小説『絆の決闘者と夜天の主』
作者:吉良飛鳥(自由気侭)

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 時と次元を越えた親子の再会。
 沙羅は兎も角として、遊星も目の前の女性が自分の母親で有る事を疑っては居なかった。

 理屈ではないもっと本能的な、『親を見分ける子供の直感』とも言うべきモノが遊星に告げていたのだ。
 『此の人は俺の母だ…』と。

 「本当に大きくなったね遊ちゃん…ううん、此れ位だと遊星の方が良いかな…」
 「どっちでも、母さんが呼びたいように呼べば良い。」

 だから2人に時間と次元の距離は無く、既に親子としての会話が成り立っている。
 此の辺りの柔軟性と言うか、そう言うものは『血』の繋がりを実感させるものが有る。

 そんななか、

 「あの〜KYやとは思うんやけど一つ聞いてえぇ?」

 ちょっとした疑問を投げかけたのははやてだった。









  遊戯王×リリカルなのは  絆の決闘者と夜天の主 クロス11
 『闇の書の真実』









 その疑問に誰よりも早く反応したのは勿論遊星だ。

 「如何したんだはやて?」
 「いや、あんな?遊星のママさん…えっと…」

 「沙羅よ。不動沙羅、ヨロシクね。」

 「御丁寧にどうも…あ、私は八神はやて言います。以後ヨロシク…」

 なんとも奇妙な自己紹介になってしまった。

 「それで、何が気になったんだ?」
 「その、こんな事聞くんは失礼や思うんやけど、沙羅さんて歳いくつなん?如何見ても20代やん!大凡19歳の息子がおる母親には見えへんのやけど……」

 はやての言う事は実はヴォルケンズも思っていた。
 遊星の母親だという沙羅は如何見ても20代、行っていて三十路といった所だ。
 対して遊星は19歳……如何考えても年齢が合わないのだ。

 「あら、いいわよ別に歳くらい隠す事じゃないし。私は27歳。」

 何と本当に20代だった。

 「27歳か〜。そうなると遊星は8歳の時の子供……って、んな訳あるかい!!!」

 「うわ、本物のノリ突っ込みだよフェイトちゃん、アリシアちゃん!」
 「は、初めて見た。」
 「言葉で思ってたけど、流石は関西人♪」

 「うっさいわ、其処ぉぉぉ!!!てかオカシイ思ったんは私だけかぁぁ!!何で皆普通に接してんねん!!!」

 初対面だというのにはやてと、なのは&テスタロッサ姉妹の漫才的やり取りは何と言うか息が合っている。
 此れも魔法関係者と言う共通点のなせる業か…(謎)

 で、此のはやての疑問に答えるのも勿論遊星だ。

 「落ち着けはやて。多分こう言う事じゃないか?
  俺と母さんは同じ世界から此処に飛ばされたが、母さんが飛ばされたのは、俺の感覚で言えば18年前なんじゃないか?」

 此れを確定させるは沙羅、流石親子である。

 「その説で正解。私が飛ばされたのはモーメントの暴走事故の時なの。その時の遊星は1歳の赤ん坊だったもの。」
 「…モーメントの暴走事故『ゼロ・リバース』の時だったのか。それから18年経って、俺が此の世界に飛ばされた。
  だが、俺と母さんが飛ばされた時は違うが、飛ばされた先の時代は同じだったと言う事なんだろうな。」

 最強は、親も凄かった。
 年齢差の矛盾をとっくに看破していたのである。
 此れには一同唖然……プレシアとリンディですら『あらあら』と言わんばかりの表情だ。

 「あ、相変らず凄い洞察力だな遊星。」
 「マッジで何モンだよお前…」
 「凄いわ遊星君…」
 「うむ、流石だ…」

 ヴォルケンズも驚き賞賛するしかなかった。(ザフィーラは妙に納得しているが…)

 「……そろそろ本題に入っても良いかい?」

 此の妙な空気に入ってきたのはクロノ。
 実直・真面目な執務官としては早いとこやる事を済ませたかったらしい。

 「あぁ、構わない。」
 「遊星に色々聞きたい話は有るけど、それはあとにするわ。」

 で、それに同意の不動親子。
 この辺も矢張り『血』がなせる業か…

 「それじゃあ立ち話と言う訳にも行かないでしょうから、こっちにどうぞ?」

 プレシアの案内で一行は箱庭内にある建物の中に。
 因みについ此の間まで西洋風だった建物も、日本庭園にあわせてすっかり和風屋敷になっていたことを追記しておく…


 ついでに、はやてと、なのは&テスタロッサ姉妹は同い年である事からすっかり打ち解けていた。
 その背景に、先程の漫才的やり取りの存在があるのは否定できない…








 ――――――








 一行が案内されたのはそれなりの広さの茶室。
 遊星とはやては日本風の屋敷と、日本庭園の概観から『茶室くらいはあるだろう』と思っていたので驚いていない。

 が、なのは&テスタロッサ姉妹は、否もしかしたらと思っていたがまさか本当にあるとは思っていなかったので驚いた。
 それでも、先の『時の箱庭日本庭園化』で納得したのか、或いは面倒くさくなったのかは謎だが、誰も突っ込みはしなかった。

 何時の間にか服装が『和服』になっていたプレシアもスルーの方向で。


 と言うか事情聴取が無ければ今にも茶会が始まりそうである…
 まぁ流石にそうはならずに今はクロノとリンディが話を聞き、エイミィが記録しているのだが。

 「闇の力を持ったカードと、他者を操る力を持つ者か…」
 「あぁ、その2つに関しては間違いない。だが、俺の考えが正しいとしたら更に恐ろしい力が目覚める可能性がある。」

 此の間の戦いの事を話し、その上で遊星は更なる脅威の可能性を示唆する。
 勿論誰もがそれに反応する。

 「あ、アレよりも凄いのが出てくるの!?」
 「ダークシンクロモンスターだけでも強敵だったのに…」

 実際に対峙し、全く歯が立たなかったなのはとフェイトは勿論、

 「お前が其処まで言うとは、それは一体なんなのだ?」
 「てか、まるで戦った事有るみてぇだな?」
 「そないにおっかないのがおるの…遊星?」

 シグナムも驚き、ヴィータは遊星と敵の関係を考え、はやては心配していた。
 いや、口にこそ出さないがシャマルとザフィーラも同様だろう。
 沙羅は……言わずもがな。

 「あぁ、他者を操り、ダークシンクロを従える相手がもしも『ダークシグナー』なら、その後ろには『地縛神』の存在がある。」

 「「「「「「「「「「「「「「「地縛神!?」」」」」」」」」」」」」」」

 聞きなれない言葉に全員が疑問符を浮かべる。
 遊星は出された茶を一口飲み其れに答える。

 「俺の世界ではナスカの地上絵に封印されていた太古の邪神だ。
  そしてその邪神と戦う為に力を与えられた者が、俺に有る様な『赤き竜の痣』を持つ者…『シグナー』だ。」

 「ナスカの地上絵って確か…」
 「飛行機にでも乗らんと全体像が把握できないほどのおっきな絵やん!」

 地球出身のなのはとはやては勿論ナスカの地上絵の事は知っている。
 だからこそ驚きも一入なのだが、なのは…引いては時の箱庭&アースラ組は更に別の事が気に成っていた。
 それは遊星が言った『地上絵に封印されていた太古の邪神』と言うもの。
 言葉通り取るならばそれは…

 「リンディ、プレシア…此れって…」
 「えぇ…先ず間違いないわ。」
 「予言は、当たってた…」

 聖王協会の予言騎士よりもたらされた予言の内容に符合していたから。
 勿論そんな事は知らない遊星&八神家の面々は『予言て何?』な状態だが。

 「あぁスマナイ、此れの事だ。」

 妙に空気を読んだクロノが予言を渡す。
 普段から『色々』と凄い面々に囲まれてると、成長するらしい……人間的に。

 「………此れは、確定だな。『地に縛られし邪神』とは、つまり『地縛神』。赤き竜の使いは俺で星屑の龍は『スターダスト・ドラゴン』。」
 「夜天の主は、きっと私やね。せやけど…祝福の風て何やろう…」

 見せられた予言の内容は、今までの遊星の話から大部分の事が分かってきた。
 だが最後の一行に記された『祝福の風』が何を指すのかが分からない。

 「…闇の書の管制人格…」

 だが其れが一体何なのかは、意外にも普段寡黙で滅多に喋らないザフィーラの一言で明らかに成る。

 「管制人格って……あぁ、あの子…」

 此のザフィーラの(非常に貴重な)一言は、シャマルが同意した事で図らずとも『それだ』と思わせることに。

 「成程な、まだ目覚めていない彼女か…」
 「え〜っと、管制人格て何?話が見えへんのやけど…」

 シグナムもそれに同意するもはやては『?』な状態。

 「あたしは良く覚えてねーんだけどさ。魔力蒐集をして闇の書が400項超えると、主の認証で人格が起動するみてーなんだ。
  簡単に言えば、特定条件下で目覚める5人目の『騎士』なんじゃねーかな?」

 「そうなん?」

 「はい。ヴィータの言った事で間違いはありません。そして闇の書の全項…666項全てが埋まった時にその姿を表すのです。
  尤も、主はやてが蒐集を禁じたので言う必要も無いと思い伏せておいたのですが…申し訳ありません…」

 「あ〜、私が蒐集したらアカン言うたんやからシグナムに責任は無いて。…せやけど此の中にもう1人おるんか…」

 此れにはやても悩む。
 闇の書の中にもう1人居るのならば何とかして目覚めさせたい、だが他者に迷惑は掛けられない。

 「その管制人格とは別に魔力蒐集は何らかの形で行った方が良いわね。」

 そう考えていた矢先にプレシアが『魔力蒐集』を勧めてくる。
 遊星と八神家は揃ってプレシアを見るが、見られたプレシアは只冷静にその真意を述べる。

 「その子…八神はやてちゃんだったわね?貴女の足の病気は全て闇の書が原因と見て間違いないわ。」

 「「「「「「!??」」」」」」

 「貴女は類希な魔力を秘めているわ。それこそフェイトやなのはちゃんをも遥かに上回るほどのね。
  だからこそ『闇の書の主』となったのでしょうけれど。でも、今の貴女は闇の書に一方的に魔力を吸い取られている状態よ。
  そう、本来ならば闇の書を完成させるために必要な魔力を蒐集していないから、所持者そのものから魔力を吸い上げているのよ。
  そのせいで、貴女の身体は少しずつその機能を低下させている…此のままでは1年以内に貴女は死んでしまう…」

 全く予想だにしなかったはやての身体の真実。
 それ以上に、はやて自身が自らの首を絞めていた此の状況。
 が、そんな中でも遊星は慌てない。

 「なら蒐集をすれば良い。勿論人に迷惑が掛からない方法で。」
 「人に迷惑が掛からない方法なんて…そんなん有るん!?」

 「有るさ。闇の書を魔力蒐集を行う状態にしておいて、俺のモンスターやシグナム達で『魔法攻撃』をしてその力を集めさせれば誰にも迷惑は掛からない。」

 「成程、その手があったか。」
 「リンカーコアの蒐集にばっかり捕らわれていたわね〜…」

 まさかの遊星の提案だが、理屈は確かに通っている。
 此の方法なら、誰にも迷惑をかけることなく魔力の収集は可能だ。

 「やるわね遊星。流石は私の息子。」
 「本当に…でも遊星君が言った事は正しいわ。
  闇の書は本来、持ち主と旅をしてあらゆる魔法や技術を蓄積させていく危険性皆無の魔導書だったんですもの。」

 「な、其れホンマですかプレシアさん!?」

 至極普通に、しかし思いがけない一言にはやては反応する。
 『闇の書』と言う名前に疑問を持っていたの矢先にその理由が分かるかもしれないのだ。

 「知っているなら教えて欲しいな。」

 遊星もまた然り。
 兎に角情報はあって困るものではない。

 「調べたのは私じゃなくてスクライア族の少年よ……残念な事に『闇の書』の本来の名前までは分からなかったけれど。
  本来の機能はさっき言ったとおりで危険性は全く無かったのよ。でも過去の持ち主は其れだけでは満足しなかった。
  あらゆる物を記録・蓄積する能力に目をつけて、欲望のままに悪意ある改変…改悪を施していたの。
  そして、度重なる改悪の結果、書は本来の機能に重大な障害を抱え、持ち主にまで害をなす危険なロストロギアと化したわ。」
 「あ、ユーノ君が調べてたんだ…」

 「欲望のままに改悪か…」
 「そんな…悪いのはその人達やん!それなのに闇の書やシグナム達が危険視されんのは理不尽や無いか!」

 プレシアが語った真実に遊星はやりきれない顔をし、はやては怒りをあらわにする。
 いや、はやてだけではない口にこそ出さないがなのはもフェイトもアリシアも、果てはアルフも怒りを覚えていた。(アルフにいたっては尻尾が逆立っていた)

 「決めた…遊星の言った方法で私は闇の書を完成させる!そんで闇の書の呪いみたいなんも纏めて吹き飛ばしたる!!」

 決して激情から来る一時の気の迷いではない。
 幼いながらも、はやては心から改めて決意したのだ闇の書の『真』の主となる事に。

 「主はやて…」
 「はやてちゃん…」
 「主…」
 「はやて…」

 ヴォルケンズもはやての決意に、新たに自らも決意する『この心優しい主を何に変えても護る』と…

 「必ずやり遂げよう。俺達が力を合わせれば絶対にできる。」
 「私も協力するよ、はやてちゃん!」
 「私も。」
 「フェイトがやるってんなら、アタシが力貸さないのは嘘だよね〜?」
 「私には魔力は無いけど、出来ることが有れば力を貸すよ!」

 遊星だけでなく、なのは達も力を貸すと言う。
 更に、

 「僕も協力しよう。否、寧ろさせてくれ。」

 「「クロノ!?」」
 「クロノ君!?」

 予想外にクロノが協力を申し出てきた。
 確かに協力者は居た方は良いのだが、ヴォルケンズからすると少々腑に落ちない。
 本来なら、取り締まる側の管理局員だから仕方が無いのだが。

 「さっきプレシア女史が言っていた改悪をした人物の中には歴代の管理局員が相当数居るんだ。
  罪滅ぼしなんて偽善的な事は言わないが、闇の書の『安全な完成』は管理局の膿を出すのに役に立つかもしれない。」

 「成程な。」

 あくまで組織の透明化が目的と言うクロノにシグナムも納得する。
 目の前の少年は、否リンディもエイミィも手前勝手な『正義』を謳う存在ではないと思ったようだ。

 「ならばその申し出、ありがたく頂戴するぞ執務官。」

 全くもって即断。
 そして目には見えないが、此の場で全員に確かな『絆』が紡がれたのは間違いなかった。

 「凄い子達…」
 「本当に。」
 「私達も頑張らないとね。」

 それを見た大人組も自分達がすべき事を考えていた。



 そんな中、

 「あの、艦長…」
 「エイミィ如何したの?」

 今まで内容を記録していたエイミィが話しかけてきた。
 その理由は、

 「たった今、聖王協会の方から新しい予言が…モニターに出しますね。」

 新しい予言が端末に届いたのだ。
 直ぐに宙の光学モニターにそれを表示する。


 そして現われた予言は…


 『邪神の鼓動は高まり、何人にもその復活を止める事は叶わず、7つの厄災は滅びを与えんと動き出す。
  時同じく、赤き竜の使いと夜天の主は新たな力に目覚め、7体の邪神は塵と化す。
  されど、厄災は終わらず、究極の邪神が目覚め闇も祝福もその身に取り込み破壊を撒き散らす。
  新たな赤き竜の戦士目覚める時、白銀の龍騎士が邪神を滅せんとその姿を現すだろう…』


 前回とは大きく異なる予言。

 だが、遊星だけは此の予言の意味するところを漠然と理解していた。


 ――7体の邪神…全ての地縛神が復活するのか!?
    そしてそれ以上に……此の世界にも、いや、此の世界の『シグナー』が覚醒すると言うのか…


 あくまで推測だが、それはあながち間違いでは無いと遊星は思っていた。








 ――――――








 ――同刻ミッドチルダ・時空管理局の地下


 「新たな予言が出ましたね。しかも此れは…」

 巨大な地下施設内で男は新たな予言の内容に目を通していた。

 「此の世界のシグナー。遊星、君の使命はそのシグナーの力を引き出す事です。」

 そう言い、祭壇に置かれた白紙のカードを手に取る。

 「そろそろ私も動くとしますか。遊星、私を見たら君は何と言うのでしょうね…」

 その時の光景を思い浮かべ、男は顔に笑みを浮かべると転送装置で何処かへと消えたのだった。
















  To Be Continued… 

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