小説『東方薬師見聞録』
作者:五月雨亭草餅()

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とある民家にて・・・・・・・・・・

「うっ、はぁはぁはぁ、うわぁ・・・・・」
「これは・・・・・」
「ええ、息子の現状です」
出雲の目にはたいへんな状況であることが一瞬で読み取れる。
いや、出雲ではなくともだれであってもそれに気付くだろう、気付かなければ逆におかしい。
その少年の体には黒い蛇のようなあざが巻きつくようにできており、あざでないところも、ところどころ赤くただれている。
それが、今回出雲が相手をする必要のある祟り神の力をあらわしている。
今回のてきは単体としてはこれまで戦った相手のなかでも上位の敵であることを・・・・・・。
「治せなくは無いが時間がかかる。お前には多少待っていてもらう必要があるが?」
「かまいません、息子を治してただけるのであれば何でも致します」
「そうか、じゃあはじめようか」
出雲は手のひらに霊力と少量の神力を集めると、少年にあてがう。
出雲の手のひらは、黒いあざの上に行くと明るく光り、それ以外の場所ではおぼろげに光る。
光が黒いあざを照らせば照らすほど、少しずつだがあざが薄くなっていく。
局地的に黒いあざが消えると、そこを埋めようということなのか、周囲のあざの端が生き物のようにウニョウニョと動くが、出雲がそこに液体のような光をかけるとあざの動きが止まる。
そしてまた、それを周囲のあざで行う。
これを何度も何度も繰りかえしていき、少しずつではあるもののあざは確実にその姿を消していった。




「ふう、あざは終わったか・・・・・・・・・」
出雲は、すこし気を抜いて、息を吐く。
さすがに長時間集中力の要る作業を続けるのは肉体的にも精神的にも共に疲れるようだ。
また、普段なら体力の回復に使われる霊力や神力を使った細かい作業をしている。一見楽そうに見えるのだが、実は言うと、流し込む量が多ければ正常な肉体にダメージを与えてしまうことになり、量が少なければ、効き目が無いどころか逆に餌のように霊力や神力を使われてあざという祟りが強化されてしまう。そんな綱渡りをしながら針に糸を通すような作業を行っていたのだ。肩もこり、目にも痛みが走っていた。
しかし、まだただれている部分と、体の内部に異常がある。
体の内部は見た目では分からないので見逃してしまう可能性が高いものだが、出雲の能力をごまかすことはできない。体内にも異常があることは最初に判明していた。
「よし、後ちょっとだ」
出雲は自分にはっぱをかけると再び作業についた。
先ほどとは違い、今度は一箇所一箇所やるのではなく、全体に腕をしならせるようにして霊力と神力を振り掛ける。少年にかかったそれらは、何も無いところではどこかに消えるが、ただれているところでは中に吸収されて、だんだんとただれている肌が元に戻ってくる。
そして、それがわからないぐらいまで治ると振り掛けることをやめる。
「水を持ってきてくれ」
今度は、依頼をしてきた男に水を持ちに行かせると、少年の現時点での容態を確認する。
すでにうめいたりする声は無く、普通にスースーと寝息を立てているだけだが、時折からだのどこかに痛みが走るらしく顔をしかめる。
「もって来ました」
「よし、と。水を・・・・・・・」
もってきてもらった水に霊力と神力をわずかに混ぜると、未だに目を覚まさない少年の口を強引にあけて、霊力と神力の混ざった水を飲ませる。
「あとは多分もう大丈夫だ。ご飯を食べ終わった後に必ずこの水を飲めば再びあざが出ることも無いだろうからしっかり飲ませること」
「本当にありがとうございました。おかげで息子が助かりました」
そんな男の声をBGMに出雲は民家を立ち去り、山の頂上の神社へと帰っていった。
けんかを売ってきた近所の祟り神を倒すための準備をしに・・・・・・・・。

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