「なんで…あんたが…こんなことするのよ…あんたには関係ないじゃない…私…今まであんたのこと、冷たくしてたのに…」
大きな檻の中、金色の髪の少年が血を出して倒れている。
それを心配そうに眺める3人の少女達。
「ハルキだ…俺の名前……せっかく、呼んでくれるんなら、あんたじゃなくて…名前で呼んで欲しいな……」
「こんな時に何を……」
言っているんだ…そう言いたいのに、上手く言葉を発することが出来ない。
「ま、今は鎮静剤のおかげで痛みも感じないし大丈夫だって…これも日頃の行いのおかげだな…」
そう言って笑うがどう見てもそれはやせ我慢にしか見えず、身体中につけられた傷跡は痛々しく血を流している。
そんなハルキを見て私は……
(一時間前のこと)
「おい、早く起きるじょろ!この役立たずが!」
ーパシンッ!ー
鳴り響く鞭の音、しかし、打たれたはずの少年は何の反応も返さず気を失っている。
「なんだじょろ?もうくたばったのじょろ?つかえないやつだじょろ。ペッ!」
そう言って、倒れている少年に唾を吐きかける太った醜い男。
私達はそれを檻の端っこで震えながら眺める。
「つまらんじょろ。今日はこいつが情けなく泣き叫ぶ様をみようと思ったのにじょろ…」
そう言って、こちらを向いて一瞬考えた後、
「そうじゃ!お前らがコレの相手をするじょろ。」
屈強な男の奴隷達が大きな檻を自分達の檻へと近づけてくる。
そして、天竜人がその檻に掛けられている幕を開けるとそこには……
「狼…?…」
1匹の虹色の毛を持つ大きな狼がいた。
「そうじょろ。こいつはガールウルフというとても凶暴な狼だじょろ。お前らにはコレと戦ってもらうじょろ。精々、わちを楽しませるじょろ。」
ーカチャンーカシャー
そして、私達の檻とオオカミの入った檻が繋げられ、扉が開かれる……
「きゃぁ…姉様!」
怖がるマリーとソニア。
私がこの子達を守らないと…
そう思い、私は妹達を庇うように前に出て、構える。
「姉様…」
「大丈夫じゃ。私がお前たちを守るから…」
そう言って、妹達を安心させるようにニコリと笑い目の前の狼を睨みつける。
おそらく、何日も食事を与えられていないのであろう…
血走った目が私達を見て、次に倒れている少年の方を向く。
そして、狼は倒れている少年の方が楽だと思ったのか興味を少年に移し、近付いてその大きな口を開け…
「やめろ!」
ーバンッー
私は思わず、飛び出し狼を殴りつけていた。
「「「え…」」」
驚く妹達、そして、私自身も自分の行動に驚いていた。
「なんで…」
自分の手を見て、呟くが答えは出ない……
いや…本当は…
倒れている少年を見て考える。
いつも、天竜人に反抗し、手痛い仕打ちを受けていた少年。
自分達にまでその怒りが向かってくるのではないかとヒヤヒヤしていたのだがそのようなことはなく、いつも天竜人は少年が倒れると満足して去っていった。
ここに来たばかりの時も自分が男であることを天竜人に告げ、怒りを買い、自分だけ奴隷の烙印を押されてしまったのだ。
「もしかして…」
私は少年を見ながら呟く。
天竜人が去った後、意識が戻り、大丈夫?と心配そうに聞いてきたこと…泣いている私達に笑いながら話しかけてきたこと…
少年がしてきた色んな行動が思い出される。
考えないようにしてきた、その行動の意味…それは…
「私達を守るため…?」
天竜人は人間を何とも思っておらず、女や男関係なく自分の楽しみのために弄ぶと知っていたから…その矛先が私達に向かないようにワザと…?……
「いや…そんなこと…」
ない…はず……
だって…男は野蛮で恐ろしい存在だって…
そう、教えられてきた…私達を攫った奴も男だし…今、私達に恐怖を与えているのも男だ……
「ガルるるる!」
「ッ!」
私は慌てて振り返る。
すると、狼が毛を逆立てこちらを威嚇している。
…ヤバイ……
先ほどの一撃で決めるはずだったのだが…どうやら力が足りなかったようだ。
無理もないだろう、元々、まだ小さな子供であり、おさめている武術もまだ、完全に見に付けたものとは言えず…しかも…
「この…檻のせいで力が…」
そう。
この檻は海楼石で作られたものであり、数日前に余興で悪魔の実を食べさせられた彼女達には力を奪うとても厄介な檻なのだ。
「ガウ…」
「「姉様!」」
「キャッ」
私は狼の攻撃を間一髪で避け距離をとるが、間髪いれず、私に襲いかかってくる狼。
そして…
「はぁはぁ…」
ついに檻の角へと追い込まれてしまう私。
「ワォオオオン!」
そして、狼は勝利を確信したのか遠吠えをあげ私へと牙を向け……
「きゃあぁあ!」
私は手を顔の前で組みガードするが無駄であろう……
…私はこんな所で死ぬの?…
そう思いながら目を閉じ…
ーザシュー
鋭い牙が肉を裂く音が聞こえる。
しかし、私には痛みがない……
「あ…れ?」
私が恐る恐る目を開くと、そこには…
「痛ってぇな…」
私の前に立ち、狼に噛みつかれている少年。
左の肩…いや、胸にまで達しているだろうか…大きな口が彼の左上半身にかぶりついていた。
「そろそろどけよ。バカ犬。」
ードンッ!ーガシャン!ー
彼は一瞬、口をはなしかけた狼に右手で力一杯殴りつける。
狼は檻へとぶつかり、倒れる。
「なんじゃろ。生きてたのかえ。この役立たずが。」
ーバシュー
「ッ…」
狼を倒した少年に放たれる鎮静剤。
それは治療目的ではなく、奴隷が暴れないための処置。
ードタンー
少年は鎮静剤を撃たれスグに倒れる。
「そうじゃ、それでいいじゃろ。お前はそうやって地面に這いつくばっているにがお似合いじょろ。これからもわちを楽しませるがよいじょろ。」
そう言って、少年を一瞥し、機嫌良く去って行く天竜人。
奴隷達も素早く、狼を別の檻へと移し立ち去る。
そうして、ここには私達だけとなった。
ービリビリビリー
「「姉様!?」」
「おい!」
驚く妹達とハルキの声。
「ちょっと、黙ってて!」
私は与えられていた水でハルキの傷口を洗い、自らの服を破り、それをハルキの傷口に当てて止血を試みる。
「駄目…布が足りない…マリー、ソニア!あなた達も手伝って!」
「「は、はい!」」
そう言って、妹達の服の布も用い、ハルキの傷の止血をする。
「なんで…君が…」
「そんなこと、どうだっていいでしょ!それに君じゃなくて、私の名前はボア・ハンコックよ!せっかく名前を教えたんだから…死んだら許さないんだからね!ハルキ!」
「「「ッ!」」」
またも、ハンコックの言動に驚く三人。
しかし、それから一番早く立ち直ったハルキはニコリと笑い、
「そっか…ハンコックって言うんだね。良い名前だね。これから、宜しくね……」
そう言って、ハンコックの手を握る。
「…ッ!……うん。しょうがないから…宜しくしてあげるわよ…だから…絶対に死ぬんじゃないわよ…」
ハルキに手を握られ一瞬ビックリしたハンコックだったが直ぐに気を取り返し、その手を握り返し、頑張れ、死ぬな、一緒に頑張ろうなどと、懸命にハルキへと呼びかける。
二人の妹が驚きながら見つめる中、それはハルキが気を失うまでずっと続けられたのだった。