小説『時の罪』
作者:裏音(雨月夜ノ歌声)

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【11.紅蓮の迷い】

「っ…――!」
紅蓮は眼を瞑った。
だが、撃たれたのは自分ではなかった。木城が、自殺をした。持っていた拳銃で。
「な、何が起こってるの…?」
今自分が掴みかかった人間が、自分で死んだ。でも紅蓮は何もしていない。勿論、楼も。
「一体何が…」
呆然とする二人に、どこからか笑い声が。
「キャハハハ。その子は僕の獲物だよ。誰にも渡さない…!」
紅蓮と楼の後ろ。そこに、先ほどと同じように人形を持った白弥が立っていた。不気味な笑い声を上げながら。
「白弥…もしかして貴方が…」
「そうだよ。僕が殺してあげたんだ」
無邪気に笑う白弥。けれどその瞳には子供らしさなど微塵もない。
「紅蓮、逃げるぞ!」
楼が叫ぶが、紅蓮は恐怖に震えて動けない。そして、歩み寄る白弥。
「無理だよ。時の瞳は、僕のものだ」
白弥の手が、紅蓮の腕を掴んだ。
「やめろ!」
楼が白弥の手を掴み、紅蓮から引き離す。
「フフフ…君の相手は私だよ」
二人の後ろで、死んだはずの木城が動き出す。
「僕の能力はね…人間を操る能力さ」
白弥の持っていた人形が宙に浮いた。そして、宙にとどまったまま人形が動き出す。
「逃げるぞ紅蓮」
人形の動きの通りに襲い掛かる木城。動けない紅蓮を抱えて楼は飛び立つ。
「逃がしはしないよ…」
白弥の言葉で人形がピクリと動く。そして、
「うぐっ!」
木城の持っていた銃が、楼を撃つ。
「ろ…う?」
自分を抱えていた楼が崩れるように倒れる。恐怖で動けなかった紅蓮の脳が動き始める。
「嘘…楼! 起きてよ。楼!」
銃弾は、どうやら楼の心臓を撃ち抜いたようだ。死神であるため、血は出ないがその瞳は閉じたままだ。
「次は君の番だよ。紅蓮」
白弥と、操られている木城が歩み寄る。
「嫌、来ないで!」
後ろへと後ずさりしていくが、後ろは崖。もう逃げ場がない。
「さぁ、その眼を頂戴…」
「白弥!」
ふと紅蓮の口から出た白弥の名前。白弥の動きがピタリと止まった。
「白…弥…僕は、白弥、だ」
白弥の瞳に幼さが戻った。そして、人形は落下し、木城の動きも止まった。
「紅蓮…お願い。僕を殺して?」
夢の中に出てきた白弥と同じようなトーンで、紅蓮に頼む。
「嫌…白弥、貴方を殺すことは出来ない」
拒む紅蓮。だが、白弥にはもう時間がなかった。
「僕がこの自我を保てる時間はもうわずかしかない。だから…」
その先の言葉は言わずともわかる。でも紅蓮は、わかりたくなかった。
「僕が…悪魔が、時の瞳を狙う理由を教えてあげる」
白弥が、弱った声で紅蓮を瞳をまっすぐと見た。

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