小説『時の罪』
作者:裏音(雨月夜ノ歌声)

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【12.創造主、神】

「悪魔や罪を犯した者にとってね、罪を裁く時の瞳は邪魔なんだよ」
「罪を裁く…?」
「そう。君の持ってる時の瞳が時間を自由に見れるのは、罪を裁くため」
紅蓮は、そこまで聞くと一つの疑問が生まれた。
「どうして…どうして木城は、鍵を欲しがったんだろう?」
その小さな疑問に、白弥はゆっくりと答えた。
「鍵で、時間を操ろうとしたんだろうね。…神のように」
白弥は、紅蓮を見つめ、そして話を続けた。
「鍵はね、時間の流れを変えてしまうんだよ」
「時間の流れ…?」
白弥が小さくうなずいた。すると、急に白弥が苦しみだした。
『余計なことは言わなくていい。さぁ、瞳を奪え白弥!』
「うぅ…嫌、だ…。逃げて紅蓮…」
「白弥?」
『お前の心は私が持っている。お前に逆らう権利などない!』
「い、や…だ…」
白弥の脳に直接響く、悪魔の声。そして、苦しみに悶える白弥。
何が起こったのか理解できない紅蓮には、どうすることもできない。
「白弥、大丈夫? ねぇ白弥」
「お願い…僕を殺して」
『時の瞳を奪え! 白弥!』
「お願い…!」
ふと、時が止まった気がした。否。止まったのだ。
「え…?」
白弥も、風も、音も。全てが止まっている。
「何、これ…」
辺りに動くものは何一つない。
先ほどまで倒れていたはずの楼が、そこにはいなかった。
「楼…?」
正面を向けば、そこに立つ楼。苦しそうな表情だが、命はあるようだ。
「楼、無事だったんだ」
駆け寄る紅蓮。だが、
「来る、な」
掠れた声で発せられた言葉。紅蓮は、驚きで足を止めた。
「どうしたの楼?」
「今、時間を止めてる。だから、早く逃げろ」
「まってよ。そしたら、白弥はどうなるの?」
紅蓮には、自分の身よりも白弥の方が心配なのだ。
「白弥は、悪魔に心を奪われてる。多分、あの薫っていう兄が悪魔なんだろう」
そこまで説明したところで、楼が苦しそうに片膝をついた。
「いいか。このままお前は逃げろ。白弥のことは、俺がなんとかする」
「嫌。私が白弥を助ける!」
「いいから俺の言うことを聞け!」
怒鳴った楼に、一瞬体を強張らせた。
「嫌…」
紅蓮の瞳から光があふれる。赤黒い色だ。
「嫌…もう、誰かが傷つくのは、嫌!」
そういうと、紅蓮は過去へ戻る鍵を取り出した。いつのまに持っていたのか、と楼は驚きを隠せない。
「やめろ! お前の、時間が!」
「鍵よ、我に示せ!」
紅蓮の持つ鍵が光始めた。だが間一髪、その鍵を楼が叩き落とした。
「楼、何するの。鍵を使わないと白弥を助けられないよ!」
泣く紅蓮。その涙に、紅蓮の瞳が反応した。
ほんの一瞬の出来事だった。
止まっていた時が動きだしたかと思えば、戻ったり進んだりを繰り返す。
時の瞳の赤黒い光が世界を包み、時間を狂わせているのだ。
「やめろ紅蓮!」
「もう…誰かが傷つくのは嫌なの…」
今の紅蓮は正気ではなかった。ただ一つ。誰かが傷つくのを防ぐには、時間を操るという意思が今の紅蓮に働いている。
「紅蓮ッ!」
楼は紅蓮に駆け寄ろうと無い力を振り絞って歩こうとしたが、
「駄目だよ…今の紅蓮に、触れちゃ駄目」
白弥が楼の行く手を阻む。
「何言ってるんだよ…お前の所為だろ。お前の…」
白弥は、わかってるとでも言うように頷く。そして、紅蓮と向かい合う。
「我、世界創造の神。そして悪魔に魅入られし人間。その裁き、今しかと受けよう」
『おい白弥。何をする!』
光が一斉に白弥に襲い掛かる。白弥の中の悪魔があぶりだされるように飛び出てきた。
「ぎやあああああ!」
炎に焼かれるように、光に取り込まれていった。
「この怨念は、消えないぞ。白弥!」
悲鳴と怒号が入り混じった声で、悪魔は消えた。
「わかってる…。次は、僕の番だ」
「白弥、やめろ…!」
楼が白弥を止めようと歩くが、あまりの光の強さに、近づけない。
「今こそその罪、償おう」
光が白弥を包み込んだ。
「白弥!」
そして、溢れ出た光が全て白弥を包む。楼の意識が、そこで途切れた。

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