小説『時の罪』
作者:裏音(雨月夜ノ歌声)

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【4.魔方陣と言葉】
数日後。紅蓮と楼は、再び森にいた。今度は神殿から少し離れた木の下で、子供たちに見つからないように座っていた。
「もしかしたらだけど、あの魔方陣。下界とつながっているのかもしれない」
回復した紅蓮が、魔方陣のことについて話し始めた。
「下界と? でも俺が魔方陣に入ったら、見えなくなるだけだったぞ」
確かに、それは紅蓮も確認済みだ。しかし、と紅蓮は言葉を止めた。
「…あれは、多分力を少しずつ奪う力があるんだと思う」
「力を奪う?」
「うん。楼、もう一度、神殿へ連れて行って」
「わかった」
楼に?まり、もう一度神殿へと向かう。今度は子供がいないことを確認しながら、魔方陣のあるところまで降りた。
「楼、1分、この魔方陣の中にいて」
「めんどくさ。…まぁ、いいか」
紅蓮が時計を見ながら、楼は1分きっかりと、魔方陣入った。
「どう? 気分は」
「なんか…ものすごくだるい」
楼は疲れたような顔をし、立っていることすら辛そうだ。
「紅蓮の言うとおり、この魔方陣、俺のような者の力を奪うみたいだな…」
「こんな魔方陣が作れるのは…下界の人間しかいない…」
紅蓮は、魔方陣に触れ、小さく呟いた。
「すべてのものに、破壊と無を」
その言葉に反応するように、魔方陣が消えた。
「これで、とりあえず大丈夫だと思う…」
「なぁ、紅蓮。今の言葉ってなんだ?」
「…少しでも、自分の身を守る言葉。破壊と、無」
最後の言葉は、少し小さく、聞き取れるか聞き取れないくらいのトーンで言った。
あの日。紅蓮が下界に連れ去られた時から、紅蓮は少なからず自分でできることをしていたのだ、と楼は感じた。
「紅蓮?」
ふと、紅蓮の様子がおかしいことに気づいた。震えている。
「大丈夫…体が、過去に反応してるだけ…」
紅蓮にとっての下界は、とても怖く、ただ痛みしか記憶がない。そんな世界が関わってくるということは、紅蓮の悪夢を再び現実に起こすようなものだ。
「紅蓮、怖いなら、もう手を出さない方がいい」
「嫌だ。このままにしてたら、鍵の力が、この世界からなくなってしまう」
たとえ嫌いでも、ここは私の生まれた世界だから。と紅蓮は続けた。
楼はそんな健気にもがんばる紅蓮を見て、改めて、守ろうと誓った。
「なら、直接下界に行った方が早い。いいな?」
紅蓮はうなずいた。瞳は、赤く光り、決心が目に見えていた。
楼は紅蓮を背中に乗せると、その黒い翼を大きく広げ、飛んだ。空の上からは、町や世界がちっぽけにも見える。

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