小説『時の罪』
作者:裏音(雨月夜ノ歌声)

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>


【10.復讐の相手】

それ以来、楼は紅蓮に答えを教えない。紅蓮も、それで納得している。
「紅蓮、お前はどうしたい?」
再び聞いた。紅蓮の体は震えていたけど、眼はしっかりと楼を見ている。
「行く。そして、私の世界に魔方陣を貼った人間を消す」
楼はしっかりと頷くと、紅蓮の手を掴んだ。あの時と同じ。紅蓮の手は冷たくて、楼の手は暖かかった。
二人が動いても光は消えなかった。それどころか、覚悟をした紅蓮の心に反応したように、光は強く大きく二人を包む。
「…開けるぞ」
楼が勢いよく扉を開けた。
中は埃っぽく、人がいる気配がしない。電気もついていない為、真っ暗だ。
「誰も…いないの?」
「紅蓮、伏せろ!」
楼が叫んだ。咄嗟に紅蓮が伏せると、正面の暗闇から銃弾が飛んでくる。銃弾は楼の頬を霞めた。
「楼、大丈夫?」
持っていたハンカチで頬の血を拭うと、正面を見た。
「紅蓮…どこかで聞いた名前だね」
暗闇からゆっくりと足音が聞こえる。
そして現れたのは、一人の男。
「ああそうだ。思い出した。4年前、ここから脱走した子だね」
男は笑った。手には銃。楼が、紅蓮の前に出る。
「貴方は…?」
「嗚呼、あの時は言わなかったからね。私は、木城 直哉。以後お見知りおきを」
馬鹿にするかのような笑いをこめて、木城は言った。
「以後なんか貴方にない…私が、消す!」
頭に血が上った紅蓮は、木城に掴みかかった。
「貴方の所為で、私は傷を負った。私だけじゃない、たくさんの子供達が!」
「ハハ。私には関係がないね。そんな、モルモットのことなど」
「お前っ…!」
掴む力が強くなる。そして更に木城は言った。
「君の世界のことはよく知ってるよ。鍵。とてもいい物だね。是非とも欲しいものだ」
「お前なんかに、鍵は渡さない!」
紅蓮の手が木城に傷をつけた。
「このっ…!」
怒った木城が拳銃を紅蓮に突きつけた。
「紅蓮!」
引き金が引かれた気がした。

-11-
Copyright ©裏音 All Rights Reserved 
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える