小説『時の罪』
作者:裏音(雨月夜ノ歌声)

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【8.悪寒】

その頃、白弥達から逃げ出した紅蓮たちは、
「ちょっと楼! 絶対危ないよ!」
「いいだろ。やらなきゃやられるんだから」
「だからって…街のど真ん中で空飛ばないでよ!」
逃げるため、楼は羽を広げて飛んでいた。勿論紅蓮を抱えて。
「ったく…一々五月蝿いな」
「誰のせいだと思ってるの」
とりあえず街外れの丘に着地した。幸い、時間帯が朝だった為、誰も上空で人間が飛んでいたことなど気にしていなかった。
「というかさー…」
楼が辺りを見回す。
「ここどこ?」
「え…」
沈黙と同時に、冷たい木枯らしが吹いたのは言うまでも無い。
ちなみに季節は冬。けど、その寒さとはどこか違う。
「ねぇ、あれ見て」
紅蓮が何かを見つけた。少し遠くにあるため、眼の悪い紅蓮にははっきりとは見えない。
「なんかの建物みたいだな」
「行ってみよう」
めんどくさいと呟く楼だったが、走り去っていく紅蓮を置いていくわけにもいかず、渋々ついて行った。
建物付近まで近づいた二人。だがその瞬間、楼が倒れた。
「うぅ…」
「楼?」
倒れた楼に駆け寄る紅蓮。その時、ふと地面に眼が行った。
「これ…」
紅蓮の脳裏に何かがフラッシュバックする。
「魔方陣だ。でもなんでこんな所に…」
いろんな考えが頭をよぎるが、まずは楼が最優先といわんばかりに動いた。

「楼、今魔方陣を壊すから…!」
苦しむ楼を見て、なんとかして魔方陣を壊そうとする紅蓮。だが、魔方陣が大きすぎた。
「すべてのものに破壊と無を! 壊れろ!」
どんなに言葉を唱えても、まだ幼い、14歳の子供には、この大きな魔方陣を壊すことはできなかった。
「紅蓮、お前じゃ無理だ…もう諦めろ」
魔方陣は光ったままで、一向に壊れる気配がない。。
「嫌。諦めるなんて、絶対に嫌」
すると、紅蓮の瞳が赤く光りだした。時の瞳が発動したのだ。
「何…?」
瞳から出た光は、徐々に紅蓮と楼を包みこみ、一つの小さな空間ができた。
「あれ…苦しくない」
楼がゆっくりと起き上がった。不思議に思う紅蓮と楼。
「もしかして、この空間だけ時間が戻った…?」
魔方陣がある場所も、時間を戻せばただの地面。どうやら、時の瞳の力で二人のいる場所の時間が戻ったようだ。
「なんでそんなことが起きるんだよ」
「私にもわかんないよ。それより…」
紅蓮が辺りを見回した。
「どうして、この建物の周りに魔方陣が貼ってあることの方が不思議じゃない?」
「調べてみる価値有りってことか?」
「だね。…!?」
紅蓮が何かを感じた。感じたと同時に、恐怖もが紅蓮を襲う。
「ああっ…!」
自分の体を抱きしめて、怯える紅蓮。その様子に、どうすればいいか戸惑う楼。
「いるっ…ここに、私を、」
苦しめた人間が。
か細い声で、そう言ったのを楼は聞いた。そして、震えている紅蓮に静かに聞いた。
「どうする?」
楼は決して、わかっていることでも言わなかった。楼には、誰がいるのかの予想はついていた。だがそれを言わないのには、理由がある。
それは、紅蓮との約束があるから。
あの日、紅蓮が楼と初めてあった日。そして、実験場から逃げ出した日。

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