小説『時の罪』
作者:裏音(雨月夜ノ歌声)

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【14.紡がれる言葉】

もし鍵を紅蓮が使っていたのなら、このような事態は防げた。
だがその代わり、鍵を使った紅蓮の時間は狂い始める。
楼はそんなことを望まない。だからこそ、あの時鍵を使わせなかった。
全てを知っていたのだ。楼は。
悪魔と白弥が接触していたのも、実験場を訪れた時知っていた。
そして、木城という人間が紅蓮を苦しめたのも。
わかっていて紅蓮に話さなかったは、紅蓮との約束があるから。
『絶対私に、答えを教えないで』
だから楼は、真実を語らなかった。語るということは、紅蓮にすべての答えを教えてしまうことになる。
今、楼は紅蓮に全てを語った。最初で最後に、約束を破った。それをきっと、紅蓮も望んでいたはずだから。

楼が消えて、世界から鍵が消えた。勿論、人々の時間も戻った。
その代わり、鍵の無くなった人間たちが少なからず生活に困っているのは言うまでもない。
楼が最後に紡げなかった言葉。紅蓮には、言わずともわかってること。

『必ず、必ず

――― また会いにいくからな』


「大丈夫。きっと、待ってるから」
世界には、安らかな光が注がれていた。


FIN

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