小説『東方薬師見聞録』
作者:五月雨亭草餅()

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「おおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」
周囲の鬼達が下がるより前に二人は闘いの火蓋を落とす。
牙煉(がれん)は右手を腰の位置に下げ、一突き。たかがそれだけ、されどそれだけ。
空気が急激に圧縮され、伸びる場所を探してそのまま飛び出す空気の砲弾と成して・・・・・。
「すごいな、ただの一突きでそれとは・・・・・」
牙煉がただの力が強いものではなく、高い技術も持ち合わせていることに気付いた出雲は体をそらして空気の砲弾をかわすと、反撃に無数の空気の砲弾を返す。
こちらは、牙煉のようにして作ったものではなく、能力で作ったものであるのだが・・・・・・。
「むっ!?」
威力は牙煉の放ったものに勝るとも劣らない。鬼とはいえ、喰らえばただでは済まないだろう。
これぞ600年の年の功といえるだろう。とはいえ、空気の砲弾は最初の30年ぐらいで完全に習得していたのだが・・・・・・・。
牙煉は全てを紙一重でよけると、右手に妖力の弾を大量に生成し撃ちだす。
「・・・・マジかよ」
出雲はそうは言いながらも、自らも霊力の砲弾を大量に生成し相殺するように撃ちだす。
二人の中間で、鮮やかな弾幕がぶつかり、爆ぜる。それは虹を見ているようであった。いや、虹というより多彩なオーロラだろう。一時としてまったく同じ姿は見せない。急激に姿を変えて見せたり、緩やかに少しずつ姿を変えて見せたりする。
鮮やかで、美しかった。
「強いな・・・・」
誰が言ったのだろうか。牙煉だったのかもしれないし、出雲だったかもしれない。もしくは見ていた誰かだったのかもしれない。しかし、そこにいたすべての者が目の前の者を見てそう思っていた。
「少し・・・、本気を出させてもらおうか。ここまで面白い相手は初めてだからな」
「へぇ、まだ本気じゃなかったのか。いいさ、来いよ。受け止めて倍返しにしてやるさ。俺が諦めない限りはな」
 バチッバチッバチッバチッバチィッ
牙煉の周囲から異様な音が流れる。それは、特殊な生き物いがいの普通の生き物としては、普通はならせるはずのない音。
電撃の音である。
牙煉の体には紅蓮の雷が纏わりつく。さらには、紅蓮の炎も。
「能力持ちでな、雷と炎を操ることができる。これに三十秒も耐えた者はいない。せめて10秒は耐えろ」
そう言い終わるか否かのタイミングで、さらに周囲へと放出される鬼神の妖力は跳ねあがる。
そして出雲へと殴りかかり、その腕は出雲の頭を『貫いた』・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「きゃぁぁぁ」
「え、おい」
「うそだろ」
鬼達からもどよめきの声が発せられる。
「・・・・・・・・。いくら強いと言っても所詮は人間か・・・・。すまぬ、薬師出雲よ」
牙煉は顔に悲しみを浮かべながら、出雲の頭から腕を抜こうとした。
「ぬ、抜けない?」
いくら強く引こうが、牙煉の腕はまったく動かない。抜ける気配すらない。
「勝手に殺すなよ、鬼神」
その声は、鬼神の度肝を、さらには観客の鬼達の度肝をも抜いた。
なぜなら上空から声が聞こえてきたからだ。
恐る恐る鬼神が上を向くと、薬師出雲が傷一つない状態で宙に立っていた。
「な・・・ぜ・・・?」
「簡単だ。おれもお前と同じように能力もちさ。俺の場合は自然を操れる。今お前の腕が貫いているのはただの丸太だ。光という自然を操ってここに居る鬼達からは俺に見えるようにした。そして、硬度と粘着力を底上げした。だからいまお前の腕は抜けないんだよ」
「なんだと?」
牙煉の顔には何時の間に、という疑問が浮かんでいたが、あえて出雲はそこを無視する。
「まあ、今の状況は確実に俺の方が有利だな。嘘が嫌いな鬼の前でこういう小手先の技は余り使いたくなかったけどな、これが俺流だ。さて、今度は俺の番だ」
そう言うなり、出雲の手には青白いような光が大量に集まっている。
「エンシェントマスタァァスパァァァァァァァァァク」
鬼神を巨大な光が飲み込んだ。

-9-
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