それは糞寒い大晦日、格闘技にも、歌合戦にも興味のない俺は楓とで、近くで催されているカウントダウンに参加するために、歩いていた。
「遠いなぁ。」
俺は愚痴を漏らす。
「んっっ。」
楓から何かが投げられた。携帯カイロ。まだ温かいが少し硬い。
「お前の分は。」
「三つ持ってる。」
そっけない返事が返ってくる。楓はコートのポケットの中でもぞもぞとカイロをほぐす。
「会場どこだった。」
「城跡公園だろ。」
寒さで、二人の口数も少なくなる。
♪〜〜〜♪〜〜
天の携帯が鳴った。
カチャ
ワンタッチで携帯を開けると
「天かや。今、壊亜属公園で初日の出待ちでたき火をしておるのじゃが、こんかや。楓も一緒じゃろ。」
「お前ら二人なのか。」
「あぁ、流石に話題に困っての。野郎二人じゃな。」
「ちょっと待てってな。」
天は携帯から耳を離すと、楓に事のいきさつを伝えると、そっちの方が面白しろそうじゃないかと。言ってそちらに向かうことにした。すると、サイドカーのついた大型バイクに乗った壱が、二人を迎えに来た。
「ちょいと、荷物か多くてな。海外旅行行っておる。翼猫から借りた。」
「小柄なぬしらでは二人ともここに乗れるじゃろ。かなり、密着はするがの。」
「・・・・・・」
ふたりは、黙ってしまった。
「わかった。わかった。どちらがわっちにくっついて、行くのじゃ。」
「僕が乗るよ。」
天はサイドカーに乗って、楓は、壱にくっついて利家が一人で火の番をしている。海賊公園横海岸へ一直線に向かう。
「着た、来ちゃ」
大男が一人火の番をしていた。横には、流木を集めた薪の山と、発砲スチロールが2箱。そして、五徳と金網・醤油と海苔。
「餅でもあるのか。」
「餅と言わず鮨と刺身もあゆぞ。」
「わっちが創ったじゃがな。」
「俺が、釣り上げたのだがな。」
利家と壱の漫才は続く。
楓と俺は吹き曝しのバイク凍えきった手を温める為に、火に当たる。
「餅でも食うかや。」
壱はスチロールから餅を足り出して行った。
「食う・喰う」
「貰う・貰う」
そんな感じで、馬鹿な話に興じていると、利家が腕時計(G―SHOCKの海外モデル
デジタル電波時計)
「十・九・八・・・」
と数え始めたそれのほかの、三人も一緒に数え始める。
「四・・三・・」
利家は、腕時計をしていない方の手をポケットに入れる。
「・・一。」
「ハッピーニューイヤー。」
ポケットに入れた三つのクラッカーの糸を一気に引きながら、利家は叫ぶ。
ゴトッッゴト
壱は、スチロールの中から利家が釣り上げた。活きのいい鮮魚を(スチロールの中に海水を入れて水槽にしていたので、まだ生きている)取り出し、もうひとつの方から出した長い長い刺身包丁とまな板と皿、手際良く壱は捌いていく。
数分後には、旨そうな刺身が出来上がっていた。
そして、天の楓は部活仲間等の年賀メールでせわしなく蠢いていた。
「見ないのか。」
楓は聞くと
「食べる方が先だよ。」
と差し出された。割りばしで一斉に刺身をつつき始めた。
その未読メールでこの年始の歯車がずれ始めることとなった。