小説『東方薬師見聞録』
作者:五月雨亭草餅()

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人里だ・・・・・・・。


塀に囲まれた中の建物の集まりからは、子供のはしゃいでいるような声が聞こえる。
なにか食べ物を焼いているような匂いや、煙も上がっている。
戦国時代みたいな建物だが、取りあえずは人の集落だ。
いやぁ、もう、縄文時代始まってたんだな。気が付かなかった。いくら山を挟んで反対側のこととはいえ気が付けなかったのは残念だな。
「って、ちょっとまて、おかしいだろ」
やべぇやべぇ、おもわず独り言を・・・・。
というかまだ恐竜生きてるし。
どの教科書にも恐竜と人類が同時期に生きていたなんてこと書かれてなかったぞ。
ただ単に、まだその遺跡が発掘されていないから分かっていないのか。
それとも、その事実が判明すると問題がるから隠ぺいされているのか。
もしくは考古学者が遺跡を見つけていても年代を間違えていたり、素人が見つけたことに怒りを感じて嘘の発表を行っているかのどれかだろ。まあ、中にいるのが人ならという話だが・・・・・・。というか人だよな。人以外はまずあり得ないし。
「まあいいや、とりあえず門でも探して中に入らしていただくか」




「おい、門に変な妖怪が来たらしいぞ」
「なんでも人の姿をしているとか・・・・・・」
「妖怪も進化しているのか?」
「分からん」
「まあ、なんにせよ、汚らわしい妖怪なぞという種族は」
「「「「「殺してしまえ」」」」」
「「「「「根絶やしにしてしまえ」」」」」
「皆の衆、武器をとれ」
「「「「「応っ」」」」」
塀の内側のとある広場のにいた男達の会話より、抜粋・・・・・。これが村長を中心とする、人里の大多数を占める大衆の意見であった。




「う、うううううるさい。さっさと森に帰れ妖怪」
「だから俺は妖怪じゃなくて人間だって、失礼だな」
どうやら俺は、森から来たせいで妖怪と間違われているらしい。で、自分は人間だって言っても信じてもらえず、弓まで向けられているありさまなのだが・・・・・・・・。
「いい加減に信じろよ。それにそんな構え方じゃ矢を放てねえだろ。自分に弓の弦が引っ掻る、だからもう少し体から弓を離して構えろ。そうすれば上手く射れるようになるぞ」
「だ、ま、れーーーー。さっきからお前のせいで調子が崩されっぱなしだ、妖怪。さっさと森に帰れ」
この弓すらまともに構えられていないバカな銀髪っ娘の門番に入れさせてもらえない・・・・・・。時間の無駄だ。まあ、バカなこいついじるのも楽しいんだけどな。
というか・・・・・・・。
「おまえ、戦いに関してはド素人だろ」
「!!!」
どうやら、図星みたいだ。いやあ、にしても見ていて楽しいな。顔を青くしたり、赤くしたり、冷や汗を物凄い勢いでかいたり・・・・・・・・・。
「怪人20面相?」
「違うわよ!」
あんまりこうやって戦いのさなかに喋るのは戦慣れしているものとしてはおかしいんだよなぁ・・・。だから素人ってばればれだし。それに少しはポ−カーフェイスを身につけないとそこをつけ込まれるぞ。
「お前面白いな。名前は?」
「妖怪が普通に名前を訊くなぁぁぁぁぁ」
本当に馬鹿だ・・・・・・・・・。
まあいいか、みんながみんな感情を殺すようなやつだと誰も楽しくないしな。こういう奴がいたほうがみんな楽しいだろ。
「ふーん、俺は『人間』の出雲だ。よろしくな」
「よろしくないわっ。あんまり人間のふりをすんな。妖怪ってばればれだし」
「だから妖怪じゃないっての・・・・・・・」
前言撤回、馬鹿すぎても大変なだけだ。
はあ、誰か俺を人間だって認めてくれる奴いねえかな?
そろそろ中に入りたいし、腹も減ってきた。
「なあ、いい加減に?かはっ?」
何で俺の脇腹に矢が刺さってんだ?あの銀髪は射ってねぇ。じゃあなんで?
ヤバいな・・・・・・・脇腹の痛みが半端ねぇ。
血もどんどん流れてる。この状態で森の中に入ったら、恐竜や妖怪を引きつけて、怪我の影響でロクに戦えずに餌になって終わりか・・・・・・・・・・。
「永琳、下がっておれ。後は我々がやる」
「そ、村長?何故ここに・・・」
「お前が妖怪を殺ってないって聞いたからな」
「阿草(あぐさ)さんまで!?」
「俺達もな・・・・・・」
「な、なんでみなさんが」
そうか、あの銀髪っ娘以外の里の奴が来たのか。それで妖怪と勘違いされたままの俺は射られた、と。
それもだが、妖怪だからって普通に殺していいもんかよ。俺だって襲われた時しか妖怪は殺してないぞ。恐竜は襲われた時と飯の時だけどな・・・・・・・・。
「行きなさい、あなたがもし本当に妖怪でないのなら早く逃げて」
彼女がそう言って袖の中から何かをこぼしているのが目に入る。
あいつ、袖の中に何か仕込んでいたのか?銀色にわずかに輝いて見える粒子がそこを中心に散り始めている。
「何を言っておる永琳。人間はこの里にしかおらんのだぞ」
「「「「「「そうだ」」」」」」
へぇ、あの銀髪っ娘、永琳っていうのか・・・・・・。
「わりいな、永琳とやら。森に逃げさせてもらう」
それだけ言うと、出雲は森の方へと逃げだす。
「永琳、何をしておるのだ。ええい、皆の衆、射れ、射るのじゃ」
村長が喚くとともに、村長に追従していた男衆が矢を射るが、しっかり狙えていないのか、見当違いの方向へ飛んでいくものすらある。
そして、その間に出雲は森の中へと入り込んだ。




「やばいな。意識がもうろうとしてきやがった・・・・・・。はは、森の中に逃げて最期・・か・・。まあ、あいつらに首をとられるよりはマシか。永琳とかいうのには悪かったな。過ぎたことは悔やんでも無駄か・・・・」
ははは、参ったな。こりゃ。あっちの藪がガサガサと揺れてやがる。もうなんか来たか・・・・。
「お、おい。大丈夫か人間。おーい、誰か来てくれぇ」
俺が最後に目にしたのは、不思議な格好をした人型の生き物だった。

-4-
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