小説『時の罪』
作者:裏音(雨月夜ノ歌声)

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【3.悪夢】
下界。それは、鍵のない、普通の世界。
紅蓮がまだ8歳の頃。突然現れた下界の人間に連れて行かれた。
連れて行かれた先は下界のとある研究所。というよりも、研究所という名目の実験場だった。
『早く歩け!』
そこで、知らない男達に毎日人体実験をされていた。
何かわからない薬を投与されたり、体を解剖されたりもした。
『いやああああ!』
毎日実験は繰り返された。いつしか紅蓮の瞳は、赤い色をし、時々不思議な光を出すようになった。。
それが、時の瞳。
死にたくない。その思いが時の瞳を呼び寄せたようだ。
それから2年。紅蓮は実験を繰り返された。幸い、時の瞳のおかげで、未来を見た為、死に至るようなことは避けられた。
その間、紅蓮の周りでは沢山の子供達が死んでいった。
紅蓮は耐えた。どんなに涙を流しても。どんなに無力な自分が悔しくても。紅蓮は生きた。
それが、自分に与えられた試練だと言い聞かせて。

「嫌だあああ!!」
「紅蓮、紅蓮!」
頭を抱えて叫ぶ紅蓮。それを止めようと、楼が背中を摩る。
「嫌だ…助けて…」
幼子のように泣きじゃくる。瞳に、楼は映っていない。体が酷く震えている。
まだ悪夢の中でもがいている。
「紅蓮、俺だ。楼だ。眼を覚ませ」
「楼…、楼なの…?」
怯えていた瞳が、落ち着いた。ゆっくりと楼に眼をあわせる。
「大丈夫だぞ紅蓮。ここは、下界じゃない」
「…ごめん、楼」
荒くなった呼吸を整えながら、楼に謝る。
「お前が謝ることじゃない。また、あの夢を見たんだろ?」
小さく紅蓮が頷いた。楼と一緒にいても、未だこの悪夢を見てしまう。
「もう少し寝てろ。今度は…楽しい夢が見れるといいな」
震える体に毛布をかけ、楼は静かに電気を消した。

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