(Side ハルキ)
「あぁ、やべぇ…俺、死ぬかも…」
床に倒れた状態でそう呟くハルキ。
体に力が入らず、起き上がることさえ出来ない。
まぁ、気合いをいれれば、立ち上がることはできると思うが今は少しでも気力と体力を無駄にしたくない。
ーポカッー
「馬鹿なこと言うんじゃないわよ!バカルキ!」
そんなことを考えていると頭上からキツめな口調と、それよりかは幾分か優しめの衝撃が頭に届く。
「ってぇな…一応、俺、重症なんだけど?」
ハルキは緩慢な動作で頭を押さえながら声がかかってきた方を向く。
「あんたが馬鹿なこというからいけないんでしょ!私がせっかく看病してあげてるんだから頑張って生きなさいよ!」
「まぁ、そうだけどさ…というか…」
「なに?」
「ハンコック、お前、そういう喋り方だったっけ?初めて会った時と違うような…」
そう言って、ハルキはハンコックを見る。
血で濡れてボロボロになった服を着ているハンコック。
しかし、その美しさは色褪せず、逆に艶やかしさが強調されているような気がする。
「私は元々こういう喋り方よ。あの時は外海の者と初めて話すから皇帝の喋り方を真似てただけ…」
「外海?皇帝?」
聞き慣れない言葉に首を傾げるハルキ。
「あぁ、そういえば、話したことなかったな、私達は……」
ハルキの近くに座り、ハンコックは自分の過去ー女ヶ島ーアマゾン・リリーでの日々を話し出す。
その表情は楽しそうで懐かしそうで、どこか悲しそうだった。
「あのさ…」
「なに?」
「やっぱり、帰りたいよな?そのアマゾン・リリーにさ。」
「当たり前じゃない!私は…」
「じゃあさ、俺がそれを手伝ってやるよ」
「え…」
「俺だって早くここから抜け出したいしな…一人では無理だけど4人で協力すれば出来るかもしれないじゃん?ま、細かいことは俺に任せろ、楽勝だぜ?」
そう言って、自信を滲ませた笑顔を浮かべるハルキ。
そんなハルキの表情と言葉に呆気にとられるハンコックだったが…
ーポカッー
「いてッ!なんで殴るんだよ。お前はマモリか!」
「あんたが変なこと言うからでしょ…まったく…その自信は何処から湧いてくるのよ、そんなにボロボロのくせに……」
「まぁ、しゃあないわ。ヒーローってのはヒロインが助けを求めてから本気を出すもんだしな……って、痛い…だから、殴るなって。……ったく、なんで俺の周りにはこんな女ばっかり……」
「あんたがバカなことばっかり言うからでしょ?…はぁ……なんで私…こんな馬鹿を……」
「馬鹿を…なんだよ?」
「べ、別にどうでもいいでしょ!私はあんたが馬鹿だって言いたかっただけよ。そ、それよりも!」
「うん?」
「さっき、マモリって言ってたけど、誰なの?そ、その…ハルキにとって……」
「あぁ、そういや会ったことないよな…オークションの時にいたんだけど……覚えてないわな……まぁ…ハンコックたちの話聞かせてもらったし、俺の話もするか……えっと…まず、結論としてマモリってのは俺の幼馴染で、俺の……大切な奴だよ…」
(Side ハンコック)
「…大切な奴だよ……」
その言葉によって私の胸によくわからない感覚が生まれる。
その感覚がなんなのかわからないがあえて言葉にするなら悲しくて、悔しいのになぜか前向きになれるそんな不思議な気持ち……
「でさ……俺はそのおっさんに拾われてさ、それからは兄妹同然で育ってな………」
ハンコックは自分の中の気持ちに戸惑いながらもハルキの話す内容に耳を傾ける。
「…っていうことで、俺は大切な人を守れるようにって言われてな…死にもの狂いで特訓してきたはずだったんだけどな……」
「ハルキ?」
楽しそうに自分のことを話していたハルキだったが急に言葉がつまり、悲しそうな表情になる。
しかし、直ぐに表情を戻し、話しを続ける。
「あ…いや、なんでもない……ま、そんな感じで過ごしてたわけよ。で、いきなり海の底から縄が飛んできてそれに捕まって現在に至ると……まぁ、そこら辺はお前らと似たような感じだよ……って、お前なんでそんな顔してんだよ?」
そう言って、手を伸ばしてくるハルキ。
その手は私の頭の上に置かれ、優しく髪を撫でる。
心地よい感覚にハンコックは目を細めるが………
「……って、何するのよ!」
―パシンッ―
我に返りハルキの手を払うハンコック、その顔に先程までの悲しそうな表情はない。
「いや…なんか…泣きそうな顔してたからさ……」
「…別に私が泣きそうでも…ハルキには関係無いでしょ!」
顔を赤くさせ、ハルキを問い詰める。
その原因が怒りからなのか照れからなのかは明白だが、当の本人達は気づいていない。
「関係あるさ…」
「…え?…」
「だって、一緒にここを抜け出すって言ったろ?だから、俺達は仲間だ。」
「仲間?」
「そう。仲間に悲しいことがあれば自分も悲しくなるし、困っていたら助けてあげたいと思う。ま…ようするに……あれだ、俺はお前らを仲間だと思っていて助けたいと思ってるってこと…だから……これからよろしくな」
ぶっきらぼうにそう言って、差し出される手。
私はそんな子供っぽい動作をする彼がとても可愛く思えて…
「クスッ……しょうがないわね。あんただけじゃ頼りないし、私もあんたを守ってあげるわ。ってことで、よろしくね。」
笑いながら差し出された手を握り返したのだった。