亭草餅()

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「っ、皆さんは下がってください」
一人の少女が他の人々をかばうように前に出ると、それに呼応するかのように人々が逃げるようにして少女の後ろに回る。何人かの若い男が投げ槍やら何やらを構えて、それを投擲する。
「美奈」
「はぁい、こういうのは私の担当です?」
美奈が手を前に出すと銅鏡がいくつか現われ、投げ槍を防ぐ。
「警告だ、俺たちの畑を荒らすな」
出雲が霊力を放出しながら言うが、顔に笑みを浮かべている人物が何人かいる。
ろはいえ、それには基本的に共通点があり、全て若い人ということだったが・・・・・・・・。
「おきゅうさんがお前みたいな妖怪に負けるわけ無いさ」
「妖怪が食い物を独り占めするなんていけねぇな」
「命乞いをしろ」
「俺たちが餓えるんだ、妖怪なんて知ったこっちゃねぇ」
・・・・・・・・・・。
警告はしたよな?
ああ、先ほど俺は警告をした。
しかしそれをこいつらは聞かないと・・・・。
まぁ、何人かはヤバイな、って顔をしているがそいつら以外は完全に気が付いていないな。
でもさすがと言うべきか。おきゅうといわれているらしき俺の正面の少女は力が圧倒的に差があることに気付いている。それ以外のやばいことに気付いているやつらもそこまでは気付いていなさそうだ。
「警告はした。お前らはそれを聞き入れなかった。ただ、それだけだ。それと一つ訂正しておく、俺は人間だ」
出雲がそこまで言うと、重圧に耐えられなくなったのか、おきゅうが空中に霊力で浮きながら色とりどりの弾幕を作り上げる。
出雲がそちらを睨むと、出雲の周囲に多数の魔方陣が現われる。それらからは、一発一発が人間にとっては致命傷となるような光線が放たれ、色とりどりの弾幕を相殺する。
「玲奈」
「ったく、なんでいつもこうなるんだか・・・・」
出雲の後ろに控えていた玲奈が出雲の右手を握る。すると玲奈の体が光り始め、光が体を完全に包み込み形を変える。
日本刀の姿へと。
出雲は日本刀の切先をおきゅうに向けると、先端から拳一個弱ぐらいの距離に魔方陣が現われる。
「「マスタースパーク」」
少しいつもより細めの光線がおきゅうをまるごと飲み込んだ。
「おきゅうさんっ」
「そんな」
「なんで、あんな・・・」
「え、嘘だ」
人々の間に絶望に近いものが広がる。頼みの綱であったおきゅうが死んだ。
それはつまり次は自分たちが殺されるのではないか。
しかし、自分たちには目の前にいる強い存在と戦うすべは無い。抗うことはできても瞬間的に全滅するのが理解できていた。
「もういいぞ」
「はいよ」
今度は日本刀が光り、先ほどの逆再生のように玲奈が現われる。
そして、玲奈が口を開いた。
「甘いね大将も、なんでころさなかったんだ?」
「野菜が血をかぶるだろうがアホ」
「ああ、なるほど」
二人は、お互いの顔を見ながら会話をしていた。
二人の話を聞いていた人は、おきゅうがまだ生きていることに安堵し。
しっかり聞いていなかったっものは、この隙になんとかして倒そうと武器を構えたが、リーダーにやめさせられていた。
そして、この集団のリーダーが出雲の前に出て、地にひざをつけ、額を大地にぶつける。
「申しわけございませんでした。我々も食料が無く餓えていたのでせめて若い者たちを生かしたかったのです。此度のことはわしの命でみなのことはご勘弁願えないでしょうか」
みごとな謝罪であった。
しかし、それも仕方がないことである。
かってに人の育てたものを食べようとしていたのだから。
そして、身勝手にもそのあるじを殺そうとした。
「何のことだ?」
だが、今の出雲にそんなことは関係ない。出雲の中では様々な考えがめぐっていた。
「勝手に食べようとしたのはあいつをぶっ飛ばして気がすんだ。手前一列の野菜は食べていい。そのかわり山のふもとに定住するのが条件だ」
「ほ、本当ですか?ありがとうございます。ありがとうございます。ありがとうございます。おい、みんな。それでいいな」
「「「「「いいです」」」」」
出雲の策謀は巡る。
単純に、妖怪ばかりの山だったら、今回のようなことも妖怪が相手だからという理由で起こるだろう。しかし、相手が人だったらどうだろうか?
まったく起こらないとはいえないが、妖怪相手よりは少ない。
そして、妖怪は人の技術の恩恵を受け、人は妖怪の力という加護を受ける。
お互いにとって利益があることなのだ。
さらに、出雲は人が妖怪とともに生活することを考えてほしかった。もう二度とあんなことが無いように。
また、妖怪は長い年月を生きるからこそ気づかないこともある。だからそれを人間とともに生活することで気付かせようと思ったのだ。



こうして、山のふもとにちいさな村が一つできた。
その村は、薬師出雲の自然を操る能力によって、大規模な自然災害などを受けることも無く、野菜は通常よりひとまわりも、ふたまわりも大きく生長した。
そして、新たな野菜も生み出されていった。

-30-
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