小説『時の罪』
作者:裏音(雨月夜ノ歌声)

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【6.少年】

それからどれくらい飛んだのだろうか。
体が冷えて、寒さを感じた頃、街を見渡すことのできる丘に楼は着地した。
「…寒い。楼、ここって…」
「嗚呼。下界だ。鍵を持たない人間が住む、下界」
丘の上から街を見る。眼鏡が曇ってよくは見えないが、大体は分かる。
紅蓮が連れて行かれた場所は覚えていないが、空気が酷かったのは覚えている。
無意識に、街から眼をそらした。実験をされていた時のことを、思い出しそうになったのだろう。
そっと楼が頭を撫でると、落ち着いたように視線を町に戻した。
そして軽く深呼吸をすると、深刻な顔になる。
「でも…どうやって探したらいいんだろう」
そう。まず第一に、どうやって魔方陣を作った者を探すかが大変だった。それに、いくら死神の楼でも下界で死神としての力を使うのはきつい。
それをわかっていたからこそ、紅蓮は違う手段を考えようとしていた。
「とりあえず、泊まる場所を探さないとな」
考え込む紅蓮を気の毒に思ったのか、楼は軽い流れで話を変えた。
「あ…うん」
その心遣いに気づいたのか、紅蓮も考えることをやめた。
そして二人は一旦泊まる場所を探すため、街へと出た。
紅蓮のいた世界では、空き家が多かったため、どこでも住むことができた。だから紅蓮と楼は空き家に一緒に住んだりもしている。が、下界はそうもいかない。
お金のない二人は、どうにかして泊まる場所を見つけなければならない。
最悪、野宿だが。
「楼、どうだった?」
紅蓮と楼は二手にわかれて泊まり場所を探していた。だが、
「いや、無理だった」
二人とも全部断られたようだ。
「どうしよう…やっぱり野宿かな。というか、何も考えずに来たのが馬鹿だったかも…」
途方にくれる二人に、一人の少年が声をかけてきた。見た感じ、10歳くらいの子供だ。
「お兄ちゃん達、泊まる場所ないんでしょ? 僕の家おいでよ」
まさしく神のような一言。二人は警戒することもなく、少年の家へと向った。
少年の名前は白弥。どうやら、兄と二人暮しのようだ。
「こんにちは。お邪魔します」
白弥の自宅に着くと、楼が何かに気づいた。
「楼? どうしたの?」
「…いや、なんでもない」
そんな楼を見つめる白弥の兄。口元が、微かに笑った。
「二人とも座って。そんな堅苦しくしないでさ」
白弥が笑顔で二人を迎え入れる。紅蓮も楼も、その笑顔に警戒することは無かった。
「こんにちは。白弥の兄の薫です」
白弥の兄、薫が挨拶をする。でも、薫に対して楼は多少警戒していた。
紅蓮は警戒することなく、笑っていた。
その日の夜。薫は楼と。白弥は紅蓮と寝ていた。
深夜0時を過ぎた頃。紅蓮は夢にうなされていた。過去の夢ではなく、誰かの夢で。

『嫌だ。離してよ。離して!』
『こら、暴れるな!』
「やめて…その子を叩かないで」
紅蓮の声は届かない。夢の中で、実験場にいた少年が殴られる。
口元からは血が出ている。紅蓮は叫んだ。
「やめて!!」
夢が変わった。辺りは、一面真っ白な空間。
「ここは…?」
辺りを見回すが、誰もいない。何も聞こえない。
ふと、背後で気配がする。振り向いてみれば、そこには白弥が。
「逃げて。紅蓮。君の瞳を、もう一人の僕が狙ってる」
「もう一人の…白弥?」
「お願い。逃げて。時の瞳を、守って」
「まってよ白弥! 一体なんなの?」
だが、声は届かずに白弥は消えてしまった。

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